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明智さんに恥を掻かせる訳にはいかないと配慮が凄い

〜推理失敗〜

「午後5時から7時半の間に校舎内にいて――アリバイのない人物……!」

「なるほど!」

「そういうことね!」

 自信たっぷりな『ホームズ』の言葉に力強く頷く赤沢とかおる。しかし、言い出しっぺの明智は――

「……あ」

 視線を宙に浮かべたまま、顔面をみるみる紅潮させていく。ギリツ奥歯を噛み締める響きが3人の耳にははっきりと聞こえた。屈辱に震える声が、その後に続く。

「警備員が夜7時に図書室を調べた、と確認しておきながら……僕としたことが、なんてブザマな!」

「そ、そんなに自分を責めないで! ちょっとした勘違いじゃない!?」

「かおるの言う通りだよ。別に取り返しがつかないわけじゃないだろ!」

 打ちひしがれた『秀央のホームズ』を、懸命にフォローする、仲間たち。その様子に、こわばっていた少年の表情が少しずつ解きほぐされていった。

「……よし、もう一度言わせてくれ!」

 輝きを取り戻した瞳を正面に捉えて、今度こそ明智は断言する。


「午後5時から5時半の間に校舎内にいて――アリバイのない人物……!」

「……」

「……え?」

「あの……その……」

 自信たっぷりな『ホームズ』の言葉に反し、戻ってきたのは三者三様の戸惑いだった。

「……明智?」

 意を決したように、赤沢が口を開く。

「それって7時までの間違い……じゃないのか?」

 いつも快活な赤沢には珍しく、もごもごと口のなかで言葉を転がす。明智が怪訝な表情を浮かべたのは、ほんの一瞬だけだった。

「……あ」

 抑えきれないかすれ声とともに、色白な顔面がみるみる紅潮していく。ギリツ奥歯をを噛み締める響きが、3人の耳にはっきりと聞こえた。明智は屈辱で震える声を絞り出した。

「こんな簡単なミスをしでかすなんて。
……すまない、『ホームズ』は返上だ!」

「な、何大げさなコト言ってんだよ! ただの言い間違えだろ。そんなモン、誰だってあるさ!!」

「そうよ、わたしなんかしょっちゅうなんだから!!」

「それはそれで困ったもんだけどね」

「あっ、ひどーい、和島君!」

 打ちひしがれた『秀央のホームズ』を、懸命に盛り立てようとする、仲間たち。その熱意に、こわばっていた少年の表情が少しずつ解きほぐされていくのだった。

「そうだな……よし、言い直させてくれ!」

 再び輝きを取り戻した瞳を正面に捉えて、今度こそ明智は断言した。

「犯人は――午後5時半から、7時の間に校舎内にいて――アリバイのない人物……!!」



「赤沢――!!」

 超エリート・明智の影で目立たぬものの、優秀な生徒が集う秀央高校で指折りの成績を誇る『不動のナンバー2』――赤沢次郎。その小柄で明るい姿が、脳天から足元まで固まって、突っ立っていた。

「え? ……お……俺ぇ?」

 くりくりした目玉だけが右へ左へとせわしなく動き回っている。そのデタラメな視線が明智を捉えた時……ふいに『秀央のホームズ』の真剣な表情が、イタズラっ子の笑顔に変わった。
頭をかきながら、苦笑混じりに呟く。

「……悪い、ちょっとやりすぎたみたいだ」

「……へっ?」

 赤沢の目玉がピタリと動きを止める。そこに、笑いをかみ殺した明智の声。

「いや、あまりに真剣な顔をしてたから、ついイタズラしたくなって……悪い、今のは忘れてくれ」

「明智ぃ……お前ってヤツは……!」

 涙のにじむ目で、明智を睨みつける赤沢。

「明智くん……」

「お、お前なぁ……」

 ようやくショックから脱した、かおると和島からも呆れた声が上がる。


「かおる――!!」

 秀央高校きっての才媛。男子生徒による秘密の人気投票でもぶっちぎりのトップを誇る『秀央のマドンナ』薬剤師かおるのが呆然と立っていた。

「そ……そんな……私……」

 キョロキョロ周囲を見回す、かおる。そのすがる視線が、明智を捉えたとき…突然、『秀央のホームズ』の真剣な表情が、イタズラっ子の笑顔に変わった。
頭をかきながら、苦笑混じりに呟く。

