朝からなんとなくイライラしてた。原因は多分雨だ。
昨日の夜から降り出して今だに止まない欝陶しい雨の音が耳障りで何もする気が起きない。
唯一やりたいと思えるサッカーもこの雨の中じゃやりようがない。
じめじめした教室で極力雨の音を耳に入れないように突っ伏しながらこの後の事を考えた。
部活がなくなってしまい特にする事がない上に普段ならあるはずのミーティングも今日はない。となると一人で家にいるか、もしくは誰かを誘うか。誘うにしても誰を誘おうか、と考えていると鞄の中の携帯が震えた。ディスプレイには風丸一郎太の文字が点滅している。
風丸から電話なんて珍しいなと思いながら通話ボタンを押した。
「もしもし」
「-佐久間か?」
「あぁ、どうした」
「-今日、雨で部活休みだろ?」
「あぁ、ミーティングもない。」
「そうか、俺も部活休みなんだ。もし良かったら何処かで会わないか?」
ちょうど誰かを誘おうと思ってていたところだ、それに風丸とは恋人同士だというのにお互い忙しくてあまり会えていない。どちらにしてもちょうど良い機会だと思い頷いた。
「わかった。じゃあ俺の家で会おう」
「-え、佐久間の家行っていいのか?」
「雨の中会うのは嫌だ」
「-はは、佐久間らしいな」
「いつものとこで待ってる」
「-あぁわかった。じゃあ」
風丸との電話を切ってからすぐにチャイムが鳴り授業が始まったが結局6時間目は雨の音を極力聞かないようにする事に尽力して終わってしまった。
自分の机に置かれた鞄をひったくって肩に掛け、風丸との待ち合わせ場所に向かう。
「佐久間」
「早かったな」
「あぁ。少し早く終わったんだ」
俺の家に着くまではそんな他愛のない話をしていた。俺の家が近づき、話題も尽きてきたところで風丸がふと口を開く。
「二人で歩いてる時は、俺と佐久間どっちが女に見えるんだろうな」
「は?」
「佐久間もよく女顔って言われるだろ?」
「…どう見たって風丸だろ」
「なんでだよ」
お互い様だろ、と笑う風丸はいつも通りだったけど、風丸に女顔だと言われたのは納得いかなかった。
たしかに髪も睫毛も長いし女顔なのかもしれない、今までだって綺麗だとか美人だとか散々言われてきたからそんな事は分かっているが、恋人である風丸にだけは男らしいと思っていて欲しかった。
どっちが女に見えるかなんて聞かれたくなかった。
そんな感情がぐるぐるして、風丸の言葉が胸につっかえたまま家まで着いてしまい両親のいない家に風丸を通した。
風丸には先に部屋に行っててもらい自分はお茶とかお菓子とかそんなものを適当に持ってから部屋に向かう。
「何してんだ?」
「あ、勝手に見て悪かった」
そう言って風丸が机に戻したのは俺が小学生の頃のアルバムだった。机の上には他にも幼稚園の頃やそれよりもっと昔のアルバムなんかもある。
そういえば昨日部屋の整理をしていた時に置く場所に困ったアルバムを机に乗せたままにしていた気がする。
「別にいいけど」
そう言って適当に開いたアルバムには今と殆ど変わらない顔で写真に写る俺がいた。
暫く眺めていると横から風丸が覗きこんでくる。
「佐久間って全然変わらないな。昔から綺麗だ」
まるで今も綺麗だとでも言いたげなその台詞にイラついた。
「…佐久間?」
風丸の声がして気が付いたら風丸を押し倒していた。真下に風丸の顔がある。
こんなことをするつもりは全く無かったが、押し倒してしまった以上どうしようもない。
ベッドに広がった水色の髪を軽く指に巻き付けながら風丸の耳元まで顔を近付けて囁いた。
「さっきから綺麗綺麗って、煩い」
そう言って耳を甘噛みすれば風丸は顔を真っ赤にして普段より1オクターブは高い声を漏らす。
そんな風丸を自分の真下に見ながら、やっぱりお前の方がずっと綺麗だ、なんてらしくもない事を口にしてしまった。
白雪姫コンプレックス
title by空想アリア
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