novel2012 | ナノ


あなたの海へ私は沈む


 一か月程前から、妙な気配を感じることになった。
 多人数でいる時には監視するかのような視線、一人で居るときには値踏みされているような気持ちの悪い視線と感覚。
 気持ち悪いものの、気のせいかと思い特に誰にも言わずに過ごしてきた。
 幸い、鋭い伊月やカントク、恋人である木吉にも様子が可笑しいとは指摘されなかった。
 二週間程前、母親から俺宛てに郵便物が届いていると告げられた。
 心当たりは一切なく、差出人の名は不明。
 切手の上の消印に明記されているのは埼玉の文字。
 なんで埼玉から東京に態々?
 不審物、に違いないだろうと俺は開封しないことにした。
 しかし家族の目に触れて万が一のことが遭ってはいけないと判断しスポーツバッグに放り込んだ。
 その後は何も家に不審物は届かなかったものの、鳴り続ける携帯電話に悩まされる。
 非通知でばかりかかってくるので拒否登録をした、すると知らない番号から何度も何度も嫌に成る程にかかってくる。
 その番号を着信拒否しても、また違う番号からかかってくる。
 繰り返されるそれが嫌になり、携帯の電源を入れるのをやめた。
 着信拒否にしていると音はならないが、着信があった事実はディスプレイに表示されるからだ。
 バスケをしている時が一番安心した。
 一人になることはまずないし、不安要素が一切なかったからだ。
 なのに、なぜか、少しずつ。
 カントクや、伊月や、コガや水戸部、恋人である木吉までに恐怖を感じるようになってしまった。
 心配はないはずなのに、どうして、どうして。
 俺は疑ってしまう? 恐怖を抱いてしまう? 誰に話せばいい?

 今日は何日だったっけ、なんてぼーっとしていると。
「日向くん」
「っ! あ、カントク。えっと、どうした?」
 カントクに声をかけられて思わず体が跳ねる。
「どうしたじゃないわよ! 最近様子があまりにもおかしいから心配してんのよ! それに何かに怯えているようにも見えるし……シュートだって此処一週間一本も決まってないじゃない。気にしない方がおかしいわ。言いたくないなら言うまで待とうってみんなで言ってたけど無理。このままじゃ日向くんが壊れてしまいそうで怖いわ」
「いや、え、その、悪い、別に、なに、も」
「最近体重も減ってるし、睡眠時間も減ってるんじゃない? 食事をとれない程に何かに悩まされているの?」
「……」
「言いたくないなら、無理には言わせないわよ。でも、それで他のみんながとても心配してる。特に鉄平は……アイツの調子までおかしくなってるのよ」
「え?」
 ……話さないことで不安にして、アイツまで可笑しくなられちゃ困る。
 こんな時だからこそ、一番頼らなければならない相手なのに。
 好きだから故に巻き込みたくなくて。
「ありがとな……リコ」
「え、あ、う、うん!」
 俺はカントクに礼を言うと、木吉が居るであろう場所へと走り出した。

 屋上。
 何かに悩んでいるときにお互いに其処で甘えることは多かった。
 だから、多分此処にいるだろうと思い、階段を駆け上った。
 息を切らし、扉を開けて見渡す。
 すぐに、愛しいアイツは見つかった。
「木吉っ!」
「日向!!」
 俺の姿が視界に写ったのか、ぼんやりと座っていた木吉は此方へと走ってくる。
 そして力強く、とても大切に扱うように俺を抱きしめた。
 震える体から、伝わる愛しさ。
 最初から、頼っていればよかったんだ。
 そう思いながら力いっぱいに抱きしめ返す。
「最近、日向が、思い詰めているみたいで、すっごく不安だった」
「ごめん、木吉。俺、その、ちょっと……色々あって」
「言わなくてもいいさ。たださ、頼ってくれ、俺を。日向に何かあったらとても怖くてたまらない」
「……ダァホ、いや、それは俺か……」
 こいつの大きな背中はとても安心して、とても強く頼もしく。
 如何にコイツに支えられているのかに気付く。
 そして、もっと早くコイツに、みんなに、頼ればよかったと。
「鉄平……甘えてもいいか?」
「当たり前だ! いくらでも甘えろ! 今日は離さないぞ!」
「うがっ! 力入れ過ぎだダァホ!」
「すまん! こうやって俺の隣で笑ってくれてる日向って久しぶりだなって嬉しくてさ」
 こうやって、隣で居てくれる存在がいるだけで、幸せで。
 改めて自分が鉄平をどんなに大好きかと気づく。
 本人には、言ってやらねえけど。
 空は屋上に写る、三つの影を見ていた。

 それから。
 コガとツッチー、一年三人は思い切り抱き着いてくるわ、火神にすら心配されてたし水戸部はほっとしたように微笑んでいた。
 リコには練習メニュー五倍にされた、心配かけたのだから当然だと言われた。
 笑いながら、伊月もそれにフォローをいれつつも同意し、おまけにダジャレを言うのでいつものように鋭く突っ込んだ。
 黒子はやっと一安心です、と小さく微笑んでいた。
 すっかり奇妙な出来事はなくなり、携帯電話も普通に使用している。
 隣に木吉が居る限り、バスケ部のみんなが居る限り、俺は一人じゃないし。
 頼りたいときに頼ればいいってことに、気づけたから。
 やっと、いつもが、戻ってきたんだ。




 開封していない郵便物の存在に、気づかないまま――。




 大変お待たせしました!
 匿名さまリクエストで木日で日向にストーカーです。
 この場合木吉がナチュラルストーカーなギャグにすべきかシリアス真剣ストーカーでヒーロー木吉でべた甘のどちらにするか悩んだ結果。
 少し意味深な終わり方になりました。
 あ、丸投げしたわけではないんです、はい。
 ちゃんと後日談というか続き(とは言えない)ものはあるのですがそこは想像にお任せするということで。
 一応伏線をチラリとは貼っているのでもしよければそういった面もお楽しみくださいませ!

 以下コメントレス。
 サイト更新再開祝いの言葉嬉しいです、ありがとうございます!
 私なんぞの作品でも楽しんでいただけるのならば、それは私にとっても楽しく嬉しいことです!
 リクエストの木日、もしこんなリクエストじゃない!とのことであれば言ってくださいね。
 ギャグテイストやシリアスヒーロー希望だったのでしたら申し訳ないですので。
 CPは何でもと最初に自分で言っていたし、木日はサイトでも取り扱ってますので全然問題ないですよー!
 はい、無理せずに頑張っていきますね!
 応援の言葉、フリリク企画参加ありがとうございました!


 お持ち帰り、返品はリクエストされた匿名さまのみ受付です。
 ご閲覧ありがとうございました!

 2012.10.23 弥深(title by DOGOD69)

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