すれちがうココロ 05

 UNDEADのメンバーが帰って、レッスン室にはTrickstarのメンバーだけが残る。
 けれど、その空気は重苦しい。

「まあまあ、サリー! 元気だしなよ! 俺もズバッと言われちゃったし!」

 スバルくんが励ましても、真緒くんはそっけない返事しかしない。
 これは、よくない流れ。

「……衣更くん」

 私は真緒くんに声をかける。当然返事はしてくれない。
 でもそれについて言及している場合ではない。

「朔間先輩の言ったことは大事なこと。でもそれに気を取られないで。今は楽しいライブをイメージすることに集中してみて」

 プロデューサーとして、言葉選びは重要。
 今、真緒くんが最もかけてほしい言葉を考えて選び抜く。

「大丈夫。衣更くんは、みんなを幸せにするパフォーマンスができる人なんだから」

 嘘じゃない。
 真緒くんはいつだってキラキラ輝くステージで、周りに負けないくらい光ってた。
 Trickstarは4人揃って、みんなで光って一番星になるんだから。

「私は、衣更くんのパフォーマンスが大好きだよ」

 心から、大好き。
 せめてこの気持ちだけでも届いて。
 そう願って、笑顔で口にした。
 けれど、その言葉は真緒くんの心には届かない。

「……ははっ」

 私の言葉は、宙を舞って塵になる。

「そういう言葉……どうせ誰にでも言ってんだろ」
「……え?」

 やっと視線のあった真緒くんは、私のことを軽蔑するように見ていた。

「それが、プロデューサーの……お前の仕事だもんな」
「ちょっと、何言ってんのサリー」

 スバルくんが止めようとするけれど、真緒くんの口は止まらない。

「もっともらしいこと言ってるけど、外で白昼堂々アイドルと抱き合って、プロデューサーとしての自覚足りてないやつに何言われても響かない」

 真緒くんの言葉に思い当たることはひとつだけ。
 そのピースを繋げば、真緒くんの不機嫌な理由が遡ってその時と一致する。

「衣更くん……三毛縞先輩と一緒にいるの、見たの?」

 声が震える。私の動揺を受け取って、真緒くんは嘲笑うように笑った。

「別にいいんじゃないの? アイドルと恋愛しても。でもスキャンダルとか普通考えるだろ」
「衣更くん、それ以上はやめて。あんずちゃんに謝って」

 真くんが真剣な顔で言うけれど、真緒くんはまだ言葉を続ける。私は言い返そうにも声がでない。

「俺のパフォーマンスが好きって、笑わせんなよ。俺がどうしたって、お前は……俺のこと本当はこれっぽっちも気にしてないくせに」
「衣更、やめろ」
「俺がどんなパフォーマンスしたって、お前は……どうせ他のアイドルのパフォーマンスと一緒にして覚えてないくせに!」

 プツンと何かが切れる音がした。
 それが涙を堪えるための何かなのだと察した時には、止まらない涙が顔を濡らしていた。

「サリー、バッカじゃないの!?」
「衣更、今すぐあんずに謝れ」

 周りの声なんて何も聞こえない。
 視界が滲んで真緒くんがどんな顔をしてるかも分からないのに……真緒くんから目をそらせない。

「……全部、覚えてるよ。私は」

 真緒くんのパフォーマンスを全ライブ語れっていうなら語れるよ。本当に。
 だって嘘じゃないんだよ。私は真緒くんのパフォーマンスが大好きなんだから。



『あんずに内緒のパフォーマンスぶっこむから、どこがリハと違うか、ちゃんと気づけよ』



 いつだってライブで私にサプライズしようと、真緒くんはそんなことしてたんだよ。だから忘れるわけない。いつもちゃんと見てた。
 私は、覚えてる。嫌になるくらい覚えてるんだよ。そんなことだって……。

「覚えてないのは……衣更くんじゃん」

 アイドルと恋愛? それを真緒くんが言うの?

「最低だよ……ほんと、最低」

 言葉なんて出てこない。
 語彙なんて全部かき消えて出てくる言葉はそんな凡庸な罵る言葉だけ。
 泣いてる私に、また感情が揺らされたのか……。真緒くんの手が伸びてくる。
 でも今はその手に触れられたくない。大好きな手がどうしようもなく憎い。

「あんず……っ」

 真緒くんと同じように、私も真緒くんを避けるように身をよじる。

「……衣更くんなんか、大っ嫌い」

 そんな言葉を吐いた自分が一番嫌い。
 でもそれ以上、今の私の感情を言い表す言葉はなかった。
 


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