「…仁王はいるか?」

「あれ、柳じゃん。珍しいな仁王を呼ぶとか」

「なん?」

「…少し、手を貸して欲しい。ついて来てくれ」

「……は?」


昼休みも半ばに差し掛かった頃、教室に現れた参謀に拉致られた。面白半分にちょこちょこついて来る丸井を引き連れて、俺らが着いたのは真田のクラス。


「え?俺、なんか怒られることした?」

「いや…叱られてるのは赤也だ。ただ…」

「ただ?」

「叱っている本人の言語を誰も理解できない」

「は?」


苦笑した柳が指差した先には、真田と幸村…そして、真田を見上げる女子と赤也の姿が。あいつは…なんだ、名前か。


「あー…任せんしゃい、通訳しちゃる」

「頼むぞ」


「…だから、赤也が何をしたと言うのだ?」

「切原くんが何回言うても聞かんが!せられん言うてもさ、性か知らんけどまたやるし…」

「???」

「ああ、赤也と弦一郎が混乱してる。名前さん、もう少し分かりやすく頼むよ」

「簡単に言うたら切原くんがほたえるが!」

「・・・・」

「おうおう幸村、はい、たーっち」


幸村がなんかイライラしてきたから、パンってハイタッチして交代する。赤也と名前の間に割り込んで、わざとらしく咳払いした。


「あー…続けてくんしゃい」

「切原君がほたえるき、落ち着いて部活できんがって!」

「赤也が騒ぐせいで、名前たちが落ち着いて部活できないんじゃと」

「なに…?赤也、サボって他の部に迷惑をかけているのか?」

「と、とんでもないッス!サボってなんか…」

「どうなんじゃ?」

「「名字さーん、また副部長が殴るんすよーっ」が赤也の口癖だね」

「赤也ぁぁぁっ!!!」

「ひぃぃっ!!」


「・・・」

「どうした丸井」

「いや…高知ってなになにぜよってイメージあるからさ」

「ああ…仁王は使うがな」

「イメージ崩れたー、あとさ、柳」

「なんだ?」

「さっき名前…標準語使ったよな?」

「………」

「………」


「ははっ、おつかれさーん仁王っ」

「なにがおつかれさーん、じゃ。わざと方言使うんじゃなか」

「それ、あんたが言う?」


叱られる切原くんを置いて教室を出たら、プリプリ怒りながら仁王がついてきた。だって本当に困ってたもの。毎日愚痴をこぼしにくる切原くん…と真田くんの怒鳴り声。


「はっ、幸村まで巻き込むことないじゃろ?バレたら消されるぜよ」

「神の子が私の言葉を理解できない。これ、優越感」

「性格悪っ、マジで背中気をつけた方がええ」

「その時は仁王も同罪じゃない。分かってて通訳してるんだし」

「ははっ、違いない」


ケラケラ笑いながら顔を見合わせる。お互いを指差し、こう言ってやった


「「わりことしっ」」


end

※せられん…してはいけない
※ほたえる…騒ぐ
※わりことし…いたずらっ子
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