京都姉妹校交流会―団体戦―1 01
20 京都姉妹校交流会―団体戦―1
『開始1分前でーす』
区域内の至る所に設置されたスピーカーから、五条先生の声がする。
おそらく、団体戦開始の合図を五条先生がするのだろう。
五条先生の楽しげな声が聞こえて、少しだけ心がほっこりしたのも束の間。
『ではここで歌姫先生にありがたーい激励のお言葉を頂きます』
『はぁ!? え……えーっと』
五条先生に続いて、歌姫先生の戸惑いの声が響いた。
(……あの後から、ずっと一緒にいるんだよね)
さっき五条先生と離れる時、五条先生を探していたのは歌姫先生だ。
先生同士、この団体戦を見守る係なのだろうけど。
(……仲、良さそうだったなぁ)
少し会話してるのを見ただけだけど、歌姫先生の名前を呼ぶ五条先生はどこか楽しげで、七海さんと話している時とはまた違う、信頼の空気があった。
年齢も近そうなところを考えると、古くからの知り合いだろうというところまでは察しがついた。
『あー……ある程度の怪我は仕方ないですが……そのぉ……時々は助け合い的なアレが……』
『時間でーす』
『ちょっ、五条!! アンタねぇ』
『それでは姉妹校交流会スタァートォォォ!!』
キーーンと音が割れて、続いた歌姫先生の『先輩を敬え!!』という怒鳴り声とともにスピーカーの音が消える。
少しだけモヤモヤした気持ちが心に渦を巻いていたけれど、その感情を振り払うように狗巻先輩が私の手を握った。
それと同時、みんなが一斉に走り出す。
狗巻先輩に手を引かれて、私もその後を追うように走り出した。
(パンダ先輩は規格外として……やっぱり真希先輩と虎杖くん、速いっ!)
身体能力が桁違いな2人がパンダ先輩と共に先頭切って前を行く。
伏黒くんと野薔薇ちゃん、それから私と狗巻先輩がその背中を追いかける。
そうして塊で森を駆け抜けながら、不意に伏黒くんが胸の前で影絵を作り出した。
「玉犬!」
その呪文と共に黒が影から姿を現す。そうして伏黒くんの命令を読み解き、玉犬が先頭へと駆けていく。
本格的に戦いが始まる。
だから私は手を繋いだ先にいる狗巻先輩に、走りながら声をかけた。
「狗巻先輩っ、あの……っ、私と手繋いでても先輩の呪力を吸収しないようにしてるので! 気にせず呪力を使ってください!」
前の私は相手の呪力を吸収して無効化していたけれど、今の私は呪力の吸収を抑えた上で向けられた呪力も無効化できる。
少なからず足枷にはならないことを伝えると、狗巻先輩は少し驚いた表情を見せた後、了解の合図を送るように「しゃけ!」と答えて、一層強く私の手を握った。
それと時を同じくして、私たちの前方にいる伏黒くんの身体がピクリと跳ねる。
「……っ、先輩ストップ!!」
伏黒くんの合図とともに、前方の木が薙ぎ倒されて。
「ぃよぉーし!! 全員いるな!! まとめてかかってこい!!」
東堂さんが、私たちの前にたった1人で現れた。
(真希先輩の読み通り!)
そしてその一瞬のうちに、虎杖くんが東堂さんの顔面に膝蹴りをかます。
それが分岐の合図。
真希先輩の「散れ!!」の言葉とともに、私は狗巻先輩に手を引かれたままパンダ先輩と野薔薇ちゃんと一緒に先を進む。
「分かっちゃいたけど化物ね」
「そっ、だから無視無視」
「ツナ」
この場を離れるために、一気に森を駆け抜ける……はずだったのだけど。
「……っ!」
「おかか!!」
突然の殺気に、私と狗巻先輩は同時に反応して互いに手を離す。
私と狗巻先輩のちょうど真ん中……寸前まで私が立っていた場所に矢が刺さった。
(どこから……っ)
軌道が分からずどこから飛んできたかも分からない。
辺りを振り返ろうとして、悲鳴じみた野薔薇ちゃんの声が響いた。
「皆実、後ろ!」
「え……」
声のままに振り返り、矢先が私の眼前に襲いかかって。
それを庇うようにパンダ先輩が矢を叩き折る。
同時、激しい銃声音が鳴り響いてパンダ先輩の肩口を2発掠める。
その流れ弾が私の頬も掠めた。
「皆実! すまん、弾が流れた!」
「私は大丈夫です! それよりパンダ先輩のほうが……っ!」
「俺も大丈夫! それより皆実はいったん俺の後ろに隠れろ! そんで野薔薇は耳庇え! 棘、頼むぞ!!」
パンダ先輩の合図と共に狗巻先輩が口元のファスナーを開ける。
その仕草を確認して、パンダ先輩と野薔薇ちゃんが耳を呪力で守り固めた。
「《失せろ》」
矢を放つ主がどこにいるかは分からない。
けれど確実に私の居場所を把握した上で射っていることは確かだ。
狗巻先輩の言霊が森林の中を木霊する。
「……っ!」
けれど、狗巻先輩の呪言が発動して尚、ゴム弾と矢が容赦なく飛んでくる。
パンダ先輩が私を庇いながら、矢を叩き折って、野薔薇ちゃんがゴム弾をトンカチで交わしてくれている。
「いやぁー棘がいるって分かってて攻撃してんだから、さずかに向こうも棘対策はしてるわな。今この瞬間はしっかり耳守ってるってわけだ、残念」
「のんきに言ってる場合!? つーかこのゴム弾、絶対あの性悪妹のでしょ! 隠れてないで出てきなさいよ!」
野薔薇ちゃんが青筋立てて怒鳴るけれど、反応はない。
狗巻先輩の言霊が効かない以上、見えない場所からの攻撃を止める術は――ない、と。
そう決めつけようとして、私の頭に一つの可能性が浮かんだ。
(もしかしたら……っ)
そう考えてすぐ、私はパンダ先輩が今叩き折った矢を拾い上げる。
読み通り、そこには呪力漂う血液がついている。
転がったゴム弾のほうも同様、ゴム弾に纏わり付いているのは確かに別の呪力だ。
「皆実! そこに座り込んだら危な――」
「野薔薇ちゃん、ごめんけどあと少しだけ攻撃避けてて! パンダ先輩と狗巻先輩もお願いします! 京都校の動きを私が止めます!!」
自らに纏った『無限』のイメージを解く。
そうすればゴム弾の呪力も矢についた血液の呪力もすべて、私の中に流れてくる。
その流れを、私は手放さない。
「流呪操術――酩酊!」
繋いだ呪力に集中して、その呪力を介してすべての動きを止める。
そうしたら、先ほどまで止めどなく降ってきていた矢もゴム弾も止んで。
「ナイス皆実。……っと、呪霊を祓ったわけじゃないし、これはセーフよね」
「当然。正当防衛だな」
「しゃけしゃけ」
この団体戦で、私は目立った行動をしてはいけない。
最低条件が『呪霊を祓わない』というだけで、本来は術式を使うのも良くないはず。
そうは分かっていても、この状況ではこうせざるを得なかった。
スピーカーから何も流れてこないから、おそらくセーフなのだろう。
「皆実の術式が効いてるうちに、ここを抜けるぞ」
みんなの後を追って走り出す。
駆け抜ける途中、石に躓いた拍子に彼らの呪力を体内で取りこぼしたけれど。
向こうも私たちの居場所を見失ったのか、ターゲットを変えたのか、動けるようになったはずの彼らからの襲撃はなかった。
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