流呪操術 01

1 流呪操術(るじゅそうじゅつ)



 いつだって、呪いの声は私の中をうるさく流れてた。

《あの人が嫌い》とか。
《どうしてあの人はできるのに自分にはできないんだろう》とか。

 小さな嫌悪も大きな不安も。
 呪いとなって、私の身体に住みついた。



◇◇◇



 知らない誰かの恨言が、うるさくて、うるさくて。

 カーンカーンカーンッ!

 いや、これは異常にうるさいわ。
 もはや声でもないし、何この甲高い音。

 ゆっくりと目を開ける。
 差し込む光が眩しくて反射的に目を細めた。
 視界の先にはフライパンとフライ返し……なぜ?

「寝坊助な皆実ちゃん。おっはよーっ!」

 フライパンとフライ返しが退いて声の主がヌッと顔を出す。
 目を隠した五条先生がニッと口角をあげていた。
 昨日と違うのは目隠しが黒布じゃなくてサングラスなとこ。
 いや、部屋でサングラスって変だよ。
 たしかに朝日が眩しいけど。
 オシャレサングラスだとしたらちょっと引くよ。

「……おはようございます」

 そう口にして、違和感が走る。
 ……私、寝てた? 気絶じゃなく?

「どう? 僕の快眠ピロー、気持ちよかったでしょー? いびきガーガーかいてたよ」
「私、寝てました?」
「うん。皆実のいびきでね、もう家が揺れに揺れて」
「寝てたんだ……」
「全然つっこまないじゃん、うける」

 本当うるさいな。
 こんなうるさい人がそばにいる時点でまず眠れるわけないのに。
 眠ったんだ……私。

「まあいいや。とりあえずご飯食べようか。五条先生特製・ドキドキはじめてのブレックファー」
「トイレ借りますねー」
「スルーしすぎじゃない??」

 朝から漫才するわけないでしょうに。
 本当何だそのハイテンション。わざとかな。
 昨日はもう少し真面目なこと言って……。



『初めてじゃないだろ?』



 うん、思い出すのはやめとこう。


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