欠けているピース 05
【現在】
「誰よりも想っていたくせニ、簡単に忘れてしまうなんテ。ひどい男だよネ、サリーくんハ」
「衣更だって忘れたくて忘れたわけじゃない」
「むしろ大事だったから……忘れてしまったんだよ、衣更くんは」
そう。大事な記憶だから忘れてしまった。
お医者さんもそう言っていた。
『本当に大事な記憶なら……忘れないよ』
あの日病室から出てきたあんずが言った言葉が俺の頭に木霊する。
きれいごとを並べても、あんずの言葉が本当だ。誰もがそう思ってる
サリーのことを責めたいわけじゃない。サリーがあんずとの記憶を適当に扱っていたとも思わない。誰よりも大事にしてたと思う。
でも、だからこそ……。
「なんで……サリーは忘れちゃったのかな」
そう思わずには、いられない。
「明星!」
ホッケーが俺を叱咤するように見てる。分かってる。これは言っちゃいけないって。
あんずが、我慢してるのに。俺が言っちゃいけないって。でも……。
「だって……サリーは記憶がなくなってもあんずのこと好きじゃん」
じゃなければ、あんずのことを連れて行かない。夏目から引き離すみたいに、あんずのことを。
その行動に、記憶がいっさい関係してないなんて、嘘としか思えない。
「どうして……思い出せないんだろ」
でも同時に思うんだ。
「思い出せなくても……衣更くんは、あんずちゃんにまた恋をするんだと思うよ」
そんなふうに、俺も思う。
そしてあんずも、記憶のないサリーにまた恋をするんだって。どうあがいても、きっと二人の運命は切れないんだ。
「夏目」
やっぱり俺は、あんずを奪うことなんてできないんだ。
「俺たちは遠慮してるんじゃないよ。ただ……サリーとあんずのあいだに、入る余地がないだけ」
運命という言葉よりも、もっと深く……二人は繋がってると思う。
スーパーアイドルって言われた、父さんのお嫁さんになった母さんみたいに。きっと二人は運命で結ばれてて……だからこそ思うんだ。
あんずとサリーにはハッピーエンドを迎えてほしいって。
「バルくんがそう言うなラ……そういうことにしておいてあげル」
夏目は、少しだけ……ほんの少しだけ悔しそうな顔をしていた。
けどそれ以上何も言わないのは、夏目もそう思っているからなんだと思う。
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