欠けているピース 04

【高校3年生 秋】

「バルくん。何を見ているノ?」

 教室の窓から外を見ている俺に、夏目が声をかけてきた。ホッケーとウッキーはそれぞれ演劇部の部室と放送部の活動に行っていて、俺は一人で外を眺めていた。
 眺めていた、というより……見ていた、が正しいと思う。

「ふーン」

 夏目は俺の視線の先を見て、そんな声を漏らす。
 関心があるような、ないような……よく分からない声。

「サリーくんと仔猫ちゃんダ。相変わらず仲良しだネ」

 俺の視線の先には木陰で白い紙……おそらく仕事の書類を読んでるあんずと、その肩で昼寝をしてるサリーがいた。

「見てないデ、混ざればいいのニ」
「俺も空気は読めるよ。邪魔したくない」

 それは本音だ。嘘なんて吐いてない。

「最近全然会えてなかったみたいだし、登下校も別だったからよかったなーと思って」

 お互いにユニットのため、アイドルとして生きるために、極力会わないようにしていたから。
 今日はたぶん限界を迎えて一緒にいるんだと思った。
 サリーは最近眠れてなさそうだったから、あんずのそばでぐっすり眠れてよかったなって……純粋にそう思う。

「ていうか、夏目。またあんずにちょっかい出してただろ。やめなよ、サリーが嫌がる」
「関係ないネ。彼氏だからって彼女の行動を規制する理由にはならなイ」

 夏目はあまり他人と馴れ合おうとはしない。俺には興味を持ってくれて仲良くしてるけど。
 そんな夏目が、あんずのことは可愛がってる。たぶん言葉とか行動以上に……夏目はあんずのこと気に入ってるんだと思う。
 それでいて夏目は謎めいてるから、あんずもよく夏目の行動に翻弄されてて、それがサリーを不安にさせてるんだと思う。だからサリーは夏目とあんずが一緒にいることをあまり好まない。

「それにサリーくんのいる場所は……いつだっテ、ボクがいるはずだった場所なんだかラ」

 たぶん、夏目はあんずのことが好きなんだろうって俺は分かってた。
 分かってたけど、知らないふりをしていた。じゃないと、夏目があんずにベタベタすることを俺は止められなくなる。そしたら、サリーが傷つくから。

「バルくんが、仔猫ちゃんに抱きつかなくなったのはそれが理由かナ」

 俺があんずに最後に抱きついたのはSSの時だったと思う。覚えている限りでは。
 サリーと付き合うようになってからは、一度も抱きついてない。
 別にそれで距離ができたわけでもないし、俺はまったく気にしていないけど。

「あの子は、サリーくんの恋人であってもサリーくんのモノではないヨ」

 夏目が俺を見透かすように見ている。
 まるで俺に諭すように。

「誰だって……自分のことを何度も助けてくれた女の子を、好きにならずにはいられないからね」

 夏目の、魔法の言葉。
 いつものふざけた喋り方じゃない。この夏目の言葉は嫌いだ。
 だって、それは俺の心を透かして告げる的確すぎる言葉だから。

「ねえ、バルくん」

 あんずのことが好きなのは、夏目だけじゃない。
 そんなの、身をもって分かってる。
 DDDで俺を助けて……SSでもまた、俺のために戦ってくれた。不安に負けそうになる俺をいつだって励ましてくれた。
 そんな女の子に、恋をせずにいられるわけなかった。
 でも俺は、この恋に気づいた時。
 もうすでにあんずが俺の親友を想ってるって分かってたから気持ちごと押し殺したんだ。
 恋心をプロデューサーとしての親愛に変えて。
 そうしたら全部上手くいったから。今更掘り起こさないで。

「キラキラに輝くキミなら、サリーくんから奪うことだってできたかもしれないヨ」

 笑って言う夏目が、憎いと思った。


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