泣いているだろうとは予想してたけど、まさかそこまでだとは思ってなかった。音をたてないようにドアを開けたつもりが、いまの彼女はなんにでも敏感になるらしい。泣きはらした顔を俺のほうに向けて、それから、少し安堵の表情をのぞかせた。


「…大祐ならいないよ」

「、えっ…ああそっか」


彼女の口から越智…もとい元彼氏の名前が普通に出てくるのは意外だった。今日あれほど大喧嘩して別れたから、てっきり険悪な感じになったんだと思った。それが、「あいつならいないよ」とか「あの野郎ならいないよ」とかそう言うこともないから、感心する。まあそこが彼女のいいところでもあるんだけど、


「わたし、馬鹿みたいでしょ」


意地はって素直になれないから最終的にこんなに目真っ赤になってさ。自嘲的に笑う彼女は、どこかに救いを求めるようなそんな感じさえなくて、ただただ自分が情けないといった感じだ。そんなことないと返せば、「優しいなあぐっさんは」と逆に苦笑い。


「あのさ、」

「んー?」

「なんで俺が教室に来たか、…分かる?」


突拍子もない質問に少し困ったような顔をして、「大祐を呼びに来るため?」と言った。違うそうじゃないんだ。グラウンドからわざわざ三階まで足を運んだのは、たまたまきみが教室にいるのが見えて、自分の中枢神経が黙ってなかったんだ。そうやって説明するのははなはだ難しいけど、結局今の彼女にはなにを言うのも難しい気さえする。あーあ。いつになったら俺に振り向いてくれるんだろう。




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まみさまへ:1031
ちょっとタイプの違う47さんになりました。
自分から思いを伝える勇気はない男子のお話。
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