愛せないなら壊れて 目を瞑ると、懐かしい記憶が俺の頭を巡る。 かつて常に行動を共にしていた幼なじみの姿が、まるで本当に目の前にあるかのように鮮明に記憶として蘇っていた。 「藤吾ー、今の子って彼女?」 確か、それは仕事でたまたま乃亜と一緒になったときのことだった。先ほどまで俺に親しげに話しかけていた女性の後ろ姿を見て、乃亜は興味津々な様子で問いかけてきた。 「違うよ」 「ふーん。そのわりに、親密そうな雰囲気だったけど?」 「別に。望まれたから少し遊んだだけだよ。俺としても条件は悪くなかったから」 「うわぁ……澪が聞いたら『不潔だ!』って怒りそうなくらい不純だねぇ、藤吾」 「乃亜には言われたくないかな」 感情のこもらない笑顔を向けると、乃亜は「ひどいなぁ」と俺に負けず劣らずの白々しい笑顔を携えた。 「でも彼女じゃないなら紹介してよ。いい体してるから楽しめそう」 「いいよ。でもそこまで楽しめるものでもなかった、っていうのが俺の感想かな」 「あ、そうなの? じゃあいーや」 乃亜の関心はすぐに消え去る。 俺が言えたことではないけれど、乃亜はかなりいい性格をしていたと思う。これはもちろん皮肉のつもりだけれど。 「ていうか藤吾って、女の子に満足することあるのー?」 「どうして?」 「だって藤吾は、澪じゃないと満足できないでしょ。演技も、罵るのも……なんでも」 否定はできない。だって俺に感情を与えられるのは、少なくともあの時は澪だけだったから。 目の前にいた乃亜でさえ、俺の感情を揺らすことはできなかった。 否、今思えば乃亜には絶対に俺の感情を呼び起こすことはできなかったと思う。だって、俺たちは限りなく似ていて、そして限りなく遠い生き方をしていたのだから。 「あはは。でもこの手のことに関しては比較しようがないからなんとも言えないね。澪と行為に及ぶわけにもいかないし」 「えぇー……真顔で返すとは思わなかったなぁ。ま、でも澪が女の子じゃなくてよかったよ。もしそうだったらきっと大変だっただろうし」 「大変? どうして?」 理解できず尋ねると、乃亜は「だってさぁー」と変わらずのんびりした声で言った。 「藤吾が本気で恋愛したら……たぶん女の子のほうが壊れちゃいそうだから」 本当に、乃亜は俺にとって鏡みたいな存在だったと思う。とても似ているけれど、俺ではない……限りなく近い別物。それが俺にとっての乃亜だったのだろう、と。 感情をどこかに置き去りにしてしまった、俺にすら分からない感情も彼は把握していたように思う。 そうでありながら、乃亜は踏み入っては来なかった。その関係性が心地よくも感じていた。 だからきっと、彼は……彼だけは。 最初から分かっていたのかもしれない。 俺が彼女を仮の恋人にした時から、ずっと。 俺と彼女が迎える結末を、乃亜だけは。 ◇◇◇ 暗い部屋の中に、金属が擦れる音が響く。 他人にとっては何も見えない暗闇も、目が慣れてしまった俺にとっては薄暗い夕暮れ時の部屋の中と大差なく感じられた。 目の前に広がる光景は、到底明るみに出せないほど歪みきったものだけれど。 「ああ……涙で顔がドロドロだよ、雛」 彼女の瞳からとめどなく溢れる涙を、俺が指先で拭ってあげようとする。だって彼女の手首は手錠に繋がれて動かせないから、俺が拭ってあげるしかない。 そんなふうに好意で、気遣ってあげているのに、彼女は俺の指から逃れようと顔を背けた。 そんな態度をとれば、俺がどういう行動にでるのか、もう嫌というくらい身体に教え込まれているはずなのに。 「……や、っ、やだやだっ、いやっ……姫崎、先ぱ……もう、やめ……っ」 吐き出される拒絶の言葉の中に、甘美な声が混ざる。すでにとろとろに溶かされた蜜口にはローターが埋められている。もちろん埋めたのは、俺だけど。 スイッチを切り替えて、雛はその快楽に溺れた。 「嫌? 本当かな? ここは溢れて止まらないみたいだけど」 「そんな、の……っ、……お願い……です、から……取り出し、て」 体をビクビクと震わせながら、雛はまた涙を流す。 羞恥心から閉じようとした膝も、俺に掴まれているから開け放たれたまま。 服を剥ぎ取られ、手首は手錠で繋がれ。 俺の目の前で脚を開いて。 いやらしい姿に加虐心が加速する。 「女の匂いをさせて……それが拒絶になるって本気で思ってるわけじゃないんだろう?」 言葉で煽って、雛の溢れる蜜に舌を這わせる。ナカはローターの刺激が止まないまま、俺から新たに追加された刺激に、雛は一層甘い声を紡いだ。 「あ……んんっ、うっ、ぁ……」 「声が出てるよ。