本音は快楽の底に溺れた | ナノ


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本音は快楽の底に溺れた




「真……緒、くん」

 頭がふわふわしてる。
 でも理性は捨てきれていなくて、私は今の状況が最低最悪なものだってことをちゃんと理解していた。

「ダメ……これ、罠だよ」

 私は乱れた呼吸を整えることができないまま、真緒くんに現状を説明する一番簡潔的な言葉を告げる。
 でも手は真緒くんの胸にしがみついたまま。真緒くんの腕に抱かれ、背中に回る真緒くんの手を止めることもしないで。
 私は浅ましく、抵抗にもならない拒絶の言葉を形式的に告げているだけ。
 でも、仕方ないよ。真緒くんに抱きしめられて、ただでさえおかしくなっている身体は簡単に絆されるから。

 だって、私は……。
 真緒くんのことが……好きなんだよ。

「このままでいるの、きついだろ」
「……真緒くんに、こんなことさせるよりは、マシ……だよ」

 それでも『プロデューサー』としての私が、真緒くんの言葉を素直には受け入れない。
 真緒くんの言う通り、このままでいるのはかなりきついのだけど。
 でも、だからといって真緒くんに『この熱』を処理してもらうわけにはいかない。

「じゃあ、どうするんだよ。もしこの扉が開いて外に出られたとして……あんずは一人ですんの? それとも……」

 真緒くんの唇が耳元に寄せられる。
 彼の息遣いがもろに私の耳に直撃して、一層低く響く声が私の脳をドロドロに溶かした。

「他の誰かに……抱かれるつもり? 俺を呼んだのは、俺を焦らして煽るため?」

 身体が跳ねたのは、図星だったからとか、そういうのではない。
 好きな人の声に、身体が馬鹿みたいに高揚してしまったから。今はもう身体が自分のものじゃないみたいに、まったくいうことを聞いてくれないから。
 でもそんなことは伝わらないから、真緒くんは私の反応を図星だと、受け取った。

「……誰に? あんずは誰に抱かれたいんだよ」
「い、たい……真緒くん、放し、て」

 抱きしめる腕が苦しくて、呼吸もうまくできない。それすら興奮に変わる私の身体は、本当に壊れたオモチャみたいにおかしくなってしまっている。

「媚薬まで飲んで……誰とシたかったわけ。……それとも、電話してきたときには誰かとヤってた? やけに声がやらしかったもんな」

 違う。違うの、真緒くん。
 全部、誤解だよ。
 媚薬を飲んだのは私の意思じゃないの。誰かとシてたわけでもないの。
 本当に、全部が罠なんだよ。
 ……でも、それもただの言い訳なのかな。

「言わないなら、俺が抱く」

 もしも抱かれるなら、君がいい。
 そんな言葉をともすれば口に出しそうだった。
 けど、言えるはずないの。

「……あんずが苦しそうなのは嫌だから」

 真緒くんが私を抱く理由はただただ、私への同情でしかないから。
 そこに私と同じ気持ちなんて存在しないのだから。

「真緒、くん……っ」

 だめ。
 その言葉はもう告げられなかった。
 一度切れた糸はもう繋がらない。
 真緒くんに唇を奪われてしまえば、私はもうその熱を求めて狂ってしまうしかないの。



 ◇◇◇



 どうしてこんなことになったのか。
 それはほんの30分前のこと。
 今日はTrickstarとEdenの合同ライブの打ち合わせがあった。SSでのライブが好評だったからか、この2ユニットで合同ライブを行う機会が最近増えていた。
 今回の打ち合わせは秀越学園の会議室。
 けれど、ほとんどのメンバーはライブでの動きを確認するために別室でレッスンに励んでいる。

 だから、その会議室にいたのは……。

「あんずさん、今回のライブのコンセプトについてですが!」

 私と、七種茨……くん。
 二人だけだった。

 七種くんは、いつもの調子で冗談なのか本気なのか分からない謎めいた言葉を吐きつつ真剣にライブのセットや演出について建設的な案を出してくれていた。

「たしかに……ここでTrickstarとEdenが照明を利用して対照的に表現できたらかなりいいかも」
「そうでしょう! あんずさんはやはりセンスがよろしいようですね! 閣下が認めるのも頷ける!」

