昔から俺とマルコは何においても正反対だった。
たとえば、いつでもワイワイ騒いでいるマルコに対して俺は派手に騒ぐ事を好まなかったし、オープンなマルコに対して俺は内気だった。そうゆう性格的な面でなくても、赤毛なマルコに対して俺は黒髪だし、目が大きくてクリっとしてるマルコに対して俺はタレ目、さらにはフワフワでネコ毛なマルコに対して俺はサラサラのストレート。
それは味覚でも同じなようで、甘党なマルコに対して俺は甘いものが好きではなかった。

「んぅー!やっぱりここのティラミスは最高だよね!」

「どこのティラミスでも同じこと言うだろ」

「そんなことないよ!ジャンってば失礼だな」

ティラミスをスプーンで口に運びながらむぅと頬を膨らましたマルコは、すぐにまた幸せそうにティラミスののったスプーンを口に含んだ。甘党なマルコに付き合って今まで色んな店に行ってきたが、そのどこでもマルコは至極幸せそうな表情でデザートを頬張っていた。

「ジャンはいらないの?」

「俺はいつも食べないだろ」

「そうだったね」

マルコが呆れたような視線でこちらをちらっと見た。全く甘いものが嫌いなんて信じられない、といったところだろうか。こっちにしてみれば、そんな砂糖の塊みたいなモノを二個も三個もよく食べられるな、と思う。小さい頃に知り合いのお菓子屋がティラミスを作っているところを見た事もあったが、ボールに流し込まれる生クリームと砂糖の量にただただ唖然としたのを覚えている。ああ思い出しただけで胸やけしそうだ。

「勿体ないな。せっかくティラミスの本場に生まれて甘いものが苦手なんて」

「ティラミスじゃなくたって美味しいものは沢山あるだろ」

「パスタとか?うん、まぁパスタは美味しいけどね」

ついに俺の意見すら聞かなくなったマルコに何も言わずに冷たい視線をぶつけてやった。
当のマルコはといえば、俺の視線なんか気にもとめずティラミスを口に含んでは、幸せそうに美味しい美味しいと歓喜の声を上げている。

甘いものは好きじゃないが、デザートを美味しそうに頬張るマルコの顔はすごく好きだった。きゅっと細められたら目とか少し上がる口角とか、まるで猫みたいにきゅるきゅるしていて見ているだけでこちらまで幸せな気持ちになる。

「ねぇ、やっぱり食べなよ。一口だけ」

ほんとにすごく美味しいから!と、ティラミスがちょこんとのったスプーンをこちらに向けてきたマルコは、あーん、なんて小さい子供にやるように俺にスプーンを近づけてきた。

「いらないって言っただろ」

「いいから。ほら、口開けろよ」

断固として引く姿勢を見せないマルコに根負けして、ほんの少しだけ唇を離した。

途端に嬉しそうな顔をしたマルコは、ゆっくりスプーンを俺の口内に入れてくる。暖かかった口内に冷たいティラミスが落とされて、じわっと甘さと冷たさが広がっていく。

「どう?美味しい?甘いの好きになっただろ」

俺の口からスプーンを引き抜いたマルコは、もう既に次の一口を食べようとスプーンを口に運んでいた。

「やっぱり甘すぎる」

「えー、そうかな?」

ぱっとしない答えをした俺に理解できないというような顔をしてきたマルコは、こんなに美味しいのに!なんて言いながら相変わらず幸せそうに最後の一口を口に含んだ。

「俺は、お前が美味しそうに食べるのを見れればそれでいいよ」

我ながら、すごく恥ずかしいことを言ったと思った。
マルコの反応が気になって横目で表情を確認すると、ほんの少しだけ頬を赤く染めてくしゃっと笑ったマルコと目が合ってしまった。ああやってしまったと思ったときにはもう遅くて、ついさっきまで可愛い顔で笑っていたマルコは途端に悪戯っ子みたく眉を上げていた。


「それって、ジャンが俺のこと大好きってことだよね」






恍惚を知る純潔
title byクロエ

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