家を出ると冷たい空気にせっかく温まってきた体温を奪われる。これだから冬の朝練は嫌いなんだ、と一つ舌打ちをして駅に向かった。
毎朝駅のホームで電車を待っていると、帝国なんて金持ちで勉強ができる奴ばかり入る学校になんで俺なんかがいるんだろうと考えてはなんとなく憂鬱になる。
やっとホームに入ってきた電車に乗り込みいつも通りドアのすぐ横の壁に寄り掛かって車内を見渡すが、帝国の制服を着ている奴なんか当然見当たらない。
「っ、さみぃ」
電車のドアの僅かな隙間から容赦なく入ってきた冷たい風に若干イラつきながら、他の奴らは毎日車で送り迎えなんだよなぁなんて考えてたら偉そうに見下してくるサッカー部の奴らの顔が思い浮かんでしまった。
佐久間や成神あたりの顔がやけにムカつくのは俺の気のせいなんだろうか、なんてくだらない事を考えていたら携帯のバイブが鳴った。
乱雑に置かれていたエナメルを手に取り、手探りで携帯を探す。それらしき物のストラップを引っ張り上げディスプレイを確認すると着信有りの文字が強調されている。
どうせ佐久間から途中のコンビニでココア買って来いとかそんな電話だろ、とため息をつきながらもとりあえず履歴を確認して自分の目を疑った。
「は、源田っ?」
何度もよく確認するが履歴には確かに源田幸次郎の文字が表示されている。着信時間はついさっきだし今かけ直せば間に合うかもしれないと急いで電話帳を開き、丁度目的の駅まで着いた電車を降りる。
階段を降りようとする人の波から無理矢理外れてホームの隅で発信ボタンに手をかけると数秒の着信音の後、源田の声が耳に入った。
「‐もしもし、辺見か?」
「あ、あぁ、どうしたんだよ」
携帯の向こうから聞こえる大好きな低音に自然と口元が緩む。源田から電話がくるなんてもう久しくなかったことで余計に嬉しい。そのせいで盛大に噛んだのは恥ずかしかったが好きなんだからしょうがないと開き直ることにする。
「‐今まだ駅にいるか?」
「え、あぁいるけど」
「‐そうか。俺も今駅なんだがいつも電車は使わないからな、その…」
携帯の向こうで源田が口ごもるのがわかる。なかなか次の言葉を言わない源田の代わりに、まさかとは思うがとりあえず思い付いたことを口にしてみる。
「もしかして道、分からないのか?」
さすがにそれはないよな、そんなことがあったら可愛すぎて俺が死ぬかもしれないし、と心の中で笑った瞬間源田の申し訳なさそうな声が返ってきた。
「‐…あぁ。」
「えっ、」
予想していなかった答えに思わず聞き返してしまった。
「まじで?」
「‐…久しぶり過ぎて分からなくなってしまった。」
すまない、と恥ずかしそうに謝る源田が可愛すぎて俺の顔まで熱くなる。
「い、今から改札行くから待ってろ。」
そう言って電話を切ると人がいなくなった階段を駆け降りた。こういう事があると源田ってつくづく抜けてるよなと思う。普通久しぶりだからって学校までの道忘れるかよ、なんて思いながらも一緒に登校できる事を喜んでる俺は相当源田のことが好きみたいだ。
会ったら何を話そうか、なんて考えながら改札を出ると壁にもたれかかっている源田と目が合った。
「おはよう辺見。」
「おう。じゃあ行くか。」
2人きりでもちゃんと話せるだろうかと心配していた会話は歩き出してしまえばそれなりに付いてきたし、ふと隣に目をやれば源田の横顔が目に入る。こんな風に2人きりで並んで歩けるのがどうしようもなく嬉しいなんていつからこんなに好きになってたんだろう、と自嘲気味な笑いが漏れた。
どうしようもなく好きだって