真夜中、微かな嗚咽の音で目が覚めた。
どうしたのかと隣で寝ている風丸に目をやると、風丸は苦しそうに眉を下げて、ぎゅっと目を閉じたまま短い息を繰り返している。

「風丸?」

驚いて思わず声をかけたが、風丸は不安そうに目を閉じたままで、額には汗が滲み、綺麗な水色の髪がべったりと張り付いてしまっている。
涙で頬を濡らしている風丸は、少しでも触れたら消えてしまうのではないだろうかと心配になるほど弱々しかった。


「風丸…」

優しくからだを揺すりながらゆっくり声をかけてやると眉がぴくっと動いて、苦しげに閉じられていた瞼がほんの少し持ち上がった。
瞼の下から覗く緋色はまだ不安そうに揺れていて、必死で手を伸ばしてきた。


「風丸、大丈夫か」

風丸の手を握りながら、自分の言葉で少しでも不安が和らげばと何度も言葉を紡ぐ。
大丈夫、大丈夫と何度も繰り返していくうちに風丸の表情も緊張が溶けてきた。
しばらくするとすっかり目も覚めたようで、涙で霞む緋色と目が合った。


「…ご、えんじ」

「ああ、どうした」

「豪炎寺…!」


風丸は体を起こして俺を見ると、泣き出しそうに顔を歪めて俺に抱き着いてきた。風丸から抱き着いてくることなど滅多にないものだから思わず驚いてしまう。

「っ、風丸…?」

「悪い…」

「いや、俺はいいんだ」

「ごめ、ん…」


風丸は俺が言うことには何も答えずに、嗚咽の中に言葉を混ぜて何度も謝ってくる。背中に腕を回して抱きしめながらそっと髪を撫でてやると、顔を傾けて自分の頭を俺の肩に預けてきた。


「…ごめ、ん」

「落ち着いてからでいい」

「もう、大丈夫だ」


まだ微かに震えてるくせに、自分から離れようとする体を両手で抱きしめる。


「…豪炎寺?」

「このままでも話せるだろ?」


そうだな、と耳元で小さく笑った風丸は、体重の半分を俺に預けたままでゆっくりと口を開いた。


「…全然、たいした事じゃないぞ」

「ああ、構わない」

「…怖い夢を見たんだ」

「夢?」

「…豪炎寺が、いなくなる夢だった…」

「俺が?」

「…ああ、豪炎寺が俺の手を離して、どんどん、どんどん遠くに行って…必死に、追いかけたんだ…いつもの何倍も早く走ってるのに…どうしても、追い付けなくて…気持ちはもっと早く走りたいのに、そうしたら追い付けそうなのに…焦れば焦るほど体は重くなって…すごく、不安で…嫌だ、いかないでくれ、って叫んでるうちに、豪炎寺がいなくなるんだ…」


そこまで話してから一旦口を閉じて、最後に一言、馬鹿みたいだろ?と自嘲気味にわらった。


「いや、寧ろ…嬉しいな」

「どうして」

「俺がいなくなるのが寂しくて泣いていたんだろ?」

「なっ、違う!」


ぶつぶつと文句を言ってふくれている風丸がどうしようもなく愛おしくて、髪を撫でていた手で頬に触れた。



「でも、大丈夫だ。俺はここにいる」


そう言いながら、額に張り付いたままの髪をそっと掻き分けて汗を拭ってやると僅かに頬を染めた風丸が、恥ずかしいだろ馬鹿、と小さく呟いた。




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