花より団子、なんて言葉が遠い遠い地方にはあるらしい。

私は花が好きなので、団子よりは断然花のほうがいい。異国のひとが考えることはよくわからない。
それをこの花屋の店長である彼女に言うとそれはそれはまあ複雑な顔で「あなたにとっては花は団子でしょう」と言った。よくわからない。私の不思議そうな顔を見た彼女がふうと息を一つ吐いた。

「そのことわざでいう花、っていうのはつまりね、風流なの」
「ふうりゅう」
「そう。そのひとは花を見てそれを楽しむより、自分のお腹を満たすほうがいいと思ってるの」
「おなかをみたす」
「そう」

あなたは花でお腹を満たすでしょう。つまりそういうことなのよ。
そう言って彼女は持っていた植木鉢を下に置いた。彼女は花を育てるのが上手だなと思う。

そりゃあお腹を満たすほうがいい、と私は思ったけど、やっぱり彼女の言うことはよく分からない。私は花を見るのもすきだ。
それを伝えるとやっぱり彼女は複雑そうな顔をして、あなたにはむずかしいかもねと言った。

花はすきだ。綺麗な花はやっぱりおいしいし、大切にされてない花はまずい。だから私はよく花を見ている。見て、それからじっくりと味わうのだ。ゲテモノほどおいしいなんてことはない。おいしいものはやっぱり見た目も綺麗なのだ。
ああ、そんなことを考えているとお腹が空いてくる。先程の植木鉢を見る。
真っ赤な花びらをつけた綺麗な花だ。
彼女は他の花を見ている。私は植木鉢の花をそこから引っこ抜いて口に含んだ。ああ、やっぱり、おいしい。
ゆっくりそれを味わっていると彼女がこちらを見た。

「あー!ちょっと!なにしてるの!」
「おいしい」
「おいしいじゃなくて!もう!何回言わせるの!」

まるでこの花のように顔を真っ赤にしながら彼女が怒る。怒るのに、私を辞めさせないのがいつも不思議だ。

「だって、団子よりも花がいいもの」

そう言ったら、彼女が呆れたように溜め息をついた。



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