君が、好き 03

※あんず視点

 どうしたらいいのか、分からない。
 目を閉じて、無心になれば声がする。

『あんず』

 いつだって、真緒くんの姿を思い描くのは簡単。
 ずっと一緒にいたから。大好きだったから。

 ……だった。
 どうして、過去形にしてしまうんだろう。
 私はもう、真緒くんのこと好きじゃないのかな?
 私は……。

「うわっ!」

 考え事をしながら歩いていたら、人にぶつかった。
 顔を上げると、そこには久しぶりに見る赤い瞳があった。

「あんず、おいーっす」
「凛、月くん……お、おいーっす」

 凛月くんの空気に飲まれて、私は同じように挨拶を返す。すると凛月くんは楽しそうに笑ってくれた。
 Knightsとのライブがもうすぐ始まる。開幕を直前に控えた今は、アイドルたちが各々自分のポテンシャルを高める瞬間。
 サブプロデューサーの私は、裏方作業に徹した後は自由行動。

 いつもなら、アイドルみんなに声をかけた後。
 真緒くんのそばにいた。

「珍しいね。あんずがライブ前に一人で歩いてるの」

 凛月くんは私の常を当然知ってる。暗に真緒くんのそばにいてあげないの? と聞かれてるような気がした。

「凛月くんと話すの、久しぶりだね」
「うん。俺、避けてたからねぇ。あんずのこと」
「瀬名先輩に聞いたよ」
「うわっ、セッちゃんバラしたの?」

 凛月くんはうげぇ、なんて言いながらも嫌がってはいなさそう。

「あんず」

 柔らかい口調。
 幼なじみでも、凛月くんと真緒くんは全然違う。
 違うけど、やっぱりどこか似てるの。
 凛月くんは真緒くんの空気を少しだけ纏ってる。きっとそれだけ真緒くんのことが好きなんだろうなって。
 同じくらい……それ以上に真緒くんのことが好きなはずなのに、私は真緒くんから程遠い。
 なんでだろうね。
 理由が分からなくて、悲しくなる。
 真緒くんに大切に思われたまま、忘れられることのない凛月くんがうらやましくて嫌になる。

 ライブ前のアイドルを前にして、私はなんでこんなこと考えてるんだろう。
 こんなんじゃプロデューサー失格だよ。

 情けない私の姿を見下ろして、凛月くんは小さく笑った。

「ちょっとだけ、俺と話そっか」


[ 3/9 ]

[*prev] [next#]
[Clap] [Top]

名前:

コメント:



表示された数字:




×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -