もしも君が、僕に殺してくれと頼んだら、僕は迷わす君の首に手をかけていたのかもしれない。
そんなことよりも楽で苦しまない殺人方法なんていくらでもあるのに、僕の頭にぽんっと浮かんできたのは魔法でもクスリでも飛び降りでもなく、窒息死だった。そんなことに喜ぶわけもなく、僕は理由を考え出した。
その時出した答えは、君の苦しむその赤く染まる肌や、いつもは形の良いまゆげがきつく歪められて眉間に皺ができ、そして目は固く閉じられる、そんな君がみたかったから。なんて卑屈な考えだったんだろう、僕は初めて自分自身を軽蔑した。
でも、今目の前にある君の泣き顔は、ちっとも快感に結びつかない。どうしてだろう。ただ、胸が痛いんだ。
「セブ...どうして...」
怯えたような顔をして涙を流し、真っ赤な髪の毛を乱して僕を見上げる君と、隣にある生物だったもの。そしてそれにまだ杖を向けている僕。
これは闇の帝王の命令なんだと言い聞かせながら、僕はリリーにも杖を向ける。
「エバンズ」
本当なら、リリーと昔のようにリリーと呼んで抱きしめたかった。手を握って、ここから連れ出したかった。でも今僕たちは間違いなくデスイーターと騎士団で、プライベートだとか公的命令だとか関係なしに僕は彼女を殺す義務があり、彼女は僕から逃げる権利がある。
「321で逃げろ。全力疾走しろ。魔法は当てないから」
君は目を見開いて、今度は悲しみに眉を垂れながら頷いた。
「3、2、1」
小声でいち、とちゃんと発音した途端、彼女の足が動き出す。周りに人がいないことを確認してから、彼女にかすり傷一つ与えないようにセクタムセンプラやクルーシオを放つ。
近くにあったファンシーな装飾がゴテゴテっとしてあるメリーゴーランドや、黒と白の面積が異常に多いお化け屋敷が壊れるのなんて気にも止めないまま、僕は呪いをはき続けて君を守る。
遊園地の外に一歩出たら、もうデスイーターはいない。だから、早く、リリー、早く逃げてくれ。
お土産用のお菓子や、大きいぬいぐるみ、たくさんのステーショナリーが整然と並んでいるいつもなら買物袋を持った人々で一杯のショッピングモールを抜けるtl遂にゲートがある。
花壇を踏み散らかすことも、噴水にローブが濡れることも、逃げ出す時に邪魔だと思って置いたのだろう着ぐるみの頭を蹴飛ばすことも苦にはならない。
「リリー!」
ゲートから出た彼女は振り向いて、泣きながら笑った。
ああ、その表情が僕は見たかったのかもしれない。苦しむ顔もいいけれど、一番は笑顔なんだと、僕はあこの時に理解した。
吸い寄せられるようにメインストリートの方へと向かう僕の背中に、ぽつりと一言、ありがとう。と聞こえた気がした。