 七種くんのひらめきや考え方は勉強になる部分も多い。だから彼との話し合いは嫌いではない。
 でも、かといって彼の意見を全部言葉のまま鵜呑みにしていたわけではない。彼の策略を、彼の裏の考えを常に推測して、Trickstarが彼に乗っ取られないように。
 私は気を張っていた。
 だからこのときも別に気を抜いていたわけではなかったのだ。

「ところであんずさん」
「はい」

 次はどんな要求がくるのだろう、と。そんな気持ちで返事をしたときだった。

「衣更さんとは順調ですか?」

 一瞬、思考が止まった。
 でも私は普段から表情が固まっている人間だから、そのささやかな変化を動揺と読み取られることはなかった。

「まあ。彼の人気からして、プロデュースはうまくいっているように思いますけど」

 最近の真緒くんは、本当に以前とは比べ物にならないほどに人気だ。かつて彼のことを懐中電灯と揶揄した乱さんも、今は真緒くんのことを気にしている。
 私が真緒くんのアイドルとしての成果について答えると、七種くんは愉快に笑った。

「そうではありませんよ、あんずさん。分かっているでしょう? あなたは聡明な方とお察しします。そうでなくては倒しがいもありませんしね! 突撃! 侵略! 制覇! が基本理念ですから!」
「私は聞かれたままに答えただけですけど」
「これは愉快ですね! では質問を変えましょう」

 そのとき、七種くんの目の色が変わった気がした。時折弓弦くんが見せる、あの獲物を捕らえる時の目だ。

「……衣更さんとのお付き合いはどこまで進んでおられるのですか?」
「残念ながら、お付き合いしておりませんので進むことがないです」

 嘘はついていない。
 以前、凛月くんにも似たようなことを尋ねられた。
 他人から見たら、私と真緒くんはそういう関係に見えるほど仲が良いらしい。
 けれど誰がどう言おうとも、私たちの関係に不純なものはない。お互いの気持ちがどうあるかは、別にしても。

「おやおや、これは驚きであります。ではお身体の関係もないということでしたか」
「はあ……もうこの話はこれくらい、で」

 ド、クン。

 心臓が大きな音を立てて跳ねた。
 胸が焼けるように熱い。

「な、に……これ」

 私はテーブルに手をついて、咄嗟に七種くんのことを見上げた。七種くんは案の定、薄ら笑いを顔に浮かべていた。

「即効性と聞いていたのですが……少し時間がかかったようですね。改良の余地あり、と」

 私の姿を見て、何かをメモしている。
 そうしてスラスラとペンを滑らせた後、ペンを持った手で私の顎を持ち上げた。
 触れられた箇所が、むずがゆくて身体が跳ねる。心が浮遊して身震いが止まらない。

「でも効能は高評価ですね」
「何を、したん、ですか」

 私が問いかけると、七種くんは彼が私に用意してくれた「会議用のお茶」を掲げた。

「このお茶に、少し薬を混ぜさせてもらいました。下世話ながら衣更さんとの身体のご関係がさらに良好になればと思いまして! まあ、そういうご関係にないようだったので……むしろ関係を進展させてあげる手助けになってしまいましたが!」
「なにを、言って……や、っ、ちょっと!」

 七種くんは楽しげな笑顔を携えたまま、私のブレザーのポケットに手を伸ばす。
 そのせいでささやかに擦れる布の刺激すらも、快感になって身体が疼いた。
 私が身悶えしているうちに、七種くんは私のスマホを奪って少し操作した後、そのスマホを私の耳にかざした。

