秘匿死刑 08

 呪いが抜けきって、身体が軽い。
 目を覚ましたら日差しが眩しかった。

「……朝」

 あの後、寸前まで眠れなかったのが嘘みたいに睡魔が襲ってきて、そのまま私は眠りについたみたいだ。
 隣を見たら、五条先生がいる。

(寝顔も綺麗なんだよなぁ、この人)
 
 五条先生の寝顔をじっと見つめる。
 その頬に触れようとして、やめた。

「触んないの?」

 目を閉じたまま、五条先生が尋ねてくる。
 やっぱり、起きてたんだ。
 なんとなく、そんな気がしてたけど。

「どうせまた、『私が触ったら五条先生が無防備になる』とか思ってんでしょ」

 五条先生にはお見通し。
 私が頷くと、五条先生は呆れたようにため息を吐いた。

「僕ね、バカじゃないからさ。皆実と違って」
「私も五条先生が思ってるよりバカじゃないです」
「バカだよ。……だって、僕が自分の住処に何もしてないわけないだろ」

 五条先生はそう言って、初めてその事実を教えてくれる。

「結構強力な結界張ってるんだよ。呪霊も、外の呪力も絶対にここには入ってこない。……だから、この部屋の中にいるときは身体平気だろ?」

 ずっと不思議だった。
 五条先生の部屋にいるときは全然呪いが流れて来なくて。
 本当に静かで。
 うるさいのは、五条先生くらいで。

「僕の呪力が途切れても結界は解けない。代わりに結界内……つまり僕の部屋の中ではそもそも術式が使えない。ま、呪力操作はできるみたいだけどね。そういう縛りで張ってある。だから皆実が考えてることは最初から杞憂なの」

 さすが、というか。
 何も言えずにポカンと口を開けた私を五条先生は笑った。

「で、僕に触らないの?」

 そう言われたら、遠慮するのも変な気がして。
 五条先生の頬に触れた。
 滑らかな肌をツツ、と撫でて。

「皆実」

 五条先生は目を閉じた。
 それが合図みたいに、私は五条先生に顔を寄せる。

「……ん」

 私から始めたキスは、もう五条先生に奪われて。
 角度を変えて、舌が何度も絡んだ。
 そうして薄く目を開けた先には、目を細めた五条先生がいる。

「……おはよ、皆実」

 日差しを浴びて、五条先生の髪が銀色に光る。

「おはようございます……五条先生」

 挨拶を返して。
 また私は五条先生と唇を重ねた。
 
 そうして、私と五条先生の関係は、また新たな形に歪んだ。


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