呪いの享受 01
3 呪いの享受
全身の至る所を刃物で刺されたみたいな痛みが走る。
そんなの、いつものこと。
でも呪力を抜いちゃえば少しは痛みが和らいでた。
血を抜くか、あるいは誰かと交わるか。
たったそれだけ。
でも今は、それができない。
『僕の監視下で、自分を傷つけるのはやめろ』
約束を、律儀に守る必要はないのかもしれないけど。
「痛みくらい、耐えればいいもんね」
手にしていた手のひらサイズの注射器をポケットにしまう。
呪力を抜けないことだけが、いつもと違った。
◇◇◇
「皆実! その構えじゃまた吹っ飛ぶぞ!」
いや、もう吹っ飛んでますから。
真希先輩のボロ棒が私の脇腹に思いっきりぶつかって、身体が飛んでった。
もう慣れてしまった、地面に背中がぶつかる衝撃。
受け身の取り方はだいぶ上手くなったんじゃないかなと思う。
「大丈夫か? 皆実」
パンダ先輩と狗巻先輩がしゃがみ込んで私の顔を覗き込んだ。
「高さ5メートル上空に飛ばされて、そのまま落下したら大丈夫じゃないでしょう。普通」
伏黒くんは冷静に発言する。
少し離れたところから今日も見事に吹き飛ばされてる私を呆れた目で見てた。
「だよなあ。最初から思ってたんだけど、皆実ってちょっと前まで一般人だった割に怪我への耐性強いな。全然痛がらないし」
「確かにな。私に投げられてんだから骨の1.2本折れてんじゃねぇの? あるいはヒビが入ってるか」
パンダ先輩と真希先輩が不思議そうに私の顔を覗き込む。
「いやいや、耐性とかないです。普通に全身痛いですよ」
これは本当。
普通に打ちつけたところは痛いし、治りも人並みだから尾を引くし。
「綾瀬には反転術式使えないんで、ソイツを無意味に怪我させないでくださいね」
「無意味に吹っ飛ばしてるつもりねぇっての」
その『反転術式』っていう『なんでもなおし』みたいな術式も呪力を無効化しちゃう私には使えないから、五条先生には可哀想な身体って笑われた。
自然治癒をかわいそうって形容されるのは初めてだけど。
「真希先輩、気を遣わなくて大丈夫ですから。痛いは痛いですけど、私痛みには強い方なんで」
これも本当。
物理的痛みは、痛いけど我慢できないことはないから。
大丈夫だと答えて真希先輩に相対する私を、伏黒くんがじっと見つめてた。
パンッパンッ
そんな私の耳に乾いた手を叩く音が聞こえる。
音の方を向いたら、五条先生がいた。
「恵! それと皆実」
名前を呼ばれて、私と伏黒くんが同時に返事する。
「2人に任務だよ。今すぐ出れる?」
今の私が任務に出ても、何もできないけど。
出動する前から、伏黒くんに迷惑かける未来が見えた。
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