情 01
12 情
※この章では五条悟以外のキャラとのR18が含まれますので苦手な方はご注意ください。
あの後、私は五条先生に連れられて家入さんの診察を受けに行った。
ちょうどいいからと、虎杖くんも一緒に診察を受けて。
その間に学長に会いに行った五条先生が伊地知さんの車で戻ってきて、また3人で五条先生の家に帰ってきた。
「よし、じゃあ夕飯食べようか」
地下室にたどり着いて。
一連の出来事なんて、まるで何もなかったみたいな、いつもの調子で五条先生が言った。
夕飯と聞き、当然私が作るものだと思って立ち上がったら、五条先生に止められる。
「悠仁もいるから、皆実は作らなくていいよ」
「え?」
驚いて、私が小さく声をあげると、虎杖くんがブーブーと後ろで抗議を始めた。
「先生、俺も皆実の料理食べてみたい!」
「んー? ダメ」
はっきりと拒否を示して、五条先生はいつもみたいにケラケラ笑った。
「皆実の料理はやめといた方がいいよ、悠仁。創意工夫をこらした、トンデモ料理だから」
いや、そこまでひどくない。
一応一般的にある料理しか作ったことないはずだけど。
「悠仁も成長期だからね。今日は僕が元気の出る料理を作ってあげる。あ、でも明日からは悠仁が作ってみてよ。料理、できるんだろ?」
五条先生が思いついたように、そう告げる。
五条先生の提案に虎杖くんはやっぱり首を傾げた。
「いいけど。だったら、皆実も作ればいいじゃん。3人ローテーションで」
「ダメ」
「えー……」
あんなに私に料理をさせ続けた五条先生が、頑なにそれを拒否した。
そんなに他人に食べさせられない料理だったっけ?
めちゃくちゃ美味しいってわけじゃなかったけど、私は普通に食べれてたし。
一応五条先生も、全部食べてくれてた。
(無理して、食べてたのかな)
嫌な考えばかりが、頭を支配する。
五条先生の顔を見上げたら、五条先生は私のことを見ずに、階段を上ってキッチンに消えていった。
「皆実って、そんなに料理下手なの?」
「上手では、ないけど」
呟くように言って、私は白クマを見つめた。
◇◇◇
五条先生の料理が出来上がるまで、私は虎杖くんと地下室で、訓練をすることにした。
虎杖くんはこの短期間の訓練の間に、もう黒クマを起こすこともなくなっていて。
対する私は、定期的に虎杖くんの呪力で白クマを起こしてもらっていた。
「皆実、隣座って。その方が眠ってもすぐに気づいて、呪力あげられるし」
あまりに虎杖くんに呪力で起こしてもらう回数が多いから、虎杖くんの隣に座らされた。
「ごめんね、虎杖くん。映画の邪魔でしょ?」
「いいよ。『同時にいろんなことしてても呪力は一定』っていう練習になるし」
虎杖くんは優しく笑ってくれる。
でもやっぱり申し訳なくて。
私が眉を下げたら、虎杖くんが私の頭に触れた。
「こんくらいさせてよ、皆実」
「……虎杖くん」
虎杖くんのまっすぐな瞳が私の瞳を見つめる。
静かな空気に、映画のBGM。
白と黒のクマが寝息を立てる音だけが木霊して。
「もっと俺を頼ってよ。頼りになるかは分からんけど」
五条先生からもらいたかった言葉を、虎杖くんがくれる。
また感情が揺れて、泣きそうになったら。
「ね、2人は卵焼きと目玉焼きどっちがいいー?」
キッチンに向かったはずの五条先生が階下に飛び降りて、割り込むようにそう尋ねた。
目隠しをサングラスに変えた五条先生が、サングラスを少しずらして私を見つめる。
「ああ、お邪魔だった?」
虎杖くんと向かい合ってソファーに座る私を見て、五条先生がわざとらしくそう言った。
◇◇◇
五条先生が作った美味しいご飯を食べて、私は五条先生と一緒に地下室を出る。
まるで別空間に飛んだかのように、地下室を出ていくと、呪いの侵入が止まった。
五条先生に先にお風呂に入るよう促されて、私は言う通りに先にお風呂を済ませる。