「な……」

 何をするのか。その声は吐息となって空気に溶ける。

『もしもし、あんず? どうした? 会議終わったのかー?』

 真緒くんの声が、耳に響く。
 今、この声を聞いたらダメなのに。

『こっちは休憩中なんだけど、Edenの連中がどっかに行ってて……もしかしてそっちにいる?』

 答えなきゃ、いけない。
 いけないのに……声が、出せない。
 そんな私に痺れを切らしたのか、七種くんが行動を起こした。

「ひ……っ、や、ぁ」

 七種くんの唇が首筋に触れる。
 瞬間、ビリビリとした快感が私の頭を駆け巡った。

『……あんず? おい、どうした?』

 真緒くんには気づかれてはいけない。
 いけないのに、声が隠せない。
 七種くんの行動はさらに過激さを増す。

「ほら……衣更さんが『どうした』って聞いてますよ」

 反対の耳でそう囁きながら、七種くんが私のスカートをたくしあげるようにして太腿を撫でた。

『や……だ、真緒くん……ま、おくん』

 もどかしくて、苦しくて。
 でも七種くんに触れてほしくはなくて。

『たすけて』

 私は後のことを何も考えないバカだった。
 私がそう告げると、真緒くんが先に通話を切った。

「では、自分は退散しなければいけませんね。あんずさん」

 私は今出せる全力で、七種くんのことを殴ろうとした。でも私の振るった手は七種くんに簡単に捕らえられる。

「なめないでいただきたいですねぇ。こんな腕に殴られてあげるほど、なまってはいませんよ」

 そうして七種くんは、私の前にその本性をさらけ出した。

「本当は……『俺』があんたを抱く予定だったのを処女くらい好きな相手に捧げさせてあげようっていう優しさを……どうか噛み締めながら快感に溺れてくださいよ」

 もし、私が真緒くんとそういう関係だったなら。
 私はこの腕に抗うこともできず暴かれてしまっていたのかもしれない。
 この現状をどう捉えればいいのか、もはや頭はうまく理解しきれなくて。

「敵地で快楽に溺れることを、『プロデューサー』のあなたは死ぬほど悔いるんでしょうね! その顔がきっと私の精神を安定させてくれることでしょう」

 罠にかかった愚かな私を嘲笑って、七種くんは最後私の頬にキスをしてその場を後にした。



 ◇◇◇



 そうして真緒くんがやってきて、すぐに会議室の鍵が外から閉められた。たしか、七種くんがこの部屋の鍵は外からしかかけられないと言っていた。
 おそらく鍵をかけたのは七種くん。
 いよいよこれが罠以外の何物でもないと分かるのに、私の身体は動かなかった。

 床に座り込む私を彼は『大丈夫か?』と気遣いながら、私の背中に手を回した。
 背を撫でられて私が身を揺らすと、真緒くんは眉をひそめた。
 その反応と、私の紅潮した頬。そして乱れた息遣いで私の身に何が起きているのかを彼はすぐさま察した。

 軽蔑される。そう思っていたのに。
 彼は私を抱きしめて、そして……。

「俺が楽にしてやるから」

 そんな言葉をかけた。そうして先ほどのやり取りが生じた。
 抵抗は、所詮無駄な足掻き。
 それどころか、無駄に真緒くんのことを煽って、最悪な形で私は真緒くんに抱かれることになったのだ。

「真緒くん……っ」

 レッスンの後だからか、真緒くんの濃い香りが私を包み込む。その香りが私のことを煽って、まるで求めるみたいに身体を揺らした。

「まだ服の上から触ってるだけなのに……そんなに感じて、やらしすぎ」
「だって……」
「薬のせい、だろ。知ってる」

 そう、薬のせい。
 でもそれだけでこんなに感じるのかな。これが初めてだから、何もわからない。

「直接触ったら……どんだけ感じるんだろうな」

 脱がされたのはまだブレザーだけ。真緒くんは直接触ることをせずにシャツの上から胸に触れていた。けれど触れる、というほど優しい触り方をしたのは本当に一瞬。すぐに真緒くんはめちゃくちゃに私の胸を揉みしだいた。
 そのせいでリボンは中途半端に解けて、スカートの中に収めていたシャツが淫らにはみ出していた。

「そんなの……わかんない、っ」
「そうやって、純情なふりして……俺のこと弄ぶなよ」
「ちが……っ、そうじゃ……な、ぁんっ」

 否定の言葉を口にすることすら許してくれない。真緒くんはかぶりつくように私の唇を愛でた。侵入してきた舌は全てを暴くみたいに口の中を這って。
 もっと欲しくて、私は拙いけれどその舌に自分の舌を絡ませた。

「え、ろ……。そういうの、マジで……誰に教わったんだか」

 キスの最中に、真緒くんは苦しげな表情でそう口にした。けれどその言葉に反応する間もなく、真緒くんがシャツをブラごとたくしあげ、私は音にならない声をもらしていた。

「……み、ないで」

 真緒くんの目の前に私の胸がさらけ出されている。その羞恥心に煽られて、胸の先が熱くなる。
 隠そうと動かした手は、真緒くんに絡め取られて動かせなかった。

「すごく……綺麗だな」

 真緒くんはたった一言そう口にして、私の腕を掴んだまま私の胸の谷間に顔を埋めた。

「あんずの香りがする」
「や、だ……」
「よく言うよ。触ってもないのに……乳首どんどん勃ってきてる」

 恥ずかしくて目を開けられない。真緒くんが谷間に顔を埋めていることも、私の敏感な胸の頂きが真緒くんを欲して疼いていることも、直視したくない。
 それなのに、身体は求めてやまない。

