「ちょ、日吉何これ何これ!」


家に乗り込まれました。部屋で発見したらしいアルバムを無断で持ち出して、炬燵で蜜柑を食べている俺の元へ持ってくる。自然と呆れたような溜め息が漏れた。


「何ですかいきなり…ってそれ」

「わあああ何これ幼い日吉なまらめんこい…!」

「は?」

「…なしてこんなめんこい子がこんなきかん子におがったんだべ…あ、こらばっちい手で触らないの、ほれティッシュで拭け」


開かれているのは昔の――幼稚園頃の俺が写った写真のページ。昔の自分の写真なんてその時の記憶がはっきりしない俺にとっては大した興味もそそられない。けれども少し懐かしいななんて蜜柑から手を離してアルバムへ伸ばす。…と、手にティッシュを押し付けられた。というかさっきからところどころ何を言っているのか分からない。彼女に一体何があった。


「…はあ、今日はまたテンションが高いですね…少し落ち着いて下さい」

「そう?あ、このティッシュ投げといてね。あと蜜柑ちょーだい」

「は…?投げ、…投げ、るんですかこれを?」

「ん、お願…えええええ!?なっ、なして投げたの!?投げてごみ箱にシュートしようとしたの!?どんだけノーコンなの!?」

「貴女が投げろって言ったんじゃないですか!」

「え?あ、ごめん方言出ちゃった。あれ捨てといてっていう意…痛っ、サビオちょうだい」


投げるが捨てるとかそういえば何処かで聞いたことがあったかもしれないなあと思いつつ、さっきから理解しづらかったのは方言かと一人で納得した。しかしこれは何処の方言だ。というか普段こんなに方言使わないよな?この人。妙にハイテンションの彼女と謎の単語に首を捻った。


「…サビオ…?何ですか、切ったんですか?」

「うー…切らさった…。アルバムば持ったんだよ。したっけ端のとこで…」

「はあ、じゃあ消毒液と絆創膏…あ、切らしてますね。買ってきます」

「おー。ついでにあのぼっこ付いた飴買ってきて、はいお金。だら銭で悪いけど。あ、なんぼか分からないから多めに渡しとくね」

「飴、ですね分かりました」

「あ、ほれ手袋はいてけ、東京もしばれるから。日吉ってばいつもわやしゃっこい手で帰ってくるっしょ。あ、私の蜜柑さ血付いちゃったんだけど日吉のとばくっていい?」

「……いいですけどまず傷口洗って下さいよ」

「そうだ、じょっぴんかってってねー」

「……」


よく分からないが頷いておいた。帰って来た時いつも通りに戻っていたら、取り敢えず今日の発言の意味を聞いてみよう。何となく未知の言葉、奇異に触れたような好奇心の高鳴りを感じる。扉を開け突き刺さるような冷たい風に縮こまりながら、彼女がぬくぬくと過ごしているであろう家の鍵をかけた。


***
方言解説

なまら、わや…とても
めんこい…かわいい
おがった…成長した
投げる…捨てる
サビオ…絆創膏
しゃっこい…冷たい
ばくる…交換する
じょっぴんかる…鍵を掛ける
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