そうして、いつものように、その足で五条先生の寝室に向かった。
扉を開けたら、五条先生がベッドの縁に腰掛けて、天井を仰ぐように見上げてる。
「……さっさと入りなよ」
天井を見上げたまま、五条先生が呟いた。
言われるまま、五条先生の寝室に足を踏み入れる。
五条先生の目の前まで歩み寄って、立ち止まった。
「……寝ないの? 良い子は寝る時間だよ」
そんな冗談を口にして、五条先生は首を戻す。
正面にいる私を見上げて、五条先生は挑発するように口角を上げた。
「不自然なことするなよ。いつもは何も言わずに隣に転がってるじゃん」
そう、いつもなら。
私は何も言わずに、当然のように五条先生の隣に横になってる。
「それとも、僕の隣で眠れない理由がある?」
生き返ってからずっと、この繰り返し。
私の嘘を暴くための、五条先生の質問が苦しくて。
「……っ」
気づけば五条先生をベッドに押し倒してた。
勢い任せに倒したら、五条先生のサングラスが外れて、ベッドに転がった。
「何? キスはできないけど、ヤることはできんの?」
現れた綺麗な瞳。
目を眇めて、五条先生が私を見つめる。
「……できますよ」
キスも、その先も。
何も考えなければ、できるよ。
《皆実の呪力は……媚薬みたいなものだ》
五条先生が私に向ける感情が全部、私の呪いによって作られた感情だって。
「皆実」
その事実も全部、受け止めることができれば、なんだってできるよ。
「泣くくらいなら、こんなことするな」
五条先生の顔に私の涙が落ちていく。
泣くに決まってるじゃん、バカ。
真実を知るのが、怖いんだよ。
五条先生が私にくれる優しさが、私の呪いに当てられて作られた感情だなんて、知りたくないんだよ。
「キスができない私は……いりませんか?」
キスも交わりも、五条先生を呪う全てを断ち切っても、一緒にいてくれるって。
そう、言ってほしいの。
呪われた私じゃなくて、ただの私に……そばにいてほしいって。
でも、ただの私じゃ……五条先生のそばにいる理由がないことも、ちゃんと分かってるよ。
「……頭冷やせ、バカ」
五条先生が私のことを押し退ける。
五条先生の答えは、『拒絶』。
(分かってたよ)
分かってたから、キスも何も、できなかった。
逃げたくせに、結局答えを急いで。
自分で聞いておいて、やっぱりバカだよ、私。
「……僕も、頭冷やしてくる」
五条先生が部屋を出て行く。
パタンと悲しい音が響いて、五条先生の香りを漂わせるベッドの上に私だけが残った。
「五条、先生」
冷やした頭で何を思うの。
私がいらないって、冷静に考えるの?
そんなの……。
「いや、だよ」
感情が壊れて、涙が止まらなかった。
◇◇◇
泣き疲れて、五条先生が戻ってくるのも待てずに、私は眠りについた。
でもそれは、誰に向けたわけでもない、自分に対する言い訳で。
今は五条先生と顔を合わせたくなかった、っていうのが本音だった。
眠りの底、真っ暗な闇には何もない。
でもその刹那、そこに眩しい光が落ちてきて。
「皆実……」
その光が、求めた声を再現する。
大好きな声が、私の名前を紡いだ。
でもきっと、それは私の夢が描いた、都合のいい空想。
愛しい声が私の名前を呼んで、大好きな温もりが私を包む。
触れた愛しい感触。甘い味。
それを感じたら、重たい体がどんどん軽くなっていった。
私の体を廻る数多の呪いを奪って、その代わりに愛しい呪いが流れてくる。
「バカ皆実……こんなに呪いを溜めて、僕以外の誰に流すつもりだったんだよ」
温もりが離れていく。
体が冷えていくのを感じて。
「……ほんと、バカだね。オマエは」
目を覚ましたら、五条先生は隣にいなかった。
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