生活していくのに必要な家具しかない殺風景なこの部屋が好きだった。彼が一生懸命悩んで考えて選んでくれた家具なんだろうなあと考えるのも好きだった。何より私は秀章が好きだった。いや、好きだったじゃなくて、きっと今も好きだ。でも目の前の秀章の表情は好きじゃない。クリスマスなのに浮かない色をしているその目も好きじゃない。私を打つ、その冷たい手も、本当は好きじゃない。


「俺が自主トレしてる時間に、お前が男と歩いてんの見た奴が居るんだけど」


私の真っ赤になった頬を一瞥して、はあと大げさなため息をつく。その男の子は、秀章のクリスマスプレゼントを探してたら久しぶり会って一緒に探してくれてただけなのに。どうせそう言っても私に対する行為は変わらない。分かっているから口にしない。俯いていると彼はまた大きな手で私を痛めつける。痛いとは思わなかった。きっと秀章のほうがもっと苦しんでるはずだから。


「俺お前より年上だし、誰かに取られそうで怖い。」
「もう絶対、俺以外の男には会うな」
「おい、分かったら返事だろ」


一つ一つの言葉には必ず一つの暴力が付いてくる。でも必ず秀章は謝ってくれるから、私はそれだけで十分だと思えてしまう。


「ごめん痛いよな、ごめん」


ああよかった。いつもの彼に戻った。「大丈夫」、そう言おうとしたけど急に頭がぐわんとなった。目の前の彼は心配してくれているんだろうけど私の目は涙で霞んでなにも見えずにいる。ぱた、と床に倒れた自分の体はまだもっと秀章を愛せる。きっと外では当たり前のように恋人が楽しく過ごしているだろうけど、正しいのは私たちの愛だけだ。秀章のすすり泣きが聞こえた瞬間、そう確信した。



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1226 H.Wakui
冷たい手でもいいよ



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