反魂人形 01
13 反魂人形
「てなわけで、僕と皆実は明日から2泊3日の北海道旅行に行ってくるから」
朝ご飯を食べている最中に、五条先生が虎杖くんに告げた。
ちなみに朝ご飯を作ったのは虎杖くん。
五条先生の寝室から出て行ったら、キッチンで料理している虎杖くんと鉢合わせて。
昨晩の記憶が頭によぎった私とは裏腹に、虎杖くんは何事もなかったかのように「おはよ、皆実はトーストにバター塗って焼く派?」なんて問いかけてくれた。
虎杖くんは宿儺が顕現している間、本当に眠っていたみたいで。
あの時の記憶は一切ない様子だった。
もしかしたら、私のために記憶のないフリをしてくれてるのかもしれないけど。
いずれにしても、今この状況で気まずさを感じたのは、私だけ。
いつも通りの虎杖くんは、五条先生のお知らせに彼らしい反応を返す。
「え!? いいなー! ……ってか、つまり『デート』だよね? それ」
「――ゴホッ」
虎杖くんのストレートな疑問が刺さって、飲んでいたカフェオレが気管に入った。
「うわっ! 皆実、大丈夫か?」
咳き込んだ私に驚いて、虎杖くんが立ち上がる。
でも私の隣に座ってる五条先生が、虎杖くんのことを制して、私の背中を摩ってくれた。
「すみません……。えっと、虎杖くん。違うから。そういうのじゃない」
五条先生が私に告げた北海道旅行の内容は、そんな呑気なものじゃない。
五条先生の『後輩』さんが北海道で任務の予定になっていて、五条先生はもともとその任務に同行する予定を組んでいた。
けど、この状況で私を虎杖くんと2人きりにしておけなくて。
だから私を北海道に連れていくことにした……って、たったそれだけの話。
でもどういうわけか、私にそう説明した五条先生が、白々しく驚いたような声を出した。
「え!? デートじゃないの!? 泊まる旅館、カップルプランで予約してるよ!?」
「やっぱそうでしょ!?」
五条先生の冗談を虎杖くんは本気で受け止める。
こんがり焼けたトーストをかじりながら、虎杖くんは納得したようにため息を吐いた。
「つーか、否定してたけど、やっぱり2人は付き合ってたんだなー」
「……違うよ」
私が否定すると、虎杖くんが「イヤイヤイヤ」って呆れたように否定を返した。
「いつも一緒に寝てるし、前に俺の前でチューしてるし、付き合ってないわけなくね?? バカな俺でもさすがに気づくよ??」
「ねー。僕もそう思うけど、実際付き合ってないんだよねー、僕たち」
冗談を言っていたかと思えば、突然真面目な答えを告げる。
五条先生の答えに、また虎杖くんが驚いたような声を上げた。
「え……マジ?」
「うん、マジ。皆実は悠仁と比べ物にならないくらい底無しのバカだからさー、僕が生殺しされてんの。かわいそうな僕の気持ちを分かってよ、悠仁」
泣き真似をする五条先生に、虎杖くんが本気で哀れむような視線を向けている。
「いやーたしかに、それは可哀想かも」
「でしょ? だから僕が皆実の心をゲッッッツするために人肌脱いでよ、悠仁」
心にもないことを口にして、五条先生がテーブルに乗り出し虎杖くんの肩を掴む。
懇願するような五条先生の素振りを前にしても、虎杖くんの態度は変わらない。
最後のトーストを丸ごと全部口の中に放り込んで、数回咀嚼した後、そのままゴクリと飲み込んだ。
「うーん、でも皆実がフリーなら俺はラッキーなんだけど」
「ん? 何て? 悠仁」
「絶対聞こえてたよね、先生」
虎杖くんの呟きは私にも聞こえていた。
だから虎杖くんの肩を掴んでる五条先生に聞こえないはずなくて。
わざと聞こえないふりをした五条先生に、虎杖くんは肩を竦めた。
「まあいーや。で、ちなみに俺は何すればいいの?」
「うん? お留守番」
そう口にして、五条先生はニッと笑みを浮かべる。
「僕と皆実がラブラブ北海道旅行してる間、修行を兼ねたお留守番、頑張ってね、悠仁♪」
盛大な煽り文句とともに虎杖くんを家に残して、五条先生と私は北海道へと旅立った。
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