プロローグ 04

※皆実視点

 目を覚ましたら知らない風景が広がる。
 周りにお札がいっぱい貼られていて、なんだか不気味だった。
 手を動かそうとしたら、何かに腕ごと縛られていた。

「い、ててっ」

 同時に、こめかみに痛みが走る。
 血は止まってるみたいで、顔を伝っていた熱い感覚はもうない。
 でも傷があるってことはー……。

「さっきのはやっぱり夢じゃないんだ」

 夢だったらよかったのに。
 いや、そうでもないか。
 遅かれ早かれ、きっとこうなってた。
 本当は11年前にこうなるべきだったんだよね。

「殺されるんだよね、私」

 口にしたら他人事みたいで、笑えちゃう。
 でも、そんな私の暢気な言葉を私じゃない他の声が、笑ってくれた。

「緊張感ゼロすぎじゃない? 本当に死ぬって分かってる?」

 黒い布で目の隠れた男の人がそんなことを言った。
 あー……この人、えっと五条先生……だっけ。
 ていうかこの人、なんで目隠ししてんだろう。
 前見えなくない?
 整った顔してるのになんで隠すんだろ。

「この部屋に閉じ込められて、そんなに落ち着いてる子は初めてだよ。憂太なんか酷い病み様だったからね」
「まあ、何も知らずにこんなところ閉じ込められたら病むでしょうね」
「これから死ぬって分かってたら普通はさらに病むと思うけど」

 五条先生は何が楽しいのか、クックックッと喉を鳴らす。
 この人の笑い方はなんかこう、イラッとするんだよなあ。

「さて、本題に入ろうか。綾瀬皆実」

 笑っていたかと思えば、ふと空気が変わる。
 周囲の空気が一気に冷たくなった気がした。

「君の秘匿死刑が決定した」

 改めてそう告げられる。
 もう腹は括ったからか、それほど重く響かなかった。

「理由は『高校に呪霊を召喚し、自らの呪力を供給することで強化。特級呪霊を使役し、校内生徒及び教師を呪殺した呪詛師の可能性がある』から」

 起こった事実はその通りで、何も否定できない。
 でも五条先生の話はそこで終わらなかった。

「でもね、可能性で人を殺すことを僕は良しとしない。もしそれで君が無実なら、僕たちの方こそ呪詛師だ」

 五条先生の指先が私の顎に触れる。
 くいっと上を向かされて、五条先生の顔と向き合う。
 でも黒布に阻まれて五条先生と目が合ってる気はしなかった。
 おかげで無様な私の顔は見ずに済んだ。

「だから君が何者か、それが判明するまでは僕の監視下で生きてもらう」

 どうしてこの人は、こんな私を助けるんだろう。
 どう考えたって、殺したほうがいいはずなのに。

「やめたほうがいいですよ。……私、呪われてるんです」
「知ってる」
「五条先生に迷惑かかりますから」
「うん。でも言ったでしょ、僕最強だって」

 あの人以外、私を守ってくれる人はいないはずなのに。
 呪われた私は誰かを傷つけることしかできないのに。
「もし君が呪霊を呼んでも、僕なら死なない。何が起きたとしても、僕が君を守ってあげる」



『皆実。……君は、私が守るよ』



 どうして、五条先生はあの人と同じことを口にするんだろう。
 どうして、私はその言葉に逆らうことをしないんだろう。

「皆実。僕が僕の世界で、君を心の底から笑わせる」

 腕の縛りが解ける。
 五条先生の指が私の顎を離れ、頬へと滑った。

「もしそれができなかったら僕が君を殺してあげるから」

 五条先生の唇が、私の唇と重なった。
 私の中を流れる呪力がどんどん五条先生に流れていく。
 身体がどんどん軽くなって、身体を刺す痛みも消えて。

「……ごめんね。でも、初めてじゃないだろ?」

 また意識が遠のいた。


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