▼ 雨の憂鬱をさらう
(立海生不二)




窓の外を見れば、向こう側を隠すほどひどい土砂降りの雨。
ぽつぽつだなんて可愛らしい擬音もつかないような雨量に、仁王は頬づえをつき直した。

「数十分後に雨足が弱くなるらしい」と聞いてこうして教室で待機しているのだが、その情報は果たして嘘か本当か。真実は分からぬままだったが、こんな土砂降りの中帰路に着くのが嫌で、仁王はひたすら窓の外を眺めていたり、微睡んでみたり、携帯を触ってみたりと暇をつぶしていた。

生憎、テニス部の室内練習も無く。
きっと仲間は早々に帰宅した事だろう。だから相手をしてもらう事も出来ないでいる。
遠くに聞こえる吹奏楽部の練習の音を聞きながら、仁王は再びうとうととし始めて机に顔を伏せようと体勢を変えた。あくびを一つして、壁にかかっている時計を確認。まだ雨足が弱くなるには時間があった。

顔を伏せて目を閉じて、本日何度目かの夢の世界へと行こうとしていた時、教室のドアが開いた音をぼんやりと聞く。
まあ恐らく忘れ物でもしたのだろう。と仁王は特に気にする事もなくそのまま昼寝を続けようと無視をした。

「まだいたのかい?」

目を閉じていたものの足音と人の気配に眠れずにいると、よく聞き慣れた声に意識を戻される。
仁王が眉を寄せてゆっくりと顔を上げると、不二がにこりと笑って片方の髪を耳にかけた所が見えた。

「雨が止むの待ちじゃ…」

「今日は夜まで降るみたいだけど?」

「…弱まるの待ちじゃ」

訂正すると、不二はくすくすと笑う。

「これから弱くなるの?」

「天気予報検索して見た限りではのう」

「そうなんだ」

そう言った後窓の外を眺めた不二は、「弱くなるかなぁ」と小さく首を傾げて半信半疑の含まれたような声音でまた笑った。
仁王も同じように窓の外を見る。心なしかさっきよりも雨足は強まった気がしなくもない。
本当に弱くなるのか仁王自身も疑問に思って目を細めると、不二が徐ろに仁王の前の席の椅子に腰掛けた。そして変わらず外を覗く。

「…そういえばお前さん、なして帰っとらんのじゃ」

「先生に呼ばれてて…雑用してた」

「大変じゃの、優等生は」

「そうだね。頼られて悪い気はしないけど、たまにちょっと面倒くさいかな」

「そうか」

「うん」

話が途切れると、外からザーザーと強い雨が地面を叩く音で教室が満たされる。
仁王は首元を掻くと、不二をちらりと見た。
当然のように、仁王を見ていた不二と目が合う。

「なんじゃ」

「君こそ」

「俺は別になんも」

「僕だって特にないよ」

そう言った後数秒見つめ合って、どちらともなくふっと吹き出した。
特に意味もない会話と行動。それでも未だに楽しそうにくすくすと笑う不二には有意義だったようで、仁王も再び口元を緩めて笑ってしまう。

「あはは、はぁ。…ねえ仁王はさ」

一通り楽しそうに笑った不二は呼吸を整えて仁王の名前を呼んだ。
仁王は少し下げていた目線を上げて、不二の青い瞳を見る。

「僕といる時が一番笑うんだよ。知ってた?」

「…は?」

「僕は仁王の笑った顔たくさん知ってるんだけど、他の皆はそんなに知らないって言うんだ」

急に何を言い出すのやら。
仁王は不二の提示してきた話題に首をかしげながらも、不二の変わらず微笑む口元をぼんやりと眺めていた。
そうか、自分は思っていたより他の人の前では笑っていないのか。そんなつもりは無かったんだが。

不二はにこにこと笑って仁王の顔を覗き込むと、次に両手の人差し指と親指でむにっと頬を摘んだ。
眉を寄せる仁王にくすくすと可笑しそうに笑う。

「笑顔の仁王は年相応でこんなに可愛いのに、皆は知らないんだって」

「…ほーか」

「もっと……、」

「?」

「うーん、そのままでいいよ。笑った顔はレア度高いクールキャラでやっていこう、ね」

「クールキャラて…」

仁王の頬を摘んでいた指をぱっと離して、その片手でついでに仁王の鼻をも摘む不二。そしてそれも離してから、またカラカラと笑ってその手で頬づえをついた。

「ずーっとにこにこしてても胡散臭いって言われるしね。特に仁王は言われそうだし」

「うるさい」

「ふふっ、よく考えたらずっとにこにこ笑ってる仁王は嫌だなぁ」

「勝手に想像して嫌がるんじゃなか」

「あははっ」

笑った不二にバツの悪そうな顔をした仁王はじっとりとした目で不二を見た後、窓の外にふと視線を外す。

すると驚く事に、さっきよりも心持ち霞が晴れて、少しだけ雨足が弱まっていた。
窓を叩く雨粒も少なくなった気がする。
半信半疑だった天気予報も案外当てになるみたいだ。

「不二」

「うん?」

「帰るか」

「あ、うん。本当だ。雨ちょっと弱くなってきたかな」

窓を覗いた不二を横目に、仁王はカバンを漁る。
ごそごそという音を聞いて、不二も慌てて座っていた椅子から立ち上がり自分の席へと荷物の整理に向かった。

「……あ!」

「どうした?」

「折り畳み傘、家に置いてきた…」

「普通の傘持って来なかったんか」

「折り畳みあるからいいかなって思ってて…」

本当に無いかなぁ、と呟いて荷物を再びかき分けつつ中身を確認する不二は眉を寄せて唇を尖らせていた。無意識のクセなんだろうし、それを高頻度 で見てきた仁王も、なぜか今は笑ってしまった。
不二がそんなヘマをするのが珍しいからかもしれない。

「んー…俺の傘に二人入るかのう…」

「えっ、入れてくれるの…?」

「まあ、暇つぶしに付き合うてもらったからの」

ほれ行くぞ、と仁王が不二を急かすと、中身がぐちゃぐちゃになっているであろうカバンを急いで閉めて「待って」と何度かこぼしていた。
それに密かに笑って、「はよー」と更に急かしておく。

さて。後の問題は、二人で上手く傘に収まれるかどうかだ。






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この後二人でくっついて傘さして帰って、「なんかすごい恥ずかしい」「めっちゃ見られる」とか言いながらもきゃっきゃと楽しみながらお家に帰るのです。
相合傘にはロマンがある。

何か物申したい事などあれば ▼

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