「……ぅ、んっ、んんっ」

 真緒くんが私の胸に口付ける。そうして私の腕を片手で押さえつけると、あいた方の手で私のもう片方の胸を弄り始めた。
 口での愛撫は何度も啄んで、時折舌で先端を転がして、いじらしくてもどかしいのに。
 手での愛撫はそのいじらしさとは反対に、乱暴で乳首をつねって弾いてを繰り返す。

「……ぁ、はぁ……ん」

 唇を噛んで声を我慢しても、止まらない快感に声がこぼれ落ちる。

「そうやって声我慢されたら……余計に声聞きたくなるって、分かっててやってんの?」

 真緒くんの唾液で濡れた乳首に、真緒くんの息がかかる。私の反応を揶揄されている最中なのに、私は与えられた快感に抗えず身体を揺らした。
 胸への刺激だけでは到底この熱は消えない。
 消えないどころか増すばかりで。
 私は知らず、膝を開いて真緒くんの体を挟み込んでいた。ほぼ真緒くんの膝の上に乗るようにして。
 そうしたら、真緒くんの膨張した硬いモノが、私の敏感な下腹部に当たって、それすらも私の身体は浅ましく悦んだ。

「俺のに、身体擦り寄らせて……あんずの変態」
「ご、め……なさ、……でも」

 欲しいの。真緒くんが。
 そう言いそうになって、でも頑張って堪えた。
 これだけは言ってはいけない。
 もうすでに清らかな関係は終わりを告げたけど。どんなに関係が壊れても、まだ言葉にしなければ。
 この情事を、真緒くんの同情からの間違いだと、言い切れると信じているから。

「……ひ、っ」

 真緒くんの指が唐突に、挿しこまれた。
 微かな痛みに、私が表情を歪ませると、真緒くんの顔が驚愕の色を帯びた。

「なんで……本当に、『はじめて』なのか?」

 想像以上に私のナカがキツかったからか、それとも私が指一本すら痛がったからか。
 真緒くんは、やっとその事実を飲み込んでくれた。私がコクコクと頷くと、真緒くんは無理やり挿した指を一度抜き去って、私のことを抱きしめた。

「ごめん……俺……」

 ああ、ダメだ。
 こういうとき、親しくなりすぎた心はいけない。
 真緒くんの考えてることが手に取るようにわかるから。
 きっと、真緒くんは『無理やり抱こうとしてごめん。……はじめてなのに、触って。キスなんかして』と、そんなことを思ってるだろう。

「真緒くん……」

 でも真緒くんがそう思い込めば、この状況を打破できる。『プロデューサーの私』にとって、これが最後のチャンスなのに。

 私は、本当にバカなんだよ。
 真緒くんに罪悪感を与えたくないからとか、そんな下手な言い訳を浮かべて。
 本当は、望んでいたくせに。

「あんず」

 真緒くんに、キスをしていた。
 真緒くんは驚いた顔をしていた。

「謝るのは……私のほう、だよ」

 何に対して謝ればいいのか、もはや分からなくなるくらい「ごめん」と思うことしかなくて。

「真緒くんは……他の誰かを、抱きたいかも……しれないけど……私は、私はね」

 身体の疼きが治らないのは薬のせいだけじゃないの。

「このまま、続きを望んでしまうの」

 真緒くんの膝の上で、今だって腰が揺れるの。ほしくて、もどかしくて、たまらなくて。
 はじめてなのに。
 聞き知った知識しかないけど、その行為が未経験の私には痛くて、苦しいものだと分かっているのに。
 求めて、止まないのは……真緒くんだから。

「だから……真緒くんは、他の誰かのことを想ってていいから……私を抱いて」

 せめて、たった一度でも。



 ◇◇◇



「真緒、くん……も、だめ」

 真緒くんの顔が私の太腿の間に埋まっている。
 下腹部の敏感な突起に真緒くんの舌が遠慮がちに這って、私はさっきからずっと身体をビクビクと震わせていた。
 私の願いを聞き入れた真緒くんは、何も言わずに私のことを押し倒して優しくキスを返した。それが了承の合図だったのだと思う。
 再開した真緒くんとのイケナイ行為は、先ほどとは違ってとても優しいものになった。
 まるで、本当に恋人を愛するような行為に。

