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荒井昭二PS追加・変更・女主人公用台詞
7話生けにえはお前だ!



『2、出来る限り、人形と心を通わしてみよう』



あの人形には感情があるのかしら?
ひょっとしたら、感情のかけらがあるかもしれない。
なにも考えていないはずはないわ。
少なくとも、私を取り殺したいという気持ちがあるわけだから……。

人形と、心をかわすことができるかもしれない。
そう思った私は、かろうじて残っている気力を人形と心をかわすことに注いでみようと思った。
とても危険だとは思ったけれど。
私は、ベッドに寝そべるとゆっくり目を閉じた。

人形を誘ってみる。
隣に、人形が一緒に添い寝をしている気配を感じた。
来たわね……。
私は、そのまま心の中で人形に問いかけた。
(あなたは誰なの?
なぜ私を取り殺そうとしているの?)

…………………………………
…………………………………。
私の問いかけには、何も答えてくれないみたい。
もう一度、問いかけてみた。
私の頭の中に、何かが響いてきた。
これは、男のすすり泣く声だわ。

(……もう……いいんだ。
……もう……休みたい……。
この……まま……だと)
とぎれとぎれに声が聞こえた。
……よく聞き取れない。
でも、私の試みは成功した。
私は、人形と心で話すことができたんだんだわ。
だけど、私には意味がわからない。

そして、その人形は今までの感じとは少し違っていた。
私が見たことのない、不思議な表情をしていた。

ふと目を開けるとそこにもう人形はもういなかった。
あの人形は、いったい何をいっていたのかしら。
何がいいたかったかったのかしら……。



『3、誰かに相談してみよう』(変更)
「そうか……、そんなことがあったのか……。
坂上が生けにえだとはな。
あっ、ちょっと待った、今、友達が来てんだ。……ああ友達だぜ……ちょっと頭が……この暑さだろ。俺も……大変……だぜ」

私は、誰かに話そうと思った。

そうだ、新堂さんに話してみよう。

とりあえず、私は新堂さんに電話をしてみた。
日野さんでもいいけれど、やっぱりあの話を一緒に聞いていた人のほうがいいわ。
「……いいよ、それくらいおやすいご用さ」
日野さんは、すぐ新堂さんの電話番号を教えてくれた。

(プルルル、プルルル……)
新堂さんは自宅にいた。
「もしもし、新堂さんですか?
私です、倉田です。
実は……」

私は、あれからのできごとをせきを切ったように一気に話した。
「そうか……、そんなことがあったのか……。
倉田が生けにえだとはな。
あっ、ちょっと待った、今、友達が来てんだ。
……ああ後輩だけど……ちょっと頭が……この暑さだろ。
俺も……大変……だぜ」
私は、電話を思いっきり切った。
新堂さんは、途中から受話器に手をかぶせて話していたようだけど、私にはしっかり聞こえていた。
どうせ、友達に私が暑さで頭がどうにかなったっていってたんだわ!!

ひどい……。
結局、みんな自分には関係ないことは興味がないのよ。
そして、自分が犠牲にならなかったと、ホッとしているに決まっている。

私は、悔しくなった。
涙がほほをつたった。
涙が暖かい……。
こんな自分でも、まだ暖かい涙を流すことができるのね。
私は、はっとした。
私は、まだ死にたくない。
死ぬ前に、まだやりたいことがたくさんあるんだったわ。

そう思うと、なにかしなければという気持ちが無気力の中からわきあがる。



『4、もう一度学校に行ってみよう』

※以下同文※



私は、その時ふと荒井さんの話を思い出した。

校長が、生けにえになる生徒を選んでいるという話を。
本来なら、私はこの学校に来るべき人間ではなかったのよ。
それを、校長が操作したために私は合格してしまったのね。
だったら、校長室にいけば、何かわかるかもしれない。

そんな考えが、私の頭をふっとよぎった。
私は、重くだるい体を起こし、学校に行ってみることにした。

ずっと家の中に閉じこもっていたせいか、真昼の日差しは私にはつらい。
太陽までもが、私の邪魔をしているみたい。
思わずくじけてしまいそうだった。
それでも、私は最後の気力を振り絞り、学校へ重い足を引きずっていった。

学校は、驚くほど静かだった。
運動部の連中が、練習をしていてもいいはずなのに。
今日は、そろって休んでいるのかしら。
それに、旧校舎の取壊しは、もう始まっているのかしら。
だったら、けたたましい工事の音が聞こえてもいいはずなのに。

……でも、今の私にはそんなことは関係ない。
私が学校にきた理由はたった一つ。
校長室に行くことよ。

……そういえば、家を出てからずっと、人形が私の側を離れない。
私を見張っているのか、だんだんと私との間隔も狭まってきたような気がする。
最後のときが近づいてきたということかしら。

校長室の前まで来た。
誰とも出会わなかったのが、不思議なほどだわ。
でも、いい。
もし誰かに出会って、今の私の顔を見れば、きっと幽霊と見間違えただろうから。
校長室のノブに手をかける。
なぜか、鍵はかかっていなかった。

それは、まるで罠のように思えた。
どうしよう?

