「お前なあ、」
放課後の教室。誰もいないことを確認してお弁当箱を出して、ゴミ箱に近づいて、捨てた。うん。もう一度復習。放課後の教室、"誰もいないことを確認し"たのに越智の声。びくりという動作は気付かれてはいけない、と思った。だってだってもしバレたら……いや、あの顔。整った顔をだらしなくにやつかせて、る。だめだ終わった。こいつだけにはって気をつけてたのに、!
「それぐっさんに言「越智くん私は君を信頼しているよまさか鉄也に言ったりしないよね?」
棒読みで信頼してるて言われてもなあ、と頭を掻きながら、視線はやっぱりゴミ箱へ。必死でゴミ箱の中の「ソレ」を隠そうと手を入れると、今度はその手を越智に掴まれてしまった。「いた、」「ぐっさんにまた怒られるで」。かかか、と笑い声をあげながら私を拘束している手と反対の手をゴミ箱へと伸ばす。すぐに見つかり、やすやすと越智の手で弄ばれてしまっている、私の天敵。
「お前がトマト食えるようになったー、ってぐっさんがめっちゃ喜んどったのになあ…」
「鉄也は勘違いしてるんだよ。私がトマト食べられるようになったなんて一言も言ってないのに、」
確かに一度、鉄也の前でトマトを食べた。でも決して美味しそうに食べたわけじゃない。あんな苦くて瑞々しくて鬱陶しいもの。(いやでも鉄也のうる目に負けて食べながら美味しいと言った記憶があったりなかったり…うう、私のばか)
「ぐっさんはなあ、心配して言ってんねや。幼ななじみのお前がいつまで経ってもチビ助なのはトマトを食べへんからちゃうかーってな。」
「それはぜっっったいないから安心して。」
にこりと言い放ったつもりが、越智がトマトを近付けるものだからもう吐き気。相変わらず手は掴まれたまま。そろそろ痛いんですけど、
「ぐっさんに言えばいいやん。食べられませんって」
「言えるわけないじゃん!私のお弁当作ってくれてる張本人だよ?」
「その張本人の気持ちを踏みにじってるのが、お ま え。」
くそ、口答えできない。てかさっきからおまえおまえうるさいんだよおまえは!「お前もな」、ほらまたお前!
「はあ…、じゃあトマト食うかぐっさんに言うか決めろ。」
「え?どっちも無理なんですけど。てか越智にそんな強制力ないんですけど。」
「いやあるな。」
目の前でにたあと笑う男を消したいと思った。でもどうせトマトを食べさせるとか大きい口叩いてるけどそんなことは絶対にムリだろうしここは大人になろう私。
「手を離してください」
「トマト食べたらな」
「食べないっていってんじゃん」
「どうしても?」
「もちろん」
越智はあ、そ。と言って観念したのか、トマトを息で吹いてから自分の口に含んだ。(一回捨てたやつだしそれ…)やっぱり私に無理やり食べさせるとか意味のわからないことはできっこないんだ。「なあ」「え?………んっ」なんなんだなんなんだ。振り返ってみれば越智が甘ったるいキスをしてきた。口内はトマトの匂いにおいニオイ。いやだ、と思い逃げようとしても越智の舌がそれを許さない。自分の舌と私のを絡める。ほんのりトマトが舌にあたる。
「……っは、」
「食えたやんトマト」
「は?」
んじゃ俺部活行くわ。そういって越智はひらひらと手をふって颯爽と消えてしまった。意味が分からない。何がしたいのかも分からない。ただそんな状態でも分かることは二つ。
ひとつ、私は鉄也に怒られずにすむこと
ひとつ、トマトはそんなに苦くなかったこと
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0330 / for_修さま
久しぶりの三連覇作品
修さまどうぞ私を怒ってください←