「……濡れすぎ。……気持ちいい?」

 私が指の挿入に痛みを感じたからか、真緒くんは丹念に私の蜜口と敏感な突起を舌で愛撫していた。恥ずかしくて嫌なはずなのに、私ははしたなくはじめて暴かれた秘部を濡らしていた。

「もう……指挿れるけど、痛かったら言って」

 どこまでも私を気遣って、真緒くんが再び私のナカに指を挿した。充分すぎるくらいに濡れているからか痛みは和らいでいて、むしろ気持ちがいいくらいで。
 私は淫らな声をあげてしまった。

「……ん、っ、ぁ……まおくん」

 その快楽に溺れた声を「大丈夫」と受け取って真緒くんは指を動かした。ナカを広げるようにグリグリといじられて、その度に私の腰が跳ねる。

「あんまり、煽るなよ。……すげぇ挿れたくなる」

 真緒くんは険しい顔をしていた。
 私ばかり気持ちよくなって、真緒くんはもどかしい気持ちを抱えているのだろう。真緒くんのそこはジャージのズボンから出て行きたそうに主張して膨らんでいる。

「もう、挿れて……いいよ」
「……そういうの、本当天然で言うのやめたほうがいいよ。あんずさん」

 その呼び方は、真緒くんが私の言動に動揺しているときのもの。その動揺を隠すための照れ隠し。
 でもなんで今動揺しているのか、私には分からなくて。首をかしげる私を、真緒くんは悩ましげに見下ろした。

「……俺は結構我慢強いから……あともう少しあんずのナカ、ほぐすくらいには余裕あるつもり」

 真緒くんはどこか苦しげに「指増やすから」と一言告げて私のナカに真緒くんの指をもう一本増やした。

「ん……ぅ、っ」

 真緒くんの指がナカで折り曲げられた瞬間、頭がチカチカした。

「……なぁ、あんず。軽くイッてる?」
「わか、な……ぃ、っ」

 分からない。分からないけど、もうこのまま真緒くんに奪われたい。
 何もかも、全部。

「まおくん……まおく、ん」

 気づけば真緒くんの首に腕を回して、彼のことを抱き寄せていた。

「ちょ……っ、あんず」
「まおくんの……がいい。……なんか、変なの。……指じゃ、もどかしくて……んっ」

 今でも十分気持ちいいのに。それ以上の快楽に溺れたい。その先が欲しくてたまらないの。

「……まおくん、おねがい」

 ても真緒くんは躊躇していた。ここまでして、どうして。そう思ったけど。

「ゴム、持ってないから……ナカには挿れない」

 真緒くんは最初から本気で抱くつもりはなかったのだ。私だけを快楽に溺れさせて、そうして自分は我慢して。
 そんなの、ないよ。

「いいよ。……あとで、私がなんとかするから」
「でも……っ」
「まおくんだって、このまま……おわれないでしょ」

 そうしてジャージの上から、腫れた真緒くんのそれに触れてみれば真緒くんは呻くような声を上げた。
 その刺激が真緒くんの我慢を壊して、真緒くんは自分のモノに触れた私の指に自分の指を絡めて床に縫い付けた。

「そういうの……本当、俺だけにしてくれよな」

 真緒くんはそう言って私の唇を再び荒々しく奪った。そのキスが心地よくて目を閉じようとしたけれど、心地よさを殺すほどの痛みが、私の下腹部に走った。

「……い、っ」
「ごめん。力抜いて……」

 痛い。裂かれるような痛みが全身に走る。
 でもなぜか。
 その痛みが嬉しくて、涙がこぼれた。

「あんず……ごめ」
「ちがう。ちが、の……。んっ、まおくん……」

 真緒くんにしがみついて、痛みに堪えた。
 ナカが真緒くんに押し広げられていく感覚が、たまらなく愛おしい。痛いのに、好きが溢れて止まらない。

「……やば、気持ち、いい」

 私と同じように快楽に呑まれた真緒くんが、頬を紅潮させて私を見下ろす。その顔からは色気があふれ出ていて、私の心が締め付けられた。

「ちょ……まって、しめつけ、んな。……んっ、くっ」

 真緒くんは苦しそうな息を繰り返して、そしてなにかを堪えたような、そんな素振りを見せた後、私にキスをした。

「動いて、いい?」

 真緒くんの瞳が私を貫く。拒絶なんてありえなくて、私はバカみたいに頷いていた。
 真緒くんの腰の動きにつられて、繋がった私も揺れる。室内に木霊する水音は、私と真緒くんが淫らに通じた証。
 そう思うと余計に下腹部に熱が灯る。

