「神童のこと、好きなの?」
夏が近づいた暑い日差し。少しも体を冷やしてくれない生暖かい風。髪をじっとりと濡らす気持ち悪い汗。
こうして休んでいられるのもあと少しだと告げる時計の文字盤を恨めしく思っていると、聞き慣れた声がそう言った。
「な、に…」
「だから、神童のこと、好きなのかって」
一瞬、あまりの暑さに自分の耳が狂ってしまったのかと思った。だけど、どうやら耳は通常通りに機能しているらしい。
「…いきなり、どうしたんだ」
「別に?いつも物欲しそうな目で見てるからさ」
「え…」
「なに、無自覚だった?」
羨ましいぐらい大きな目を楽しそうに細めた悟から、思わず目をそらしてしまった。これじゃあ、はいその通りです、と言ってるようなものだ。
「そんな、こと…」
ほんとに、本当にそんなつもりは無かったのだ。神童とはファーストチームとセカンドチームのキャプテン同士、顔を合わせる事も多かったが、それがまさか、そんな風に見られていたなんて。
「好きな訳じゃないんだ」
「ああ」
悟の目が、疑うような、真剣な目になったのに気付いて、ぞくりと肌を逆撫でされたような気分になった。
「神童には、憧れている。同じキャプテンでもレベルが違う。ただそれだけだよ」
今度はちゃんと目を見て言えてなんだか無駄にホッとしてしまった。嘘は言っていない、本心なんだから。
それでも何か気にかかるのは、悟が未だに満足のいかない顔をしているからだ。
「じゃあ、恋じゃないんだ」
「な…当たり前だろ…!」
思わず声を荒げてしまって、慌てて声を落とした。
こんなことで、何を熱くなっているんだろう。馬鹿みたいだ。
「…第一、神童は男だ」
それより何より、気を悪くさせてはいないだろうかとちらっと視線を悟にやった。
視線に気付いた悟がいつもみたく笑って腰を上げた。
揺れる空気は相変わらずぬるいのに、まるでさっきとは違う空気が流れているような気がした。
「らしくないな。それは偏見でしょ」
身体が地面に張り付いたように動かない。そんな俺の前に、視線を合わせるようにして膝をついた悟は、綺麗な弓形に口角をあげて見せた。
「だって俺、七助のこと好きだしね」
弄ばれたような感覚に鼓動が早くなる。あの目は真剣だと知っているからこそ、ごまかせない気持ちが脈を打つ。
「さて、と、そろそろ練習再開だろ。キャプテン」
号令を促す悟の声は、ばくばくと煩い心臓の音に掻き消されてしまった。
甘んじて恋と呼ぶならば
(title by.たとえば僕が)