自分のために 01
6 自分のために
※この章では五条悟以外のキャラとの微R18が含まれますので苦手な方はご注意ください。
五条先生の家は広い。
1ヶ月近く住んでるけど、まだ行ったことない部屋があるくらい。
(たしか、地下もあるんだっけ?)
やっぱりお坊っちゃんなのかな、五条先生って。
そんなことを考えてたら、背後から五条先生に抱きしめられた。
「皆実、何やってんの?」
今日は虎杖くんが上京してくる。
さすがに虎杖くんがいるのに、五条先生の部屋で寝るわけにはいかないから。
たしか向こうに道場みたいな作りの畳部屋があったなーと思って。
自分の枕と毛布を抱えて、そっちに移そうとしてたんだけど。
「虎杖くんに五条先生と一緒に寝てるとこ見られたくないので」
「何の話?」
あ、また話が噛み合わない感じだ、これ。
「……虎杖くんもここに住むんですよね?」
「悠仁は寮だよ」
「え?」
「え?」
五条先生まで首をかしげた。
「え、皆実ってば悠仁と住みたいの?」
いや、そういう意味じゃないけど。
「虎杖くんも要監視なのでは……?」
「恵が監視するよ。隣の部屋にするから」
「私もそれでよかったのでは?」
「合法的に美少女JKと住めるなら、その手は逃さないでしょ」
「クズ?」
「ひっど。僕ほど誠実なナイスガイはいないでしょー」
五条先生はやっぱり少し、日本語が不自由だ。
◇◇◇
視線が痛いのか。
身体が痛いのか。
「あの子、やばくね?」
「どこの高校だろ。お前、連絡先聞いてこいよ」
「つーか隣にいる人なんで目隠ししてんの?」
虎杖くんのことを待ち合わせ場所まで迎えに行ってるとこなんだけど。
さっきからジロジロと突き刺さる視線が痛い。
ただでさえ人が多くて、その分呪いも相当量溢れてるのに。
「街中にくると、顕著に思うけど。……やっぱり皆実、モテるでしょ?」
五条先生が私のことを見下ろす。
初めて会った時もそんなことを聞かれた気がする。
「告白とか、結構されたんじゃない?」
「……多少」
好きだとか。
付き合ってほしいとか。
そんなことを言われたことは結構ある。
中2の時は結果として1年間のうちに学年の男子全員に告白なるものをされた。
いずれも、告白された理由は【顔】。
呪いが教えてくれた。
「その割に自己顔面評価低いよね。わざと謙遜してる? 僕みたいに開き直って顔自慢したほうが嫌味じゃなくない?」
「嫌味なことに変わりないですよ。清々しいですけど」
言いたいことはわかる。
五条先生が「僕なんか全然イケメンじゃないですよー」とか言ったらたしかにムカつく。絶対言わないだろうけど。
でも私の場合は……。
「自負するほど整ってないですから」
「でた、でた」
「……実際、前の学校でもよく言われてたんですよ」
言われてたっていうか、呪われてたっていうか。
「《綾瀬皆実は言うほどかわいくない》って」
「嫉妬は怖いね」
嫉妬。
確かにそうだったのかもしれないけど。
でもその呪いは事実だった。
「皆実」
私の頭に五条先生の手が乗る。
見上げたら、五条先生が笑ってた。
「僕といるオマエは、かわいいよ。少なくともね」
そう言ってくしゃくしゃと私の髪を掻き乱した。
街に出るって言うから、せっかく頑張って髪を結ったのに、これじゃあグシャグシャだ。
急いで直そうとしたけど、五条先生がそのまま私の髪を解いた。
完全に、台無し。
「悠仁と会うのにかわいすぎるから、いつも通りにして。……そのほうが多少は視線も減るよ。多少だけどね」
五条先生は私のヘアゴムを奪って、人差し指でクルクルと遊んだ。
◇◇◇
「あ、皆実ー! こっちこっち!」
待ち合わせ場所の駅前で、私の姿を見つけた虎杖くんが大きく手を振りながら私の名を呼んだ。
私も虎杖くんに手を振り返そうとしたんだけど、五条先生が私の手をガシッと握った。
「オイ、……オイオイオイ、悠仁ィ!」
「恥ずかしいから大声出さないでほしいんですが」
懇願してみたが、五条先生は完全無視だ。
依然、うるさい。
「なんで皆実が先なの! まず僕に挨拶でしょ!」
「あ、五条先生。ごめん、今気づいた」
「イヤイヤイヤイヤ、こんな街中で目隠ししてるの僕くらいよ? 真っ先に気づくでしょ」
ねちっこい五条先生が出てきてしまった。
絡み方が雑すぎてやばい。
虎杖くんは「そう言われても……」って困り顔で頬をかいてる。気持ちは分かる。
「さっきそこ歩いてた人があっちに変わった制服着ためちゃくちゃかわいい子がいたって騒いでて。皆実なんだろうなって思って、来るの待ってたから」
やっぱり変わった制服だよねぇ。
だから私服で着たかったんだけど。
私は私服持ってないし。五条先生はこんな時に限って服貸してくれないっていうし。
「クッソ。僕も布じゃなくてサングラスにすればよかった! そしたら『あっちからイケメン来る!』って噂になったのに!」
「目立ちたがりですか」
「目立ってなんぼでしょ!」
五条先生はやれやれと言わんばかりの顔をする。
その仕草がなんかムカついた。
「ま、いいや。じゃ、今から高専に行くよ。はい、切符」
五条先生が私と虎杖くんに切符を渡す。
高専は郊外だからここから遠い。
切符をもらった虎杖くんは首をかしげた。
「高専、ここの近くじゃねぇの?」
「アハハッ。呪術教えてる学校なんて怪しいでしょ。街中には作んないよ」
虎杖くんは「ふーん」とちょっとだけ不服そうな顔をした。
なんとなく虎杖くんの考えてることが分かって、私は虎杖くんを呼び止める。
「虎杖くん」
五条先生に聞かれると面倒なことになる気がしたから、私は虎杖くんの耳元に顔を寄せた。
「……皆実!?」
「しーっ。……もしかして、観光とかしたかった?」
「……っ、そう、だけど。皆実、近くね?」
虎杖くんが顔を赤くしてる。
声をひそめたかったから近づいただけなんだけど。
背後から身体をぐいっと肩ごと引き寄せられた。
「僕が近づくとやたら警戒するくせに、なんでそんなに悠仁に近づいてんの」
五条先生がわざと私の耳元で囁いた。
こんなふうに、五条先生の距離感は変な感じがしてくるから嫌なんだよ。
たぶん私も今、虎杖くんと同じくらい顔赤い。
「まっ、観光とかは追々ね。ちゃんと考えてるから」
五条先生は私を離さないまま、虎杖くんに向かって笑顔で話しかける。
(……地獄耳)
やっぱり聞こえてたんだ。
コソコソ話なんて、するだけ無駄だった。
ていうか。
「もう離してください!」
「怖っ」
五条先生を押しのけようと、五条先生に向かって腕を振り上げたけど。
ヒョイっとかわされた。
「帰ったらちゃんと真希に稽古付けてもらいなよ? 笑えるほど弱いんだから」
ケラケラ笑って五条先生は先を行った。
「五条先生って、本当皆実のこと好きなんだな」
「どこ見たらそう思うの」
「え、全部」
虎杖くんがキョトン顔で言ってくるから、私までキョトンとしてしまった。
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