入ろうか?



『1、入る』



私には、もう残された時間がないのよ。
ここで悩んでいる余裕はないわ。
私は、ノブを回し、重い木の扉を開いた。

中は、さすがに校長室らしく豪勢な作りだった。

どこを調べてみようか?



『4、傘立て』



私は、傘立てを見てみた。
スチール製の傘立てが置いてある。
そこには、持ち手が犬の顔の形をしている傘が置いてあった。
置き傘かしら。
私は、そっと傘を開いてみた。
バンッ、と大きな音を立て傘は開いた。

私は、びくっとしてすぐに傘を閉じる。
よく、バネのきいたジャンプ傘だったみたい。
ここには、なにもないわね。
早くほかを捜そう。



(2回目)

ここには、なにもないわ。
ほかを捜そう。



『1、棚』



私はまず、棚を調べてみた。
ガラスの枠がはめてある棚には、いろんな賞状やトロフィーが所狭しと並んでいた。
これが、生けにえと引き替えにしてきた栄光なんて……。
私はなんだか、胸が締めつけられる思いがした。

その栄光の証は、人の命と引き替えにしてきた割には、ものすごくちっぽけなものに感じられたから。
その棚は、しっかり鍵が四カ所もかかっていて、どうすることもできない。
開けるとしたら、このガラスを割らないと無理ね。

ほかを捜したほうがいいかもしれない。



『5、洋服ダンス』



私は、洋服ダンスの取っ手を引いてみた。
さすがに、ここには鍵がかかっているようだった。
無理矢理開けようにも開ける道具がない。
ここは、後回しにしたほうがいいかな。

さあ、次は何処を捜そう。



『2、机』(男・変更)
先生も人間だし、たまにはこういうところに行って息抜きをするのかもしれないな。
……いかん、納得している場合じゃないぞ。

先生も人間だし、たまにはこういうところに行って息抜きをするのかもしれないな。
……いかん、感心している場合じゃないぞ。



私は、机の引き出しを調べることにした。
下から順番に開けていこう。
片袖の机で三段引き出しがついている。
一番下は……私が見てもわからないような書類が入っている。
次は、二番目ね。

名刺入れがたくさんある……。
なんだかしらないお偉いさんの名刺に混じって、どこかのクラブやスナックの女の子の名刺が出てきた。
校長先生も、こういうところに行くのね。
……なんだか、想像できないわ。

でもこれは関係ないわね、他のところも調べなくちゃ。
さあ、一番上の引き出しを……。
あ、あれ……だめだわ。
鍵がかかっている。
頑丈な作りで、とても壊せそうにないじゃない。

とりあえず、ここでまごまごしているわけにはいかないわ。
ほかを捜したほうがいいわね。



(2回目・鍵無し)


ここは、さっき捜したからいいわ。
ほかを捜さないと……。



『3、机の上』



私は、机の上を調べた。
きちんと整頓された机。
机の上に置かれているのは、高価そうな筆入れと一枚のポートレートだった。
私は、何気なくそのポートレートを手に取ってみた。

幸せそうな二人が写っている。
多分、父子ね。
そういえば、私は校長先生を見たことがなかった。
めったに、人前に姿を現さないので有名で、入学式のときさえあいさつをしなかったことを覚えている。
人のよさそうな顔をした、この壮年の男性が、校長先生なのかしら。
私は、その息子と思える少年に目を留め、ぎょっとした。

……荒井昭二。
その写真の中で微笑んでいる少年の顔は、紛れもなく荒井昭二だった。
そして、私は思い出した。
校長先生の名字が荒井であったことを。
どうして今まで気がつかなかったのかしら。

私のポートレートを持つ手が震え、思わず落としてしまった。

ガラスが割れ、中から一つの鍵が出てきた。
どこの鍵かしら?

