風丸さんと豪炎寺はクラスが違うという意味の無い設定。
今日から俺が教室まで迎えに行きたい、と恋人からいきなり頼まれたのは一ヶ月程前だっただろうか。
なんでいきなり、とは思ったものの豪炎寺が何か頼み事をしてくる事も珍しいし迎えに来て貰えるのは大切にされているようで嬉しい。
何より自分に害がある事ではないのだから断る理由はないよな、と承諾してしまったのが間違いだったのかもしれない。
迎えに来て貰えるのは確かに嬉しいのだが流石にこうも毎日では申し訳ない気持ちが強くなってしまう。
自分が豪炎寺の負担になるのだけは避けたいといつも思っている俺としては毎日来てもらうというのは何とも心苦しいものだった。
そんな事に思いを巡らせながら何度めかも分からないため息をついてちらっと時計に目をやると時間は3時10分あたり。
さっき時計を見た時は2時半だったからもう30分以上同じ事を考えているという事になる。
あと数分で今日最後の授業が終わってしまうというのに何も頭に入っていないなんて今日の俺は本当にどうかしているんじゃないだろうか。
そんな俺に追い打ちをかけるように鳴った鐘を恨めしく思いながらも、よしっと小さく呟いてバッグを持ち上げ急いで帰る用意をする。
たまには俺が豪炎寺を迎えに行こう、うん、やっぱりそれが良いよな、と自分に言い聞かせて上着を羽織り教室を出た。
廊下に友達を待つ生徒がちらほらいるところを見ると隣のクラスはまだ終わっていないのだろう。
豪炎寺のクラスの担任は終礼が長いのに対し俺のクラスの担任は終礼がとにかく早いのでいつも俺の方が早く終わる。それならなおさら俺が豪炎寺を迎えに行くものなのだろう。
豪炎寺から頼まれた事だったとはいえあっさり承諾してしまった事に対してなんとなく申し訳ない気分になってふぅ、と息を抜いた。
「…風丸?」
いきなり名前を呼ばれて顔を上げると、どうしてここにいるんだとでも言いたげな視線と目が合った。
「はは、今日は俺の方が早かったな」
こんなところで、なんとなく申し訳ないからあの約束は無しにしてくれ、なんて真面目な事を言ってもしょうがないので俺としてはいつも通りに会話したつもりだったのだが、豪炎寺からは納得出来ないというような表情が返ってきた。
「何かあったのか?俺が迎えに行く約束だろう」
「あ、いや、何があったって訳じゃ…」
「じゃあどうしたんだ」
「…いつも来て貰うのは流石に悪い、だろ」
本人に言うつもりは無かったのにな、と豪炎寺の反応を伺うと一瞬驚いたような顔をしてからふっ、と軽く笑われた。
「風丸らしいな。でも、俺が好きでやっている事だ」
だから気にするな、と髪を結ってるあたりに手を置かれてポンポンと軽く叩かれた。
それがなんとなく恥ずかしくて赤面してしまった自分に、あぁこんなの女々しいなと軽く嫌気がさす。
「そう、だけどさ、でもやっぱり悪くないか?」
もうこうなったらひたすら悪いからと言うしかない。
そんな事をしても結局は豪炎寺に折れてしまう事ぐらい自分でも分かっているのだけれどこのまま折れてしまうのは自分的に嫌だった。
「良いって言っただろ?」
「でもさ…」
「それとも、迷惑か?」
予想もしていなかった言葉に思わず首を横に振ってしまってから、しまった、と思ったがその時には既に遅くて豪炎寺が勝ち誇ったような顔をしていた。
「ずるいぞ」
「何がだ?」
とりあえず反論はしたもののそれもあっさりかわされてしまい結局俺が折れる事になってしまった。
「…分かったよ、これからも待ってるから」
「あぁ、迎えに行く」
「なんでそんなにこだわるんだよ」
「俺が迎えに行った方が風丸がお姫様っぽいだろ?」
「なっ…!」
豪炎寺のまさかの台詞に反論するよりも怒るよりも先に真っ赤になってしまった自分が嫌で、怒る気も失せてしまった。
「俺、男なんだけど」
「男らしいとは思うが可愛いとも思う」
無駄に高鳴る胸の音を抑えて抵抗した言葉にさえ真顔で反論されてしまい身体中の熱は上がる一方だった。
「ほんと恥ずかしい奴…」
そんなところも好きなんだけどな、と心の中で呟いて、俺も充分恥ずかしいんじゃないか、思わず嘲笑が漏れた。
アブノーマルに愛されたい
title by空想アリア