それは、単純な話。




「セーンパイ!」







「あら、高尾君。
ダメでしょ、勝手に抜け出してきたら。」







「センパイだって抜け出してきてるじゃん?」







「私はいーの。」




満天の星空の下、憧れの先輩と2人きり。
まるで漫画のようなシチュエーション。
なのに、なんだろう。
この疎外感は。




いつも俺の邪魔をしてくる真ちゃんや宮地さんはいない。
俺とセンパイの距離もいつもよりずっと近い。
近い、はず……なのに。
絶対に超えられない壁のような、境界線のような。
そんなものがあるのがわかってしまう。
それを踏み越える資格はきっと、与えられていない。




「高尾はさ、」







「はい。」







「緑間を絶対に一人にさせちゃダメだよ。」




膝を抱え、見つめる先はきっと星空の遥か先。
俺には見えない風景を隣のセンパイは見つめている。




涙を流しながら。




「センパイ…?」







「ごめんね、急に。
理解しなくていいからさ。でも覚えといて。」







「……っス…!」




そう答えれば、微笑んで。
残っているのは涙が伝った後だけ。




「ここね、合宿中の特等席だったの。
星が振ってきそうなほど近くて、誰にも邪魔されない。」







「なんか…すんません。」







「いいの。
もう、来年からはきっと来れないから高尾に譲ってあげる。」




その言葉はやけに重く圧し掛かってきた。
そうだ。センパイたちは3年。
もう、一緒に過ごせる時間は……同じ立場でこの合宿で過ごす時間はもうない。




「来年の合宿、センパイも来たらいいのに。」







「ははは。
ありがとう。」




そうだね、来れたらいいな…。




その言葉は一体誰に向けたものだったのだろうか。




「センパイ。俺、」







「ダメだよ。」







「え。」







「けど、ありがとう。」




微笑むセンパイに俺は何も言えなかった。




「そろそろ戻ろっか。」







「そっスね。
センパイ、転ばないでくださいよ〜?」







「高尾がコケればいいよ。」







「酷ぇっス!」




じゃれながら下る坂道。
来年はきっと俺一人で…。







それは、単純な話。


俺には資格がなかった。

ただそれだけだったんだ。


end





高尾100%様提出。
テーマ「夏合宿」

なのに暗くてごめんなさい。
青春独特の甘酸っぱさを出そうとして見事撃沈しました。

そして、ちょっとわけあり。
“緑間を絶対に一人にさせちゃダメだよ”
この言葉の解釈と主の気持ちは皆様のご想像にお任せします。



2012/07/30.


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