初めて会った時から、あいつには自信とか自尊心とかそうゆう類のものが欠落しているように感じていた。
初めはただなんとなく、あぁあいつ脆いな、って。そう思った。
あいつが天使みたいな顔をして周りに振りまく笑顔には違和感を覚えたし、言葉の端々には抑えきれない不安が滲んでいるような気がした。
目が笑っていないとかそんな次元じゃなくて、心が笑っていない、とゆうのだろうか。
そうゆう空気を纏っていると思ったんだ。
なんだか妙に詩人みたいでリアリティがなくなってしまったのは許して欲しい。俺の成績はいつも並々。現国においては中の上ぐらいなんだ。
とにかく、突然現れたアメリカからの訪問者に俺が抱いた第一印象は、お世辞にも良いとは言えないものだった。

一之瀬がやってきて、俺たちはペガサスが飛ぶのを目の当たりにした。その瞬間を見れた事がなんだかとても嬉しくて、さすがフィールドの魔術師と呼ばれるだけあるじゃないか!なんて思ったりもした。
俺なんかとは比べ物にならないような強さを感じたし、素直にすごい奴だと思った。
誰だって強さには憧れる。俺だってこんな中途半端な立ち位置からは早く抜け出して、一人前にサッカー出来るようになりたいと思ってる。
一之瀬はそれができる、それだけの力を持っていた。
周りにいたみんなは、誰もがすごいヤツだなと口を揃えた。ああそうだな、俺もそう思う。だから、それを否定する訳じゃない。
確かに一之瀬はサッカーが巧くて、顔もなかなかかっこいい。ほんとにすごいヤツなんだ。だけどやっぱり、どこかが脆い。


「なぁんか嫌な感じがするんだよなぁ」

「何がだよ」

「あの、一之瀬…とかいうヤツ」

「フィールドの魔術師、だってな」

「うん」

染岡は俺の台詞も一之瀬と呼ばれる少年のことも特に気にした風でもなかったが、フィールドの魔術師とゆう彼の愛称はお気に召したようだ。
そう言えばさっきまでも、フィールドの魔術師なんてかっこいいじゃねぇか!と散々騒いでいた。

「あいつがどうかしたのかよ」

「いやぁなんかさぁ…上手く言えないんだけど…なんてゆうかさ…暗いってゆうか」

「そうか?明るいヤツだったじゃねぇか」

「うん…そうなんだけどさ」

「だろ?」

「でもなんかなぁ」

「何が気に食わねぇんだよ」

「別に気にくわない訳じゃ…ないけどさ」

「わっかんねぇヤツだなぁ」


自分でもどうして一之瀬に嫌悪感を抱いたのかはよくわからない。わからないからこそ染岡に話してみたんだ。だけど、どうやら一之瀬を暗いヤツだと認識したのは俺だけのようで、全く話が噛み合わない。それもその筈だ。俺だって彼を客観的に見たら、明るくてサッカーが上手くて顔もなかなか良いヤツだと思うのだから。

「お前がどう思ったかは知らねぇけどよ、俺は強いヤツは好きだぜ」

「…そうだな」

そうだ、考えすぎだ。突然の訪問者に少し驚いただけだ。そう思いたかった。でもなんだかそれではいけないような、このままではいけないような、そんな気もしていた。

いちのせ…かずや…一之瀬…一之瀬一哉…
頭の中でぐるぐると今日会ったばかりの、話したこともない少年の名前を連呼して、あいつはなんなんだと無駄に頭を働かせる。考えたところで、一之瀬が何者なのかなんて分かるわけもない。
ただの才能に溢れた少年かもしれない。そしたらこれは不毛の努力だ。分かってる。そんなことは分かっているのだが、どうしてもあの嫌な感じが拭えない。
俺には霊感もなければ超能力みたいな特別な力があるわけでもない。超自然を信じているわけでもないし、オカルトをかじっているわけでもなかった。
無論、出会って初めての人間にこんな感情を抱いたのは初めてだ。不安のような、恐れのような、それでいて何処か愛しいような。大人びた言葉で綴ればかっこよく聞こえるけれど、結局はただ“変な奴”だと思った。それだけのことなのかもしれない。



俺が初めて一之瀬に会ったのは、6月の終わり。あいつは、なんとなく蒸し始めたような寝苦しい夜を引き連れてやってきた。




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