「……ちょっとやりすぎてしまったかな。ごめんごめん」

「……はぁ?」

 明智は呆然自失の顔で見返すかおるに、笑いをかみ殺して告げた。

「いや、あんまり真剣な顔をしてたから、ついバカなことを言いたくなって……悪い、今のは忘れてくれ」

「明智くぅん……」

 涙をいっぱいに溜めた瞳で、明智に訴えかける、かおる。

「明智……」

「お、お前なぁ……」

 ようやくショックから脱した和島と赤沢から呆れた声が上がる。

「えー……コホン」

 とってつけた咳払いでその場を収めると、明智は時間を数分前へと巻き戻した。

「いいかい、みんな。今度は、冗談なしだからね」

 再び真剣な顔に戻った3人の顔を、順番に見つめていく。

「図書室(ここ)で内田を殺害した真犯人は――」

 ごくり物音一つしない図書室のなかに誰かが生唾を飲み込む音が響いた。

「あの状況から見て君以外には、考えられないんだよ!」

 秀央のホームズ』は今度こそ真実を明らかにした。

「和島―――――!!」


「――まず、アリバイがないのが君ら3人しかいないとわかった時点で、真っ先に容疑から外れたのは……赤沢だ!」

「おぉ!」

 男性陣の中で一番小柄な赤沢が、ピョンと飛び跳ねる。なにしろ最初に容疑者リストから外れることができたのだから。小躍りしつつ、明智の隣に並ぼうとする。この先は、『ホームズ』と一緒に推理してやるといわんばかりだった。しかし、その直後、明智はボソッとつぶやいた――

「……というのはウソ」

「ええ〜〜っ!!」

 赤沢の唇が、非難の形にひん曲がる。それをイタズラっぽく見やると、今度こそ『ホームズ』は静かに告げた。

「真っ先に容疑から外れたのは、赤沢ではなく――かおるだ!」

〜バッド〜

明智「――じゃあ君にはわかるって言うんですか?
金田一君!」

 プライドを踏みにじられ猛烈な勢いではじめに噛みつく明智警視。
 と――
 ショボ〜〜ン
 今の今までそり返っていたはじめの胸が、みるみるうちに萎んでいった。完全に下を向いてしまった口元から、精根尽き果てた声がこぼれ落ちる。

「ちくしょー……わかんねーよ」

 ……はじめの名推理に淡い期待を抱いていた明智は、思わず天を仰いだ。木漏れを浴びた端正な横顔が、絶望の色に染まっていく。

「ジ、ジッチャンの名にかけて……。
ジッチャンの名にかけてぇぇぇ……」

 はじめの呪文じみた涙声に背を向け、明智はポツリと呟いた。

「……どうやら、この謎は
永遠に解けずじまいのようですね……」

 かつて『秀央のホームズ』と呼ばれた男は十年という時の重さとともに失ってしまった親友の思い出をいつまでも噛みしめていた……。


エクストラ


「いけませんねえ、そんな簡単な注意だけでカンニングした生徒を帰してしまうなんて」

 不意に後ろからかけられた声に、体をぴくりと震わせる塾の講師。

「彼はカンニングの常習犯なんですから、もっときびしく注意しないと彼のためにもなりませんよ」

 どうやら後ろから話しかけている男はあの少年のことを知っているようだった。普段聞きなれていない声であることから、塾の講師仲間でないことはわかっていたが、どこか心懐かしく響くその声が、心に引っかかり、すぐに振り向けずにいた。
いや、記憶の中にある声の持ち主であってほしいという想いとそうであっては困るという想いが錯乱し、振り向けずにいたのかもしれない。

 今日この日、10年前に交わした約束の日。朝からあの場所に答えを書いていた。

 その行為は過去を思い出させるには十分すぎるもので、苦々しい思い出も掘り起こされたが、今となっては
これまでの人生の中で一番輝いている思い出であることも再認識させられた。

 後悔していないわけではない。なぜあんなことをしてしまったのか。もっと別の解決方法があったのではないか。もう何度となく、そんなことを考えながら生きてきた。

 だけど、決まって最後には今日この日の約束を思い出し、不思議と穏やかな気分になれた。だから、その声の持ち主が今日この高校を訪れることもわかっていた。10年前の高校生同士の口約束に過ぎないが、記憶の中の彼ならば来てくれるという確信があった。
 
だが、会って何かを話すつもりはなく、ただ自分の想いが伝わり、彼の姿を遠巻きに見ることができればそれでよかった。そう考えていたから、その人物に声をかけられてもどう答えていいのかわからなかった。


「聞いているんですか?
和島先生」

 自らの名前を呼ばれたことで、記憶の中の彼と、後ろにいる人物とが同一人物であると、確信した。どう返答していいかは相変わらずわからなかったが、そろそろと振り返り、その姿を確認した。

 色が薄く、繊細な髪。凛々しい眉と、鋭い眼。きれいに整った顔立ちが、どこか中性的な魅力を発していた。記憶の中の彼とは違い眼鏡をかけていたが、どこか神々しいその雰囲気は記憶の中の彼そのものだった。


「あ……あ、けち…?」

「何を呆けてるんだ?
まさか僕のことを忘れてしまったんじゃないだろうね?」

 腕組みをしながら淡々と話す彼――明智健悟に対して、ぐるぐると思考が混乱し、何を話していいのかわからない。それでも何か言葉を返さねばと思い、口から出たのは単純な疑問だった。


「な……何で、どうして……?」

 やれやれ……といったしぐさと共に、明智が口を開きかけたその時――。

「おー、いたいた!おーい!」

 またもや、どこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。和島は、それが自分と明智にかけられたものであることはすぐにわかった。手を振りながら、こちらに小走りでかけてくる二人組が目に入った。男性と女性の二人組。その組み合わせで、自分と明智に声をかけてくる人物となるとあの二人しか考えられなかった。

「赤沢…? かおる…?」

「ひっさしぶりだなー、
和島! 明智! 元気してたか?」
「和島くん、明智くん
会いたかったよ!」

 がしっと赤沢に抱きつかれ、和島は、一気に空気が華やかになるのを感じていた。

「ああ、元気だったよ。
二人ともその様子だと
元気にしてたみたいだね」
 明智が赤沢の挨拶に答えた。

 何でこんなことになっているのか、わけがわからなかった。
 明智に想いを伝え、その姿を見送れればそれでよかった。なぜ明智は自分を捜し、見つけたのか、なぜ明智は自分を捜し、見つけたのか、なぜ赤沢とかおるがここにいるのか。

「なんで、みんな……」
 気づくと、考えていた疑問が口から漏れ出していた。

「“何で”とは、今日こうして
3人が集合し、君と再会していることかい?」

 明智が、まとまらなかった疑問を代弁するように聞いた。ぶんぶんと首を縦に振って答える。すると、明智は、先ほどそうしたように再びやれやれといったしぐさをして答えた。

「今日ここに僕が来た理由は説明するまでもないが、君が10年前に出した最後の謎。
その答えを確認するためだ」
 そうだ。そのために、机に自分の想いを書き記した。

「そして、君が当日、あの机に答えを書き込むことになっているのだから、必然的に、君も今日来ることになるよね?」

「そ、そう言われてみれば……そうだね……」

 当日、机の書き込みに来る必要があるのだから、当然、そこで出会う可能性もある。明智に言われるまで、そんな当たり前のことにも気づかないでいた。いや、本当は、考えることを避けていたのかもしれない。

 自分の中でもっとも輝いていた記憶。だが、他の級友たちにとってもそうであるかはわからなかった。10年後に答えを見に来てくれるかどうかもわからなかった。そして、殺人という犯罪を犯した自分に、はたして会いたいと思ってくれるのだろうか。そうではなかった時のことを考えると、ただただ怖かった。
 月日が経つと共に、自然と考えるのをやめていた。

「君が僕を避けるようであれば、無理に捜すことは考えていなかったけれど……
実際には捜すまでもなかったというわけだね」

 明智の説明が続く。

「赤沢とかおるとは特に約束を
していなかった……が、来ることは容易に予想できる。
あの場でいっしょに君のもったいぶった捨て台詞を聞いていたのだから」
 
チクリとイヤミを言われたが、特に気にはならなかった。
むしろ、その響きが懐かしく心地よく感じられた。

「そうそう! あんなこと言われたんじゃ、来ないわけにはいかないでしょ!」
 
赤沢が陽気な声で答えた。かおるも、うんうんと頷いている。10年前とまったく変わらない級友たちの態度に、和島は、目頭が熱くなってくるのを感じた。

「それで? 俺たちは今来たところで、例の机をまだ見てないんだけど、明智はもう見たのか?」
 赤沢が、今日一番の目的へと話題を移した。

「そのことなんだけど……」
 明智が、不意に暗い影を表情に落とした。てっきりもう机の書き込みは見てきたものだと、和島は思っていたが、どうやら違うようだった。

「実は、今日あった模試で、生徒の一人が机の書き込みを消してしまったんだ」

「え〜〜〜〜〜〜〜!!」
 明智を除く3人が同時に驚愕の声を上げた。

「なんだよそれ!」
「そうよ! 私たち何のために来たのよ!」
 赤沢とかおるがまくし立てる。が、すぐに明智がフォローに入った。

「まぁまぁ、二人とも。
机の書き込みはたしかに見られなくなってしまったが……
ここに書き込んだ張本人がいる
わけだから、何の問題もないのでは?」

 くるりとこちらに目を向ける明智、赤沢、かおる。

「ちょ、ちょっと待った。
そ、そもそもあれは10年経っても解けなかった時のためのもので……」

 たしかに明智の言うとおりなのだが、この場であの謎の答えを口にするのは、はばかられた。理由にならない返答をしながら何とか自分の口から言い出さずに済む方法を考えていると。


「……っぷ、くくく……」
「あははははは!」

 突然、赤沢とかおるが笑いだした。明智と和島がきょとんとしていると。

「わりー、わりー。たしかに面と向かっては言いづらいよな」

 赤沢が、和島の気持ちを代弁するように言った。かおるが続いて説明を始める。

「実はね、私たち、結構早い段階でなんとなくわかってたんだ。
和島君の気持ち……
あの時、他の誰よりも明智君の活躍を望んでいた和島君だったら、きっと、そうしたんじゃないかって……」

 自らの口で説明する役目から逃れられた解放感と、自分の気持ちを言い当てられたことでのどこか恥ずかしい気持ちとで、和島の顔から照れ笑いがこぼれた。

「で、明智はどうなんだ?
俺の推理では、明智はわかんなかったんじゃないかと思うんだけど」

 ムッとしているのか拗ねているのかよくわからない複雑な顔を見せた明智だったが、すぐにフッと苦笑し、穏やかな口調で話し始めた。

「ああ、実のところ、つい先ほどまでワトソンの残した最後の謎はわからないままだった」

 やっぱり〜、という赤沢の表情に薄い微笑みを返し、明智は先を続けた。

「けれど、今日この場所で、とある少年にその謎をあっさり解かれてしまってね」

(あの時、あんたの活躍を心底待ち望んでいたのは――)
 はじめの言葉が頭の中で繰り返された。
「その少年に教えてもらったんだ」
(他ならぬ――……)

「だから……今はわかるよ。
ワトソンの気持ちが」
 
明智は和島に向き直って言った。和島は照れくさそうに笑いながらも、うっすらと涙をためた目で明智の目を見つめ返していた。

(お前が刑事になるんなら――俺、監察医になってもいいぜ!)
 今となっては叶うことがない夢の断片が、お互いの脳裏に浮かんでいた。

 けれど、10年の時を経た今でも、明智と和島は、「ホームズ」と「ワトソン」という最良のパートナーであったと。そう感じていた。

「ワトソンがホームズのためだけに残した謎は、ホームズには解くことができなかったってことね!」
 かおるも瞳に涙をためながら、宣言した。それはつまり……。

「そう、やっぱりホームズにはワトソンの存在が必要不可欠なんだ」
 明智が自ら、そう締めくくった。

 こうして、ワトソンが残した最後の挑戦状は、10年の時を経て、ホームズの中で氷解した。

「……さて!ワトソンとこうして再会できて、10年来の謎も解けたことだし!」
 赤沢が元気いっぱいの声を張り上げた。それまでのしんみりとした空気が一気に動きだす。

「その後、ホームズがいかにして次々と迫り来る難事件を解決したのか!?
それをじっくり聞かせてもらおうじゃないか!」
「やったー!!」
「それいいね!ぜひ聞きたいよ!」

 赤沢の提案に、力いっぱい賛成するかおると和島。自分を置いて盛り上がる3人を見て、明智は戸惑ったが、断る理由はなかった。
 ホームズの活躍を誰よりも望んでいた和島。その想いに10年間、思い至らなかった自分であったが、自分のことを話すことで、和島の期待に応えることができるのではないか。
 明智はそう思って語り始めた。

「そうだね……どこから話そうか……。
――あれは雪の降り積もる山荘での出来事で……。

そうそう、金田一一(はじめ)という品のない少年がいてね……」

 ホームズの活躍に耳を傾ける3人の級友たち。4人が集まり、その中心には明智がいる。
 かつては当たり前のように繰り返されていたその情景が、それぞれの胸に、遠い昔に過ぎ去っていった輝くような日々を思い起こさせていた。
殺人ポーカー


「教えてくれ」
「残念です」
明智は欧米人のように肩をすくめ、空を見上げた。
いつの間にか雨が小降りになっている。
「私も忙しい身でね。
申し訳ありませんが、自分で調べてください。
しかしポーカーのルールも知らない探偵がいるとは……いえ失礼。
では、続きはいずれ。またの機会があれば、ですがね」

「え〜〜〜!!」
美雪の大声に、はじめは反射的に耳をふさいだ。
「はじめちゃんてば、本当に最低!
40分以上も待たされたうえに、唯一の取り柄の推理もできないなんて〜〜〜!!」
「明智さん行きましよ」
美雪は明智の腕に腕をからませ、ぷいっと背を向けた。
「お、おい。
美雪……」
「なによ。
今日という今日は本気でアッタマきたからね!」
美雪ににらまれ、はじめは言葉につまった。 
 
「明智さん、こんなのほっといて二人でお茶しません?」
「そんなぁ……美雪ぃ。
俺が悪かったから、勘弁してくれよ〜」

「ダーメ。今日という今日は、ぜったいに許しません!」
誰が女神を殺したか


「ちょっと待ってよ、はじめちゃん」
美雪が割って入った。
「16時30分から45分まで交代式、そのあと17時まで写真部の撮影があったわけでしょ。
いくらなんでも、その時間に事件を起こしたら、誰かが気づくと思うんだけど。
それに、16時45分から写真部が撮影したとき、石 像はすべて揃っていたんだし……」
美雪は表情を曇らせた。
「交代式あと、鍵を使用できたのは神津さやかちゃんだけなのよ。
まさか、さやかちゃんを疑ってないよね?」
そうだった……。
金田一は気持ちを落ち着かせるため一度深呼吸をした。
「センパイ!!」
「な、なんだよ佐木2号」
「僕はガッカリしましたよ。
センパイ、本気で推理する気があるんですか?」
「そうよ、そうよ! 私もそう思う」
「み、美雪まで……なんだよ」
「はじめちゃん、今回の事件にまるで興味がないみたい。
そんないい加減な気持ちで推理するなら、警察に任せた方がいいと思う。
……はじめちゃんて成績サイアクだし、運動神経もアレだし、時間にルーズだし、ゲームで徹夜してデートの約束忘れるし……。
でも、でも推理は一流だって思ってたのに……」

「あ、おい! 美雪!!」
走り去る美雪のあとを追おうとして、金田一は足を止めた。
まだ事件が解決していない。
事件をほったらかして美雪を追いかけても、美雪が納得するわけない。
余計に軽蔑されるだけだ。
金田一は決心した。

「ねえ、もう一度チャレンジしてみよ♪ はじめちゃんなら、きっとできるよ!」
『もう一度チャレンジ』
『ギブアップ』

「はじめちゃんのバカ! もう顔も見たくない!!」