私は、その鍵を取った。

そして、落ちた写真をもう一度よく見直した。

……荒井さんは、実在した人間だったのね。
そして、あろうことか校長先生の息子だったんだわ。

では、なぜ?
なぜ、荒井さんはこの学校の生徒を騙り、私たちにあんな話をしたのかしら。

彼は、何者なの?

このまま考えていても仕方がないわ。
私はほかを捜すことにした。



(2回目)


ここは、もう調べようがないわ。
ほかを捜そう。



『3、机の上』→『2、机』



私は、机の引き出しを調べることにした。

……だめだわ。
鍵がかかっている。
頑丈な作りで、とても壊せそうにない。

私は、ポートレートから出てきた鍵を引き出しの鍵穴に差し込んだ。
ぴったりあう。

引き出しの中には、難しそうな書類の奥に、隠すようにして一冊の古い日記帳が入っていた。

読んでみようか?



『2、読まない』



私は、ためらった。
多分これには、私が知りたいと思うことが記されていると思う。
だけど、それを見てしまったらとんでもないことが起きそうな嫌な予感もする。
……私の嫌な予感はよく当たる。
最近特にそう思う。

私は、その日記帳を手に取った。
セピア色に染まったその日記帳は、ちょっとかび臭いような匂いがした。

「あっ……」
私の手から、その日記帳が滑り落ちた。
そして、あるページが開く。
私は、日記帳を拾い上げた。
思わず、そのページを読んでしまいそうになる。
19××年、八月……
最初の部分が目に入った。

私は、ぱっと日記帳を閉じる。
……もうダメだわ。
私の、好奇心と誘惑に弱い心がそのページを開かせる。



『日記』(変更)
ゴルフ・クラブ
そこまで日記を読み進めたとき、私は、ページの間から小さな鍵を見つけた。
何の鍵かしら?

とにかく、こんなところに挟んでいるなんて、とても大事な鍵に違いないわ。
私は、その鍵をそっとポケットに忍び込ませた。

その時。
閉めたはずの扉がゆっくりと開いていった。

「……ようこそ」
扉の向こうには、あのポートレートの男が立っていた。
校長先生だわ。

手には、ゴルフクラブが握られていた。
「……校長先生」
私は、思わず呟いた。

「お前が最後の生けにえだな?
もしかしたら、そろそろ来るかもしれないと思っていたよ。
生けにえになった連中の何人かは、死ぬ間際にこの校長室に忍び込む。
だから、私は待つことにしたんだ。
そしてお前も、同じだった。
ひひ……」

校長は、自分の息子を生き返らせるために、毎年、悪魔に生けにえを差し出していたのね。

私は、傍らにたたずむ人形をちらと見た。
荒井さんは、生けにえは今年で最後だといっていた。
では、私が死ねば、この人形が荒井昭二として生き返るのかしら。
冗談じゃないわ。
私は私よ。
死ぬのは嫌!

「なぁに、何も怖くない。
怖いことは何もないんだ。
お前が死んでも、すぐに生まれ変われるのだから。
昭二のために、死んでおくれ!」

校長は、手にしたゴルフクラブをめったやたらに振り回しながら私に向かって突進してきた。
どうしよう?

どこに逃げればいい!?



『4、洋服ダンス』



私は、とっさに洋服ダンスに向かって跳んだ。
その途端、校長の動きがぴたりと止まった。
「離れろ! そのタンスから離れるんだ!」
それきり、校長は私との間合を取り、襲っては来なかった。

このタンスの中には、何かよほど大事なものが入っているのね。
私は、取っ手に手をかけた。
……が、鍵がかかっていて開かない。

どうしよう?



『4、ほかの場所に逃げる』



ほかの場所に逃げたいけれど、この限られた空間のどこに逃げればいいのかしら。
ふと、窓を見た。
校長室は三階だから、窓から逃げることは不可能だわ。
……もう、どうなってもいい!

私は、とっさに窓の外に飛んだ。
体がふわりと宙を飛ぶ。
彼らのいいようにはされないわ。
それだけは許せなかった。
最後くらい、自分の生き方を自分で終わらせたかった。

私は、あの化け物のえじきになるよりも自分で命を絶つことを選んだ。

……でも、本当にこれでよかったのかしら?
ほかに、もっといい方法があったかもしれない。
……今さらだけれど。
また、新たな生けにえが増える。
私は、それを止めることすらできなかった。



