反魂人形 02
飛行機で約1時間半。
私と五条先生は、札幌の地に降り立った。
五条先生に案内されるままやってきたのは、今日から2日間泊まる予定の旅館。
風情のある日本家屋の中に洋風のお洒落なインテリアが馴染んで――美しくライトアップされた薄暗いエントラスが、すでに高級感を漂わせていた。
(一泊いくらするの……ここ)
旅館の女将さんに通された部屋に入って、私は完全に言葉を失った。
修学旅行とかで、どこかに泊まりに行ったことは数回ある。
だからだいたい旅館のイメージはあるんだけど。
(……本当に2人部屋?)
テーブルとソファーが置いてあるリビングのような部屋と、寝室……どちらも30畳くらいあるんじゃないかな。
ベッドもツインだけど……たぶんこれ、どっちもダブルくらいのサイズ感……。
「うん、急いでたからわりと適当に選んだんだけど、悪くないね」
五条先生はサングラスを浮かせて、満足げに呟く。
このレベルが当然と言わんばかりに平然とした様子で、荷物を居間にあたるであろう部屋に置いた。
「何してんの、皆実」
部屋の入り口で固まってる私を、五条先生が不思議そうに見ている。
「……ここ、泊まっていいんですか? 私」
「僕一人で泊まってどうすんの。そんな虚しいことある?」
五条先生が呆れた様子で返事して、私の手を引いた。
「こっちおいで」
私の手を握って、五条先生が寝室の奥に案内する。
そこには……。
「え……すごい」
部屋の中に、外の景色が一望できる露天風呂がついていた。
「サイトでこれ見てさー、他の情報はろくに見ずに予約しちゃったんだよね。高けりゃ間違いないと思って」
戯けたように言って、五条先生が私の手を引っ張る。
私のことを抱きしめるように、腰を抱いて。
「僕が任務に行ってる間……ここでゆっくりしてて。ちゃちゃっと終わらせてくるから」
2泊3日の1日目。
五条先生は、その『後輩』さんと任務に出かける。
だから、私はここでお留守番。
「観光は僕と一緒に行こう。だから今日は暇だろうけど、白クマ練習と……もし呪力が切れちゃったら、そこに観光パンフ置いてるから僕と明日行く場所決めといて」
任務が1日で終わる保証なんてないのに。
五条先生は私に時間を割く約束をくれた。
「今日は遅くなるかもしんないけど、待ってて」
優しいキスを私に落として。
「帰ってきたら、一緒にこの温泉入ろ」
まだ五条先生は目の前にいるのに。
甘い囁きが、もうすでに、五条先生の帰りを待ち侘びさせた。
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