そんなはしたない声……澪が聞いたら失望するだろうね」 その名を出せば、雛は眉を寄せて唇を噛みしめる。 この子はどこまでも、俺の心をかき乱す。それが特技なのではないかと、いっそ呆れてしまうほどに。 「俺に舐め取られてるこの感触も……澪の舌を想像してる? だからそんなに感じてるのかな?」 「ち、が……っ」 「違わないだろう? 澪の名前を出すたびに蜜を溢れさせてる」 醜い嫉妬心が俺の心を満たす。 どんなに雛をこの手に抱いても、絶頂の波に追いやっても……全然手に入れられた気がしない。 こんなにも身体はよがってくるくせに、雛は俺のことを憎悪に濡れた瞳で見つめてくる。 (憎いよね。……でもそれでいいよ) その憎しみが、俺を思う感情の一つなら。 「このローターの刺激も、澪のモノを想像してる? 淫乱な子だね、雛……」 「や……っ、あ、あ!」 イきそうになってる雛の膣から、ローターを抜き去る。そうしたときの雛の苦しそうな顔ほど興奮するものはない。 「ほら、顔をそらさない」 無理やりに顎を掴んで、俺は雛の唇を犯す。 キュッと結ばれた唇に、舌をねじ込んで口内のすべてを貪り尽くす。 口蓋に舌を這わせると、気持ち良さからか雛の甘い声がこぼれた。 そうして雛がキスに思考を奪われている隙に、空っぽになって寂しげな蜜口に指を這わせると、雛の体が大きく揺れた。 「あ、ぅ……っ」 堪えようとしても俺がキスで雛の口をこじ開けているから、声を隠せない。 そうしてまた泣きそうになる雛の顔が俺の心をどんどん真っ黒に染め上げていく。 「そんなに欲しいなら……あげるよ。雛の大好きなモノ」 身体は本当に素直。これ以上ないくらいに濡れてヒクヒクした、いやらしいその蜜壺は、俺のことを物欲しげに待っている。 「い、やです。……っ、ね、姫崎先輩……も、こんなこと……」 やめにしよう? そんなことできるわけないって、いい加減分かっているだろうに。 雛の愛液で存分に濡らして、俺は自身を彼女の秘部にあてがう。そうすれば俺が何をせずとも、彼女の身体が俺を自然と飲み込むのだ。 そんなふうに教え込んだから。 彼女の身体は、俺の味しか知らないのだから。 「あぁ……いい締めつけ。最高だよ……雛」 「や、ぁ……抜い、て」 避妊具は当然つけていない。 デキたところで何も問題はないから。 ああ、でも子どもができたら、雛を今みたいに毎日犯すことはできなくなるね。……それに俺と似た子どもなんて、きっとろくでもないだろう。 でもまあ……そんな心配をしなくても雛にはできないよ。 俺という存在に心を壊された雛は、もはや子どもを宿せる身体ではないからね。 「……いっ、痛…っ、んんっ、ん! や、激し……っ」 初めてのときに、酷い抱き方をして。 その後もずっと、余裕がなくて無理やりに抱くことを繰り返していたからか。 雛は痛みさえも快感に変換してしまう。とんでもなく、淫乱な身体になった。 焦らされて泣きそうになる顔も。 欲望に委ねて揺れる腰も。 激しく突かれて喘ぎ声を止められない姿も。 全部が狂おしいくらいに愛しい。 なのに君は。 「姫崎、先輩」 ほら、まるで……本当に俺に恋しているみたいに。 愛らしい瞳に、俺だけを映しているくせに。 「もう、やめ……て、ください」 簡単に俺を沼の底に突き落とす。 散々喘いで、気持ち良さに悶えているくせに。 俺に向ける言葉は拒絶しかない。 「やめないよ。……ほら、もっと腰動かして」 黒い感情が俺の心を埋め尽くす。 染まりきれば、一時的でも快楽に心が満たされる。 でも欲しいものは、手に入らない。 「雛……っ。雛、ああっ、いい、よ。あっ……もっと……っ、くっ」 「ぅ、っ、あ……や、ああっ、あ、あ!」 貫く腰は止まらない。 俺の欲望まみれの濁った感情が、脈打つように雛の中に流れ込む。 俺の愛情を、その身体で全部受け止めて。 でも雛の心はどうしても手に入らない。 「……や、だ……最低、です」 雛の瞳から涙がこぼれる。 この涙が枯れてしまったとき、おそらく雛の心は壊れて、消えて無くなるのだろう。 でも、もうそれでいい。 俺のことを愛してくれない心なら、壊れてしまえばいい。 「愛してるよ……雛」 そうしたら感情を持たない人形に、俺が嘘で塗り固められた感情を与えるから。 「俺の愛情で……どうか壊れて」 それが、俺に感情を与えてしまった君の罪なのだから。 clap Exit コメント ×
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