あんた、笑うとかわいいんだね。
幼かった彼が自分に言った台詞である。
男に向かってかわいいって、お前何言ってんだと思いつつも、照れてしまった記憶がある。だってまさか、そんなことを言われるなんて思いもしなかったのだ。

「俺さあ、最初あんたのこと苦手だったんだよね」

昔よりはだいぶ大人になった彼が言う。何の話から、どうやったらそんな話に飛躍するんだ。

「表情かたいし、心視えないし、何考えてんのか分かんないし、表情かたいし」
「別にかたくねーよ」
「鏡見てから言って」

なんというか、この男は絶対昔より生意気になった。昔のほうが口は悪いかったけれど、なんだかかわいげがあった。子どもらしかったとでもいうのだろうか。何で生き物って成長するんだろう。時の流れは残酷だ。まさに「あの頃はかわいかったのに」というやつだ。
今は全然、ちっとも、かわいくない。

「…で?俺が苦手だったわけ?」
「そう。だってさあ、心視えないとか初めてだったんだもん」

結構びっくりしたんだよねと言いながら彼が笑う。へにゃへにゃした締まりのない笑い方だといつも思う。昔のほうが締まりがあった。成長とは名ばかりでこいつは退化しているのではないだろうか。そうなるとそれはやはり俺の責任になってしまうのだろうか。いや、それはないか。

「俺、心視て、それでみんなの様子伺ってたから、なんつーか、あんたが怖かったのかも」
「…ふーん」

俺が素っ気無く返すと、慌てたように今は違うよと言われた。別に気にしてないからいいのに、こういうところに気を遣うのはそういう生い立ちのせいなのか、元々の性質からなのか。
いや、こんな話をする時点で気なんて遣ってないか。

「でもさあ、あんたが人並みに笑うって知ったから安心した」

へにゃり、と。緩みきった顔で言う。どうしたらそんな顔ができるんだろう。分からない。分からないけど、なんだか頬が熱くなる気がした。
っていうか人並みに、って。完全に馬鹿にしてるだろ。本当、一体最初どんな風に思っていたんだか。

「あんたは、笑うとかわいいんだ」

思わず、あっと声が出た。彼が不思議そうにこちらを見る。どうしたの、って。

「………何でもない」
「顔真っ赤だよ」
「何でもない」
「…ふふ、あんたはほんと、かわいいね」

お前はちっともかわいくない、って言ったらかっこいいって言ってよって返された。
調子に乗るな。



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