「……………」
「……………千鶴」

ふい、と背けられた視線は一向にこちらに向けられない。

「………千鶴」
「メール、受け取って頂けますか。私は早くご主人の所に戻りたいんです」
「俺の主人に対する説教だろ?受け取りたくねぇなあ」
「………」

俺の主人と千鶴の主人は、少々年の差がある恋人同士だ。
普段はそりゃあ仲が良い二人だが、時たまこうして派手な喧嘩をする。まあ主に怒ってんのは、千鶴の主人なんだが。

「きちんと役目を果たして下さい」
「これでも結構真面目なんだぜ?今日だってメールも電話も何件も繋いだしよ」
「…女性からのものも、ですか」

ようやく向けられた視線は酷く冷え込んだもので、いつものやわらかさは欠片もない。
呆れたようにため息をついて、千鶴は続ける。

「喧嘩の原因がそれだって、お分かりでしょう?どうして私にわざわざ伝えるんです」
「誤解だからだろ?」
「…はぁ。別にご主人は、単純に女性と連絡を取ることに対して怒ってるんじゃありません」
「そこら辺の理解や線引きは、しっかりしてるもんな」

そう。こいつの持ち主はこいつとよく似た性格で、普段はそう我が儘を言わないし学生と社会人の差異だってきちんと理解している。
だが、そんな性格だからこそ溜め込んで溜め込んで、ふとしたきっかけで爆発させてしまうんだろう。

「お仕事や付き合いで女性と関わるなと言う方が無理です。ご主人だって、学校に男性のお友達がいますし」
「ああ」
「それでも、です。久々に会えるのに遅刻してデート中も電話やらメールやら。相手がどなたか存じませんが、スピーカーから聞こえて来たのは女性の声でした」

じわじわと、冷え込んでいた視線が温度をともしていく。
寂しい、切ない。頼って欲しい、見つめて欲しい。一緒にいるんだから、傍にいるんだから。
小さく泣くような千鶴の主人の―――千鶴の、言葉が響く。

「主人が隠し立てしてたのは悪かったよ。妙な所で不器用だからな、勘弁してくれや」
「…理由」
「あ?」
「ちゃんと、理由教えて下さい。」

きゅ、と握られた裾に思わず口角が上がる。
俺は心中で謝りながら、電話の相手が千鶴の主へ贈る指輪を買った店のスタッフであることを明かした。





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