*高2冬の大地さんと菅原さん



 カーテンの隙間から差し込んだ光りが目蓋を焼くのがうっとおしくて強制的に目を開けると、もう太陽は昼間と称しておかしくない位置にいた。急いで飛び起き携帯でもう一度時間を確認する10時02分。念のためカーテンを引いて外を見ると一昨日辺りに積もった雪が溶けて道を流れていくところ。そんでもって、極めつけは12月の文句ない青空が広がる今日。

 「……あー、まじかよ…」
 澤村はやるせなさと脱力感に襲われベットに倒れ込む。
 寝坊が、嫌いなのだ。ひどく時間を無駄にした気分になる。それに引きずりに引きずった眠気は微量に残ったままなかなか消えてくれない。

 (まぁ予定があるわけではないけど)

 今年も残すところ十数時間に迫った大晦日だからといって忙しいわけでもない。俺個人の予定的には学校も部活もない月曜日みたいなものだ。
 今更朝飯を食べる気にもならない。取り合えず服を着替えることにして、クロゼットに手を伸ばす。どうせ暇だし数学の復習でもしようか。科学や英語や世界史でもいい、なんて十中八九達成されない予定をぐるぐると考えるその横で、澤村は新しく掛け変わった来年のカレンダーを意味もなくしげしげと眺め回す。

 カレンダーって不思議だ。と、ふいに思った。もしか来ないかもしれない明日を、なかったかもしれない昨日を数字化してさも当然のようにそこにある。
 自分が存在している今日(若しくは、或いは今)を認めることは可能だが、それ以外の昨日や明日というやつはよくわからない。記憶だって所詮情報。思考だって脳を走る電気。認めることはできるが証明まではきっとできない。
 そんなわけはない(と願いたい)が、昨日以降の記憶が嘘、虚構だったとしたら恐ろしい。積み重ねた努力も仲間も本当はいなかったら恐ろしい。
 そんなわけはないと決めつけるのは愚かしいだろうか。
 よく、わからなかった。


 *

 『誕生日おめでと』
 「うん、ありがと」
 東峰や先輩後輩はメールなのだが菅原だけは電話をくれる。12月31日なんて学校は休みだし、中学までは携帯を持っていなかったので友人から誕生日を祝われることもあまりなかった。それに慣れていたので自分の誕生日を忘れていることの方が多かった。

 『なんか食いに行くべ?』
 「どこもやってないっしょ」
 『あーそうかなー』
 「気持ちだけ貰っとく」
 『じゃあ休み明け、どっか行こうな』
 「わかった」
 電話の向こうで菅原がからからと笑う。
 「俺、大地の誕生日は電話するな」。一年の時、部活の帰り道でただの話題提供のつもりで持ち出した誕生日の話題でのささやかな約束ごとをを彼は覚えていてくれるのだ。
 どんなにでかいケーキよりも嬉しい。
 「スガー」
 『うん?』
 「ありがとな、電話」
 菅原の声はいつも澤村の平穏を保つ。
 去年もこんな話したよな、とか、来年だってするよ、なんて会話がずっと続けばいいと思った。
 ないかもしれない未来が少し楽しみになった。


Fin.

***

144『カレンダー』

2012.澤村さん誕生日!

2012/12/31 23:47 






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