『3、タンスに耳を押しつける』



耳を澄ますと、何やらタンスの中から音が聞こえてくる。
私は、思わずタンスに耳を押しつけた。
中から何かが這いずり回るような音が聞こえてくる。



『1、タンスをたたく』



私は、たまらずにタンスを力一杯叩いた。

すると、タンスの内側からもこちらを叩く音がする。



※以下同文※



間違いなく、この中に何かいる。
私は、ポケットの中に手を突っ込んだ。

あの日記帳に挟まっていた鍵……。
あれがこのタンスの鍵に違いないわ。

私が、鍵穴にそれを差し込むと、校長は、叫び声をあげながら私に襲いかかってきた。

私は、鍵を回し、タンスの扉を開けはなった。
そして……。

鈍い音が響き、校長のゴルフクラブはタンスの中のものに命中した。
「あ……あ……昭二、昭二」
校長は、タンスの中に目を釘付けにしたまま、わなわなと震えている。
校長の手から、クラブが力なく落ちた。

クラブの先には、べっとりと赤い血がついていた。
タンスの中から、鼻が曲がりそうな異臭が漂ってくる。
私は、そっとタンスの中を覗き込んだ。

「げえっ!」
私は、そのあまりの臭いと光景に、胃の中のものを吐き散らした。
タンスの中には、いつも私の側にいた人形のような物体がいた。
そして、その物体の頭は、クラブでたたき割られていた。

タンスの中にいた物体は、茶色い肌を黄緑色の粘膜で包み込み、カクカクと力なく小刻みに震えていた。






『2、タンスを倒す』(変更)
僕は、力任せにそのタンスを引っ張った。
ものすごい音と共にタンスは倒れた。

私は、力任せにそのタンスを引っ張った。

いざとなったら、こんなことができてしまうなんて。
ものすごい音と共にタンスは倒れた。
タンスは、倒れたときの衝撃でバラバラに壊れた。
重い素材でできていたらしく、倒れた衝撃にはとても耐えることができなかったようだった。

「あ……あ……昭二、昭二」
校長は、壊れたタンスにすがりついた。
そして、木の破片を取り払った。
私は、そっと覗き込んでみた。

「きゃああっ!」

私は、そのあまりの匂いと光景に、胃の中のものを吐きそうになった。
校長が木片を取りのぞくと、そこにはいつも私の側にいた人形のような物体がいた。

そして、その物体の頭は、タンスの角材でたたき割られていた。
その物体は、茶色い肌を黄緑色をした粘膜で包み込み、カクカクと力なく小刻みに震えていた。
「あ、あう、あう……」
なにか、あえいでいるみたい。



■※以下同文※■



これは、生きているのかしら。
茶色い肌と黄緑色の粘膜の間には、赤や青の幾本もの血管のようなものが張り巡らされており、かち割られた頭からは、どす黒い液体を弱々しく吐き出していた。
ふと辺りを見回すと、さっきまで私の側にいた人形がいなくなっていた。

……そうか。
これが本体だったのね。
私の側にいつもいた人形は、この幻影に違いないわ。
そして、これは洋服ダンスの中で、毎年一人ずつ生けにえの魂を吸い取りながら成長し続けていたのよ。
何てことなの。

「殺してやる!」
その時、校長が、私につかみかかってきた。
「お前だ!
お前が昭二を殺したんだ!」
……やめて。
殺される!
その時、不気味な声が響いた。

「わが契約は終了せり」
声が聞こえると同時に、校長は叫び声をあげた。

「ぎゃあっ!」
何が起こったのか、校長の胸が裂け、そこから赤い血が噴水のように噴き出した。
そしてその血は、あろうことか空中の一点に吸い込まれていく。

「……わ、私じゃない。
い……生けにえは、……こっち……」
校長は、力なく私のほうを指さしたけれど、もはやどうなるものでもなかった。

まるで早回しの映画を見ているように、校長の顔は血の気が失せ、全身がミイラのようにやせ細っていった。

そして、あっという間に骨と皮だけになり、崩れ落ちた。
床に落ち、砕け散ると、もう死体も残らず、ただの砂山に変わり果てた。
……契約は終わった?
悪魔との契約のこと?

息苦しい。
私の心臓は、口から飛び出しそうなほど激しく脈打っていた。
……終わった。
私は助かったのね。
人形の生けにえにならずにすんだんだわ。

「ぎゃっ!」
その時。
私は、突然後ろから首を絞められた。
何なの、これは!?

無理やり首をねじ曲げ、肩越しに後ろを見ると、頭の割れた人形が、私の首を絞めていた。

人形の顔は、荒井昭二に似てなくもなかった。
……なんてことなの。
契約が終わったということは、これが生き返るってことなのね!
人形は、歯のふぞろいの口からボコボコと血の泡を吹き、焦点の合わない目でケタケタと笑った。

「ア、ソ、ボ……、ア、ソ、ボ……」
人形とは思えない力だわ。
とても振りほどけそうにない。
どうしよう!
私はこのまま死んでしまうの?