「あんず……はぁ、腰、揺れてる……」
「や、ぁ、……っ、んんっ」
「すっげ……かわいい」

 そんなこと言わないで。ずっと求めてる言葉を、こんなときに言わないで。
 嘘だって、分かるから……嫌なの。

「まお、くんの……バカッ」

 嫌なくせに、私はよがってしまう。
 どうしようなく、好きが溢れて止まらない。

「ね、ぇ……ま、おくん。……い」
「な、に? 痛い?」

 真緒くんが心配そうに、でも腰は止められないまま私を見下ろす。
 私はそんな真緒くんのことを抱きしめて、微かに背中を浮かせた。
 そうして真緒くんの耳元に唇を添えて。

「きもち、い……よ」

 好きの代わりに、溢れる気持ちをその言葉に乗せた。そうしたら真緒くんは目をまん丸にして。

「……ほんっと、勘弁しろよ」

 真緒くんは私の唇にかぶりつく。律動はさっきよりも加速して、ナカが壊れそうなくらいに真緒くんのでめちゃくちゃにされていく。
 暴かれていく快感が、波のように押し寄せて。

「あ……ぅ、あ……っ、まおくん、わたし……あ、もうっ」
「はぁ……俺も、イクから。……っ、くあ、っ」

 私は快楽の渦に溺れた。



 ◇◇◇



 私と真緒くんは背中合わせで、衣服を整えていた。
 真緒くんの注ぎ込まれた欲望が、私のナカから時折流れ出て下着を濡らすのをどうしようかと、考えながら。
 そうしたら真緒くんが小さな声で沈黙を破った。

「……あんず」

 次に来る言葉は「ごめん」なのだろう。そう察して私は先手を打った。

「真緒くんは、熱にうかされたプロデューサーを介抱しただけ……でしょ」

 真緒くんの顔を見て言うことはできない。
 きっと私は頼りない顔をしている。
 この事実を消さなければいけないのに、私の心は消せないのだから。
 真緒くんは私の言葉に「ああ」と小さく返事をした。
 でもまた、口を開いたのは彼のほう。

「誰に……薬飲まされたんだ? 自分で飲んだわけじゃないんだろ」

 真緒くんはちゃんと分かっていたらしい。私が罠にハマったことを。でもそれなのに私を煽ったのはなぜか。……それは、あえて聞かないことにした。
 その代わり、私も本当のことを教えない。

「言わない」
「……七種か?」

 私が会議室で誰と話していたかを考えれば、その答えに至るのは当然のこと。

「普通は、そう考えるのが妥当だよね」

 意味深な返事をすれば真緒くんの表情が歪む。
 だからこそ、当然のことをはぐらかせば真緒くんは分からなくなる。裏の裏を読もうとする人だから。

「隠すなよ。もしかしたらあんずは薬飲ませたやつに襲われてたかも……」
「かもしれないけど。もしこのことがバレたら、ダメになるのはむしろ私と真緒くんだよ」

 私たちの関係は清らかじゃなければならなかった。
 私の気持ちが不純であっても。
 でももう関係を持ってしまったなら、最後は本当の気持ちを隠すことでしか、見せかけの清純を保てない。

「私と真緒くんは信頼し合うプロデューサーとアイドル。そうでしょ」

 そうじゃない、と。心のどこかで真緒くんに否定してもらいたい自分が嫌だ。
 私のそんな言葉に返事をしない真緒くんはもっと嫌い。

 期待を膨らませるだけなのに。
 真緒くんは、ずるい。

「……鍵、開けてもらわないといけないね」

 私はそう言ってスマホを手に取る。
 そうしたら、真緒くんが私の腕を掴んで、その手を止めた。

「真緒……くっ、ん」

 すべて終わったと思っていた。そんな不意打ちのキス。
 目を開けたままの私は、真緒くんの伏せられた長いまつ毛を呆然と見つめるのみ。
 放れた唇からはいやらしく唾液が繋がって銀色の糸を引いた。

「……少なくとも、俺のお前への気持ちは信頼だけじゃないよ。……ずっと前から」

 決定打は出さない。
 でもその言葉の意味が分からないほど、私は子どもじゃない。私たちは、もう……。

「それを、忘れるなよ」

 真緒くんはそう言って、自らのスマホを取り出し彼の、私の……私たちの、大切な仲間を、この裏切りの現場に呼んだのだった。



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