君が輝いた理由 02
※あんず視点
「あははっ、そんなに驚くことかな?」
私の目の前で天使のような顔が、腹黒さを含む笑い声をあげた。
Trickstarのライブ会場、その関係者席に天祥院先輩がいる。もちろん先輩だけじゃなく、日々樹先輩に弓弦くん、桃李くんも一緒だ。
「驚くこと、ですよ……。いつのまに関係者席なんか……っ」
「北斗くんが用意してくれたんですよ。ぜひ見に来てほしいと」
「北斗くんが!?」
私は驚きのあまり大声を出してしまう。すると桃李くんがかわいらしい顔をうにゅっと歪めた。
「あんずってば、こういうところで大声出しちゃダメだよ。静かにしなきゃお行儀悪いんだからね!」
「そういう坊っちゃまも声が大きいですよ。まあ、あんず様の気持ちは分からなくもありませんが」
弓弦くんは端正な顔でくすりと笑った。
驚くのも当然だ。
あの北斗くんが、日々樹先輩を自分のライブにわざわざ呼ぶなんて……。
「不吉すぎる……」
「あんずさんも北斗くんに負けず劣らず辛辣なことを言いますね! こちらの予想する社交辞令を口にしないところが相変わらず面白いですよ! これぞまさにamazing!」
日々樹先輩のはしゃぎ声とともに周囲に薔薇が飛ぶ。それを桃李くんが嫌がって、弓弦くんが困ったように対処する。
fineの彼らも、変わらない。
fineとも流星隊と同じように学院を卒業してから仕事で会う機会が少なかった。けれど天祥院先輩はその立場上、卒業後も幾度となく顔を合わせていた。
「でもなんで北斗くんは……」
今から始まるライブは、たしかに規模は大きいけれどTrickstarの記念となるようなライブではない。未発表の新曲を披露する、というわけでもない。
言い方は変だが、普通のライブ。
それをどうして北斗くんは……。
「見て、感想が欲しいんだって言っていたよ」
私の疑問に、天祥院先輩は笑顔で答えた。
「今さら、どうしてだろうね?」
学院時代によく見た笑顔。手のひらで何かを転がしているような……そんな感覚。
「まさか……っ」
北斗くんの考えに、気づいた時にはもう遅い。
「天祥院先輩……!」
「しー……始まるよ。今やトップアイドルの一員として活躍している彼らがどんなパフォーマンスをするのか、見せてもらおうじゃないか」
会場のライトが落ちると同時に、歓声が会場内を埋め尽くす。
いつもなら私を高揚させる空気が、今はとても私の心を冷やしている。
このライブを、彼らに見られるのが怖い。観客は騙せても、彼らは騙せない。学院最強と呼ばれ、Trickstarの革命を目の前で見ていた彼らには、きっと分かる。
苦難の日々を忘れたアイドルの存在に。
だって天祥院先輩は、北斗くんの真意をすでに知っているように私には思えたから。
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