せっかく、身体の中に生きる力があふれてきたというのに……。



『1、人形の割れた頭の中に手を突っ込む』(変更)
これが、悪魔の契約書なのだろう。
真っ二つに破かれたこの契約書はもう効力を持たないのだろうか。
それならば、いいが……。
さすがに臭いがたまらなくなり、僕は立ち上がった。

これに弱点はないの!?
私は、とっさに割れた頭に手を突っ込んだ。
もう、この際どうでもいい。
ねっちょりとした、なま暖かいものが指にからみつく。
私は、それを思いっきり握り潰した。

指の間から、にゅるりとひねり出てくる脳髄はなんともいえない感触だった。

「キィーーーーー!!」
人形は悲痛な叫び声を上げると、そのまま動かなくなった。
人形の表面を覆っていた黄緑色の粘膜が溶け、私の肩を流れ落ちていく。
人間でいう神経のようなものが、皮膚に張りついていた。

残飯が腐ったようなものすごい匂いだけど、今の私にはそれを気にかける気力もない。

気がつくと、それはただの人形に戻っていた。

「きゃっ!」
私は、慌てて飛び上がった。
人形の割れた頭の中から、手のひらほどもある大きなクモがワサワサと出てきていた。
そのクモたちは、どれもが人間の顔をしていた。
一匹、二匹……十一匹、十二匹。
人間の顔をしたクモは全部で十二匹いた。

これは、今まで生けにえになった生徒たちの魂なのかしら。
クモは、頭の中から這い出てくると、空気に溶けるように消滅していった。

私は、ふと床に落ちていた日記に目を落とした。
さっきは気づかなかったけれど、日記の中に一枚の紙切れが挟んであった。

見たこともない文字がびっしりと書かれてあり、下のほうに指で赤い判を押してあった。
きっと血の判だわ。
これが、悪魔の契約書なのね。

私は慌ててその契約書を破いた。
これで、効力がなくなればいいけれど……。
さすがに臭いがたまらなくなり、私は立ち上がった。
この事件は、どうやって取り扱われるのかしら?

やっぱり、校長は行方不明ということで警察に処理されるのかしら?
校長室の壊れた人形を、警察はどう解釈するのか……。



『2、人形の首を引き抜く』(変更)
これが、悪魔の契約書なのだろう。
真っ二つに破かれたこの契約書はもう効力を持たないのだろうか。
それならば、いいが……。
さすがに臭いがたまらなくなり、僕は立ち上がった。

私は、その人形の首に手を回した。
そして、力一杯引き抜いた。

ズボッという手応えのあと、人形の首は引っこ抜けた。

「キィーーーー!」
人形は悲痛な叫び声を上げると、そのまま動かなくなった。
引っこ抜いたその頭には、人間のような脊髄がズルリとついていた。
そして、まだケイレンをしている。

人形の表面を覆っていた黄緑色の粘膜が溶け、私の肩を流れ落ちていく。
人間でいう神経のようなものが、皮膚に張りついていた。

残飯が腐ったようなものすごい匂いだけど、今の私にはそれを気にかける気力もない。

気がつくと、それはただの人形に戻っていた。

「きゃっ!」
私は、慌てて飛び上がった。
人形の割れた頭の中から、手のひらほどもある大きなクモがワサワサと出てきていた。
そのクモたちは、どれもが人間の顔をしていた。
一匹、二匹……十一匹、十二匹。
人間の顔をしたクモは全部で十二匹いた。

これは、今まで生けにえになった生徒たちの魂なのかしら。
クモは、頭の中から這い出てくると、空気に溶けるように消滅していった。
私は、ふと床に落ちていた日記に目を落とした。
さっきは気づかなかったけれど、日記の中に一枚の紙切れが挟んであった。

見たこともない文字がびっしりと書かれてあり、下のほうに指で赤い判を押してあった。
きっと血の判だわ。
これが、悪魔の契約書なのね。

私は慌ててその契約書を破いた。
これで、効力がなくなればいいけれど……。
さすがに臭いがたまらなくなり、私は立ち上がった。
この事件は、どうやって取り扱われるのかしら?

やっぱり、校長は行方不明ということで警察に処理されるのかしら?
校長室の壊れた人形を、警察はどう解釈するのか……。



『3、日記帳を破る』(変更)
クモは、頭の中から這い出てくると、空気に溶けるように消滅していった。
僕は、ふと破いた日記に目を落とした。
タンスに下半身を収めた壊れた人形を、警察はどう解釈するのだろうか?

