邁進 01
11 邁進
※硝子視点
綾瀬と虎杖が目を覚ました。
いや、2人して死んでたんだけどさ。
なんでか分かんないけど生き返っちゃったんだよね。
(残念)
虎杖も綾瀬も呪いの器として興味があったし、特に綾瀬に関してはその特異体質を解明したかった。
呪力をオートで吸収し、全ての術式を無効化する体質。
だから、私も綾瀬に術式を使ったことはなかった。
(でもあの治り方は反転術式しかありえない)
生き返った綾瀬には直前まであった胸の傷痕すら残っていなかった。
あれほどの治癒、まず自然治癒でないことは確かだ。
けれど綾瀬に反転術式は効かないはず。
だとしたら綾瀬自身が自分に反転術式を使ったのか。
けれど綾瀬は完全に死んでいた。
死んだものを生き返らせることは反転術式をもってしても不可能。
それが通説だ。私も致命傷までなら治すことはできても、蘇生はできたことがない。
虎杖も綾瀬もどうして生き返ったのか。
(やっぱ解剖したかったなぁ)
高専の中を歩きながら、しみじみそう思う。
でも口に出せば、隣を歩く男がウザ絡みしてくることは容易く想像できた。
だから私は本音を心にしまって、もう1つの本音をため息に溢した。
「あー報告修正しないとね」
解剖の手間は省けたけど、新たな手間が増えた。
死んだ人が生き返ったなんて報告書、修正でどうにかなるものでもないし。
ほとんど書き直しだろうなぁって、うんざりしてたら。
「いや、このままでいい」
五条が静かにそう答えた。
「また狙われる前に皆実と悠仁に最低限の力をつける時間が欲しい。記録上、皆実と悠仁は死んだままにしてくれ」
まあ修正する手間が省けるのは嬉しいし、私は別にどっちでもいいけど。
でも死んだままってことは、高専にも通わせないってことだよね。
つまり……うん、よく分かんない。
「んー? じゃあ綾瀬と虎杖、がっつり匿う感じ?」
私が尋ねると、五条はあくまで静かに否定する。
「いや交流会までには復学させる」
「何故?」
「簡単な理由さ。若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ、何人たりともね」
昔の尖りまくってた五条が聞いたら「オ゛ッエー」なんて言いそうな正論。
私は別にその正論が嫌いじゃないけど。
でもさ『青春』なんて言葉使うなら、もっと楽しそうに言いなよ。
「ね、なんでさっきから不服そうなの?」
解剖室を出てからずっとそう。いつもうるさすぎるくらいにうるさい五条が、不気味なくらいに静かで、こういうのなんて言うんだっけ。上の空?
「別に、何も不服じゃないけど」
「ふーん」
その態度がすでに不服そうなんだけど。
あー、あれか。
「虎杖も匿うから、綾瀬との同棲生活も終わりだからか」
冗談半分で言ったら、五条が黙った。
当てちゃったのか……。
「女子高生に本気になるアラサー男ってどうなの」
「その言葉、硝子のもう1人の同期にも言えることだろ」
ああ、そうだった。
私の同期は2人とも、揃いも揃ってやっぱクズだったんだろうな。
夏油に至っては、一番歳食った時でも綾瀬は中学生でしょ。
まあ、親友の大事にしてた女に手を出す五条はやっぱ最強だと思うけど。
でも結局、この2人の気を引いた綾瀬が1番すごいと思う。
まあ、こればかりは綾瀬の才能だよ。
「放っとけないからなぁ、綾瀬って。危うい感じが」
「その危うさが、今はたまらなく憎いんだけどね」
五条のまとう空気がピリついた。
ああ、前言撤回。どうやら、この不服そうな態度は『綾瀬の危うさ』が原因らしい。
綾瀬が自分を生贄にして術式使ったことが、それほど許せないのか。
「結果論だけど綾瀬は生き返ったんだしさ。綾瀬のおかげで実際、伏黒も助かってるわけだし。許してやれば? そんなに間違った選択はしてないと思うけど?」
別に五条と綾瀬がどうなろうと知ったことではないけど。
今この瞬間、隣で高専を破壊されても困る。
冗談じゃなくて本気で。五条の不服な態度はそれを容易にやって退けてしまいそうなくらい、不気味だから。
「皆実が、僕に嘘を吐かなければ許すよ」
さっき人前で綾瀬のことをあんなに抱きしめておいて、許さないって選択肢があんの?
私にはやっぱり五条が何考えてんのか分かんないや。
「程々にな。一応病み上がりだから」
「どこぞの誰かに治された身体だけどな」
「え、誰が治したか知ってるなら教えてよ」
不満たっぷりな五条の呟きは、五条の意図に反して、私の好奇心を揺さぶった。
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