星、見てみたくない?吹雪と二人で必殺技の練習をしていたときに、そう言われた。練習中と言っても、夜の自主練だし、やっと必殺技が決まるようになったのでそろそろ切り上げようかと汗を拭いている時だった。
「星…?」
「うん、そう」
「どうしたんだよ、いきなり」
「特に理由はないんだけど」
「は?」
「ただ風丸くんと見てみたいかなって思っただけ。どうかな?」
吹雪にはよく分からないところがある、とはずっと思っていた。そもそも今回だって連携必殺技の相手に俺を選んだのかもよく分からない。吹雪には吹雪なりの考えがあるんだろうし、俺としては嬉しいからいいのだけれど。
「よし、わかった」
「見る?」
「ああ。せっかく晴れてるしな」
「よかった。じゃあ行こうか」
「え、行くって…どこで見るんだよ」
「僕が連れて行くから大丈夫だよ」
ほら、こっち。と軽く手招きして見せた吹雪に、つくづく分からない奴だな、と思いながら言われたままに付いて行く。なんだかんだで吹雪は考えも行動もしっかりしてる奴だから安心してついてきてしまった訳だ。
案の定、吹雪には目的の場所があるようで、よく来ているかのように俺の知らない道をぐんぐん進んでいく。道とゆうよりは山道と言った方が正しいような険しい道を通って出たのはわりと広い丘のような場所だった。
「着いたよ」
「うわ…すごいな!」
「そうでしょ?」
「ああ。こんな場所があったなんて、知らなかったよ」
「晴れてる日はたまに来てるんだ」
「一人でか?」
「うん。落ち着くからね」
小さくて消えてしまいそうな声でそう言った吹雪は、そっと何もない首筋に手を運んだ。当然何も掴むことの出来ないその手は、虚しそうに宙をなぞって下に下ろされた。
「星、綺麗だな。こんなによく見えるとは思わなかったよ」
「うん。僕も喜んでもらえて嬉しいよ」
目が冴えるような暗闇の中にちらちらと無数の明るい光りが見えて、吸い込まれてしまうんじゃないかと思う程だった。たった数分歩いただけの場所なのに、なんだか空気まで澄んでいるような気がした。
どちらともなく口を閉ざして、静かに空を眺める時間が続く。しゃべらなくてもお互いの気持ちが分かるような錯覚。二人を覆う暗闇は、そう感じさせるのに十分だった。
「僕さ…」
「ん?」
「僕、日本に戻ってる間、風丸くんのことばかり考えてたんだ」
「え…」
「今回の必殺技も、風丸くんと連携できる技をって思って考えたんだ」
「吹雪…」
「ふふっ、だからこの必殺技が完成してほんとに嬉しいよ」
どういう意味なんだろうか。吹雪はいつも少し遠回りな言葉を使うから気持ちがわかりにくいのだ。
今も、彼がどんな気持ちで言ったのかはよく分からない。それでも、彼が自分に好意を寄せてくれているというのだけはわかったし、それがどうしようもなく嬉しかった。
「俺も、吹雪と必殺技ができたらなって考えてたよ」
「ほんと?」
「ああ。でも、ポジションも違うし諦めてたのかもな」
「そうだね」
「だから、完成できて俺も嬉しいよ。絶対この技で点を取ろう!」
「うん」
いつの間にかほんの少しだけ重ねられた右手が、じわりじわりと熱くなっていくのを感じた。控えめに絡められた指先もなんだか暖かい。
「やっぱり風丸くんと一緒に来れてよかった」
「そうか?俺も吹雪と見に来れて嬉しいよ」
「ほんとに?」
「ああ、勿論」
「じゃあ、また星見ようよ」
「そうだな」
すごく見つめられてる気がしてそっと右側を向けば、優しげに微笑む吹雪と視線がかち合った。見つめ合うだけの空間が恥ずかしい。堪えられなくなって視線を外そうとしたら、絡められていた指先がぐいっと強く握られた。
「吹雪…?」
「ねぇ、だいすき」
ストレートすぎる言葉に、かぁあっと頬の熱が増す。恥ずかしくてとてもじゃないけど口を開けない俺に返事を促してくる吹雪は、相当意地が悪いと思う。いまだ喋る事のできない俺は、返事の代わりに指を絡めた右手に思い切り力を込めて握り返した。
B級ラブロマンス
title by虫喰い