私は、日記帳に手を伸ばすと、そのページをメチャクチャに破いた。
この日記帳が、黒い気に包まれているような気がしてならなかったから。
もはや、自分の勘に頼るしかなかった。

「キィーーーーーッ!?」
……どうやら、私の勘は当たったようだった。
人形は悲痛な叫び声をあげると、そのまま動かなくなった。
人形の表面を覆っていた黄緑色の粘膜が溶け、私の肩を流れ落ちていく。

残飯が腐ったようなものすごい匂いだけど、今の私にはそれを気にかける気力もない。

タンスの中から人形を引きずり下ろすと、それはただの人形に戻っていた。

「きゃっ!」
私は、慌てて飛び上がった。
人形の割れた頭の中から、手のひらほどもある大きなクモがワサワサと出てきていた。
そのクモたちは、どれもが人間の顔をしていた。
一匹、二匹……十一匹、十二匹。
人間の顔をしたクモは全部で十二匹いた。

これは、今まで生けにえになった生徒たちの魂なのかしら。
クモは、頭の中から這い出てくると、空気に溶けるように消滅していった。

私は、ふと破いた日記に目を落とした。
さっきは気づかなかったけれど、日記の中に一枚の紙切れが挟んであった。

見たこともない文字がびっしりと書かれてあり、下のほうに指で赤い判を押してあった。
きっと血の判ね。
これが、悪魔の契約書なんだわ。
真っ二つに破かれたこの契約書は、もう効力を持たないのかしら。

それならばいいけれど……。

さすがに臭いがたまらなくなり、私は立ち上がった。
この事件は、どうやって取り扱われるのかしら?
やっぱり、校長は行方不明ということで警察に処理されるのかしら?

タンスに下半身を収めた壊れた人形を、警察はなんて解釈するの?



『4、校長の成れの果ての砂を人形にぶつける』(変更)
もう、頭半分が溶けている。

これが、悪魔の契約書なのだろう。
真っ二つに破かれたこの契約書はもう効力を持たないのだろうか。
それならば、いいが……。
さすがに臭いがたまらなくなり、僕は立ち上がった。

私はかたわらにあった、校長の成れの果ての砂をつかんだ。
そして、私の首を絞めているその人形の顔めがけて投げつけた。

「キィーーーー!」
人形は悲痛な叫びをあげると、そのまま動かなくなった。
人形の表面を覆っていた黄緑色の粘膜が溶け、私の肩を流れ落ちている。
人形の弱点はこの砂だったのね。

中途半端なできの人形に、この砂はひとたまりもなかったみたい。
もう、頭半分が溶けている。

残飯が腐ったようなものすごい匂いだけど、今の私にはそれを気にかける気力もない。

気がつくと、それはただの人形に戻っていた。

「きゃっ!」
私は、慌てて飛び上がった。
人形の割れた頭の中から、手のひらほどもある大きなクモがワサワサと出てきていた。
そのクモたちは、どれもが人間の顔をしていた。
一匹、二匹……十一匹、十二匹。
人間の顔をしたクモは全部で十二匹いた。

これは、今まで生けにえになった生徒たちの魂なのかしら。
クモは、頭の中から這い出てくると、空気に溶けるように消滅していった。

私は、ふと床に落ちていた日記に目を落とした。
さっきは気づかなかったけれど、日記の中に一枚の紙切れが挟んであった。

見たこともない文字がびっしりと書かれてあり、下のほうに指で赤い判を押してあった。
きっと血の判だわ。
これが、悪魔の契約書なのね。

私は、慌ててその契約書を破いた。
これで効力がなくなればいいけれど……。
さすがに臭いがたまらなくなり、私は立ち上がった。
この事件は、どうやって取り扱われるのかしら?

やっぱり、校長は行方不明ということで警察に処理されるのかしら?
校長室の壊れた人形を、警察はどう解釈するのか……。



※以下同文※



どうせ、私の話なんか誰も信用してくれないわ。
この話を校内新聞の特集の七話目として組み込みたいけれど……あの企画はあれきり止まってしまったんだっけ。

校長室を出ても、とても静かだった。
私は、誰もいない廊下を、重い足を引きずりながら歩き、家へ向かった。

……そして、一月ほどが過ぎた。

私は完全に体調を整え、明日から始まる二学期に臨む。
今、私は思う。
なぜ、荒井昭二は私たちの集まりに参加したのかを。

彼は、私たちに何かを伝えたかったんじゃないかしら?

