報告書『埋まれ堕ちた児』

それはありきたりだが、"突然"という言葉が最も相応しかった。
「君は何て言うんだい?私はエルヴィンという。調査兵の者だ」
「そうか」
しばらく子供は尋ねた筈の名も自分を特定する固有のものにも一切触れず、内心どうしたものか…と思案していたエルヴィンとの談笑を楽しむかのようにしていた。
1度口を閉じた子供は年甲斐もなくこう語る「エルヴィン。私は相当つかえるぞ」と。
それからの言葉は今は余り覚えていない。そして脈絡のなかった言葉の最後に子供はこう言った。
「ぼくをひろえ、調査兵団」
両手をこちらに広げ跪いている子供はまるで教会のステンドグラスに向かい祷りを捧げているようで酷く私達に似ている気がした。
それがいま彼女がここに存在する由来だ。

彼女の初めての壁外調査はそれは凄まじいものとなった。
まずは彼女を本当に連れていくのか。連れていくというデメリットを背負うほどの何かが彼女にはあるのだろうか。
こんな会議が何回か繰り返された。
当時団長ではなかったにしろエルヴィンには色々と手をまわしてもらっていたらしい。
結局連れていってみれば判るだろうと押し切り会議は無駄な時間となった。
連れていくとなると移動の話になる流石に明らかに幼女にしか見えない彼女を一人馬の上にというわけにも行かず、拾ってきた責務としエルヴィンの前に乗せることに決まった。

壁外に出ても彼女の表情や顔色が変わることはなかった。たとえ巨人が目前でヒトを貪ろうと。
それほどに彼女はすでに冷酷だった。
それからだろうか、彼女が努めて笑っているのは。少しでもヒトらしくあろうとした最後の足掻きだったのだろう、彼女なりの。

その日の調査は史上で5本の指にはいる"最悪"だったらしい。
一匹の奇行種との遭遇により戦闘に入った彼らは奇行種によるその分類に称される由縁的行動によりぎりぎりの状態を保っていた。
そう、過去形なのだ。
どんどんと群がる巨人に対し、彼らは疲れきっていた。詰まるところ"絶望"していたのだ。
奇行種が一匹だったことが不幸中の幸いといったところか。
それでも囲まれてしまった彼等にはきっと絶望しか視えていなかったのだと思う。

そんな危機的状況下。やっとの思いで森にある木に皆が腰をおろした。しかし下にはまだまだ沢山の巨人が群がっている。
ふと懐の暖かみが無いことと、木に登り切ってから腰の当たりが妙に軽いことにエルヴィンは気がついた。
無いのだ。何度見直そうとも。自分の立体起動一式が。
流石のエルヴィンでも一瞬頭が真っ白になったそうだ。

刹那、目の前を掠めていった見覚えのある小さな影に全てを悟らざるを得なかった。

結局この話の結末は奇行種を彼女が殺したことにより終わったということだ。
奇行種を失った巨人が何故か何事もなかったかのように散っていったらしい。あんなにもヒトに夢中だったのにと、彼らは語る。
エルヴィンの立体起動を掠め取ったことを差し引いたとしてもこの危機を退けたとされる彼女は異例の若さで調査兵団に身を置くこととなった。
それから間もなくだったかもしれない。リヴァイがまたもやエルヴィンにより連れてこられたのは。
その頃にはもうとっくに調査兵団に溶け込み官職を彼女は貰っていたのでここら辺のことは定かではない。



報告者:ハンジ・ゾエ








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -