novel2012 | ナノ


一歩を踏み出す勇気




 正反対の二つのものが惹かれあう法則。
 磁石のN極とS極、性癖のサディストとマゾヒスト、誠実と不誠実。
 だから故に、オレは不誠実なアイツに惹かれているのだろうか。


 俺の膝に対する違和感は中学時代から少しはあったが、致命的なダメージを受けなかったが故に故障はしなかった。
 だが、高校に入って、作ったバスケ部で、故意なのだろうか偶然なのだろうか、本人は偶然を主張するし仲間は故意を主張する。
 恐らく前者なのであろうが、一年間バスケができないという深い傷を負った今でもその相手に対しての恨み事など感じなかった。
 それどころかどうしてだろうか気になる、不思議なことにな。
 アイツのバスケに対する態度は好きではないが、アイツにとってそれが正しいのであれば俺の意見を押し付けることはできない。
 味方が同じ目にあうことは勘弁してほしいが。


「それって、お前若干メサコンなんじゃねーの?」
 俺に怪我を負わせ入院させた本人は椅子に腰を下ろしそう言った。
 律儀に毎日お見舞いにくる辺り、どうも憎み切れない。
「メサコン?」
「メサイアコンプレックス。専門学者じゃねえ俺は断言できないし正確に意味は理解できていないだろうけど、簡単に言えば『他人を助けることで自分は幸せだと感じる』って思い込む人物に対して使われる。お前はそれに近いような気がする」
「……そういうとこが、多分俺がお前を嫌いな理由なのかもな。お前だけじゃなく。いい子ちゃんの押し付けは常に好意的に受け止められるわけじゃねえよ」
 自分を幸せにしないお前が、他人を守るだなんて反吐がでる。
 花宮はそう言い切った、俺を憐れむような眼で見て。
 そんな花宮の一面に、思わず心臓を鷲掴みにされた。
 正直、自分にそんな目線を投げかけられたのは初めてで、いや、日向もソレも似たようなものだったけれど。
 悪童と呼ばれむしろ非好意的に見られている花宮のその表情に。
 なんとも言い難い複雑な感情が芽生える。
「難しいな、それは」
「俺も専門家じゃねーしわかんねーよ。言葉だけ知ってるようなもんだ。薀蓄語るつもりはねー、けど」
 花宮は立ち上がり俺のベッドに腰を下ろして薄く笑った。
「お前は一人じゃ、生きられないんだよ。幸せにもなれねえ」
 そう呟いて俺の目を視る花宮は、今まで見たことのないような。
 何処か壊れてしまいそうな不安定さが見えた。
 元々その傾向は感じていたが今回、改めて実感する。
 そして勝手に思う、俺は花宮のいうメサイアとかいうものなのかも知れない。
 けれど、それとは違う感情で、花宮を助けたい。
 そして、俺を見てほしいと思う。
 自意識過剰でなければそれはきっと、花宮も同じ。
 だけど、きっとプライドの高い花宮からそんなことは言わないだろう。


 嗚呼、まったく世の中っていうのは理解できないな。
 花宮の言葉の裏返しは、俺と二人なら生きられる、幸せになれるということだろうか。
 いわば共依存かもしれない、だけど。
 おそらく俺たちは惹かれあっているのだろう。
 ならば、あと必要なものは一歩を踏み出す、その勇気。
 手を伸ばせば、届く距離。
 だけど今はこのままがいいのかも知れない、そう、触れてはいけない部分に触れてしまってはいけないから。
 だけど、それを繰り返してしまっていたら、きっと距離は縮まらない。
 あと一歩、伸ばせばそこには。
「はな、みや」
「なんだよ、木吉」
「……正反対と思っていたけど、案外似たものかもしれないな、って思ってな」
「ふはっ、お前と同じはお断りだ。バァカ!」
 少し嬉しそうに微笑む心に思う人の姿があったりするもので。


 世界は何一つ変わらないけれど、俺達の距離は少し近づいただろうと思い馳せ眼を閉じた。





 大変お待たせしました!
 匿名さまリクエストの木花で両片思いです。
 木吉がメサイアコンプレックスなんじゃないかと思っているのは私だけでしょうか。
 どうも理想先走り系な感じがします、つまり共依存者。
 でも依存はしないというか強がりなような。でも助けたいという依存。
 そんな木吉だったら花宮と惹かれあうんじゃないか、無意識に。
 ということで両片思いな木花、珍しく木吉視点です。

 以下コメントレス。
 更新再開できました、ただいまもどりました!
 おかえりなさい、という言葉とても嬉しいです。
 これからもマイペースながらも更新頑張っていきますね!
 ぜひぜひ応援よろしくお願い致します!
 フリリク企画参加ありがとうございました!


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 ご閲覧ありがとうございました!

 2012.10.31 弥深(title by 確かに恋だった)


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