本当は、彼は生き返ることを望んでいなかったのでは?
そんな勝手な虫のいい考えが私の頭をよぎることがある。
何にせよ、すべては終わったのよ。

結局、あれが学校に巣くう魔物の正体だったのかどうかは疑問だけど、とにかく人形の犠牲となる人たちはいなくなったのだから。
それがせめてもの救いだわ。
……私は、今も人形の悪夢を見る……。
隠しシナリオ対決!荒井VS風間



風間さんが、突然電気をつけた。
やだ、かなり怒っているみたい。
風間さんも風間さんだけど、今の荒井さんのトゲのある言い方も、ちょっとひどいわよね。
怒るのも、無理ないかもしれない。

「君ねえ、ずいぶんじゃないかな。
僕は、あまり暴力に訴えるのは嫌だからさ。
穏便に話さしてもらうけれどさ。
今の言い方はないんじゃないの?」

荒井さんが反論する。
「……どうしてですか?
僕は、正直な気持ちを口にしたまでです。
僕は、まじめな気持ちでここにやってきたんです。
もっと、神聖な集まりだと思いましたのでね。
それなのにあなたはそれを壊してしまった。
怒って当然じゃないですか?
ここに集まった皆さんも、気分を害されたと思いますよ」
荒井さんは、ぼそぼそと呟きながらなめるような視線を風間さんに送っている。
何とも、険悪なムードだわ。

どうしよう。
とめたほうがいいのかしら?



『1、とめる』(女用)
「そりゃ、僕だってやめたいさ。でも君も見てたろ。先に突っかかってきたのは荒井の方だ。僕じゃない」

「やめてほしいんならさ、こいつに謝らせてくれよ。僕はみんなの前で辱められたんだ。
謝罪を要求するね」

「ちょっと、もうやめましょうよ」
私は立ち上がった。
このままじゃあ喧嘩になりかねないわ。

風間さんが、大げさに肩をすくめて見せた。
「おお、マイハニー。
僕だってやめたいよ、でもさあ……。
先に突っかかってきたのは荒井の方なんだから。
こいつにいってくれよ」

荒井さんは上目遣いで風間さんをにらんだまま、何もいわない。
風間さんは、そんな荒井さんを無遠慮に指さした。
「やめてほしいんならさ、荒井に謝らせてほしいな。
僕はみんなの前で辱められたんだ。
謝罪を要求するね」

みんなは荒井さんを見た。

荒井さんは……。



『1、謝った』



荒井さんは、少しだけ頭を下げた。
「……すいませんでした。
頭に血が上ってしまって、つい」
ボソボソと口の中でいう。

「わかればいいんだよ。
僕だって、わざわざことを荒だてたくはないんだから。
ねっ」
表情は硬いままだったけれど、風間さんは気を取り直したようだった。
よかった。
一時はどうなることかと思った。

荒井さんに、話を続けてもらおう。
振り向いた私は、思わず息を呑んだ。

荒井さんが、なんともいえない恨めしげな顔をしていたから……。
うつむいていたので、他の人には見えないみたい。
荒井さんは、私の視線を感じたようだった。
彼の目だけが、ぎょろりとこっちを見る。
冷たい目。

謝ってしまったことを、怒っているのかしら?
私が余計な口出しをしたから、といわんばかりの表情だ。
なにかいう隙もなく、荒井さんはそのまま話し始めてしまった。



(2)


そのとき、耳元に生温い息を感じた。
思わず出かかる悲鳴を、必死に押さえる。
私の後ろになにかいる!!
全身から汗が噴き出した。

心臓が口から飛び出してしまいそう。
振り向いてはいけない。
荒井さんがそういっていた。
だから、振り向いては駄目よ。
それはわかってる。
でも……。

私は振り向いた。

そこには、得体の知れないものがいた。
ドクロのような顔に、大きな目玉をぎょろりと光らせた餓鬼のような生き物が、今にも食いつきそうなくらい近くにいた。
……私は悲鳴をあげたかもしれない。

その一瞬後、そいつは消えてしまった。

まるで、私の背中にもぐり込んだように。
その途端、体がガクンと重くなった。

いつの間にか電気がついている。
荒井さんが、私をのぞき込んでいた。

「倉田さん、今のを見てしまったんだね」
ささやくような声。
「見てはいけないといったのに。
僕のいうことを聞かなかったから、君は罰を受けたんだよ」
なに?
この人は、なにをいっているの?

