目を開けるとカーテンの隙間から微かな光が部屋に差し込んでいた。あまり明るくないところを見るとまだ早い時間なんだろうと思いベッドのサイドテーブルから携帯を引っ張りあげる。まだ朦朧としている意識の中、携帯の液晶画面を確認すると雷門のメンバーの写真と06:30という数字が目に入った。

「随分早くに目さめちゃったな…」

こんなこと珍しいのに、と小さく溜め息をついて意識を覚醒させるべく一つ伸びをする。
もう一度寝なおそうかとも思ったが一度目が覚めてしまうとぐっすり眠れそうにもないので諦めて起きることにした。
窓を開けてみると時間が早い分いつもよりも冷たい風が心地良い。暑すぎず寒すぎず、運動するには丁度良い気温だ。

「…久しぶりに走るか」

なんでそう思ったのかは自分でもわからない。ただなんとなく広いグラウンドを思いっ切り走りたくなった。
急いで荷物をまとめて家を出て、陸上部に居た頃によく走っていた空き地へと向かう。
家からも学校からも少し遠いが人通りも少ないし広いグラウンドもある。一人で走るにはもってこいのその空き地は陸上部に居た頃から俺のお気に入りの場所だった。
サッカー部に入ってからは部活だけで精一杯で長い間来ていなかったが今もちゃんと走れる状態なんだろうか、なんて考えていると誰かが走る音が耳に入った。
こんな目立たない場所を見つけた人が自分以外にいた事に驚きながらそっとグラウンドを覗くと見慣れたオレンジのユニフォームと褐色の肌が目に入る。

「…宮坂?」

名前を呼ぶと黄色い髪がふわっと揺れて緑色の瞳が俺を捉える。

「か、風丸さん!」

「久しぶりだな。練習か?」

「はい!実はもうすぐ大会なんですけどちょっとタイムが落ちてて…」

だから、前に風丸さんが教えてくれたここで練習してたんです。風丸さんは?と言って嬉しそうに笑う宮坂に、ちょっと走りたくなったんだ、と答えてランニングシューズに履き変える。

「久しぶりに走らないか?」

「えっ、いいんですか?」

「あぁ、勿論」



久しぶりに宮坂と走った。
タイムが落ちたと言っていたが前に比べればずっと早くなってるしこれなら大会でもかなりいいところまで行けるだろうと感じさせる良い走りだった。

「十分、早いじゃないか」

「風丸さんとだと、早く走れるんです」

少し息を切らして、いつもの練習でも今みたいに走れるといいんだけどなぁと独り言のように呟いた宮坂が時計に目をやってあっ、と小さく叫んだ。

「あの、すいません、部活の時間なんで行きますね」

「もうそんな時間か」

そう言って時計を見ると針は8の文字を指していた。
雷門にはグラウンドが1つしかないため部活の時間は被らないように配分されている。
陸上部はサッカー部よりも時間が早いから確かにもう行かないと間に合わない時間だ。

「一緒に走ってくれてありがとうございました。僕なんか全然追い付けないし、やっぱり風丸さんはすごいです」

いつも通りの笑顔でそう言った宮坂が少し視線を落とした。
どうした?と聞けばそれには答えずにもう一度顔を上げて言葉を続ける。

「…僕、やっぱり風丸さんの走りが大好きです。誰よりも、尊敬してます」

「…ありがとう、宮坂」

宮坂の目を見れば、宮坂が本当の気持ちを押し殺して応援してくれているのは分かる。
だからこそサッカーに全力で臨もうと思えた。それはきっと宮坂も分かっているのだろう。
だから今だって引き止めたりしないで、大好きだと言ってくれるのだと思う。


「だから、絶対また一緒に走って下さい」

強く結ばれていた唇から小さく呟かれた言葉と今にも泣き出してしまいそうな笑顔に俺も精一杯の笑顔を返す。


「あぁ。宮坂がどれだけ早くなるか楽しみにしてるよ」

「はい。それじゃあ」


そう言って走り出した宮坂の背中にもう一度、ありがとうと呟いた。










約束された第2音


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