「でもね……本当は、君が振り向くことはわかっていたんだ。
いかにも好奇心が強そうだものね、君。
だから僕はわざと、君の後ろにアイツを呼んだんだよ」
荒井さんが声を殺して笑う。
それは、とても邪悪な感じがした。

「君は取りつかれてしまったんだよ…………ヤツにね」

取りつかれた?
ヤツって、いったい誰なの!?
頭の中で疑問がグルグル回る。
でも、言葉にできない。
舌が石に変わってしまったようで、しゃべれない。
これは、荒井さんのいう『ヤツ』に取りつかれたせいなの!?

荒井さんは、私があせっているのを見て、妙に嬉しそうに目を細めた。
「怖がっているね。
君のせいで、風間に謝らなければならなかったんだ。
僕のプライドを考えれば、当然の報いさ…………でも、骨身にしみただろう。

ヤツを離すことはできないけど動けるようにしてあげるよ」
その言葉と同時に、体がフッと軽くなった。
荒井さんがニヤッと笑う。
「暗闇の中で、倉田さんは充分に怖い思いをしたようですね。

これを、僕の五話目にしてもらいますよ」
私は何もいえなかった。

……さあ、とうとう最後の一人だわ。



『2、謝らなかった』




キッパリと、荒井さんがいった。
青ざめているけど、視線は風間さんから外さない。
「謝るんなら風間さんの方でしょう」

普段おとなしい人ほど、一旦思い詰めると強情だって聞いたことがある。
あれって本当なのね。

「へえ、君も強情だな。素直に謝れば、許してやろうと思ったのに」

ガタンと大きな音をさせて、風間さんが立ち上がった。
「大体、なんで君にそんな態度を取られなければならないんだ?
僕がそんなひどいことをしたか」
「本当にわからないんですか?
僕がこれだけ怒っている理由が?」

荒井さんは、なんだか情けなさそうな顔をしていた。
「ああ、わからないね」
風間さんの返事に、まゆをひそめる。
まるで、泣きベソをかいているみたい。
「……あなたみたいな人がいるからっ」
荒井さんは叫んだ。

声がひっくり返っていたけれど、誰も笑わなかった。
笑えないなにかが、荒井さんの態度にはあったから。

「あなたみたいな愚かな人がいるから……僕は……僕はっ!!」
荒井さんは立ち上がり、風間さんにつかみかかった。

でも、そんなの無謀としか思えなかった。
性格的にも体格的にも、荒井さんが風間さんに勝てるわけがないじゃない。
荒井さんは前屈みになって、風間さんの腹に頭を押しつけていた。
「なにをするんだ!!」

風間さんに背中を殴られても、じっと耐えて放さない。

そのうち、風間さんの顔色が変わってきた。
額には脂汗がにじんでいる。
「やめろ! 放せよっ!!」
締め上げられて苦しいのかしら。
荒井さんの髪の毛をつかんで、引きはがそうとする。
でも、離れない。

私たちは、二人を引き離そうと近寄った。

すると、荒井さんが顔を上げた。
その目は鈍い金色に光っている。
半開きの口から、チラリととがった牙がのぞいた。
凍りついたように、私たちは立ちすくんだ。

次の瞬間、荒井さんは風間さんの腹にかみついた。

風間さんの悲鳴が響いた。
それはもう、人間の仕業じゃなかった。
生きている人の腹を、シャツごと食いちぎるなんて、人間には無理よ。

でも、荒井さんはそれをやった。
真っ赤に染まった口が、わずかに動いた。
「こんなこと、したくないのに……
僕の中の悪霊を挑発したりするから……っ」
そして、くるっと背中を向けて走り出した。

「あ……」
私は荒井さんを呼び止めようとした。
でも、声が出なかった。
床に倒れて動かない風間さんの、血に染まった腹部。
「いったい、何が起こったっていうのよ」
誰かが泣き声でいった。

何が起こったのか…………。
それは、誰にも答えられないに違いない。
狭い部室に血の臭いが立ちこめている。
七不思議がこんな結末を迎えるなんて、誰が想像しただろう。
メンバーの泣き声が、なんだか遠くに聞こえる。

私はただ、立ち尽くすしかなかった。
荒井さんの行方は、二度と知れなかった。



『2、もう少し様子を見る』



ちょっと、口を挟みにくい雰囲気。
私は、もう少し様子を見ることにした。

「君ね。
後輩のくせに生意気だよ。
目上のものには、それなりに払わなければならない礼儀ってものがあるだろ?
僕が、君に迷惑をかけたのか?
何か、迷惑をかけたっていうのか?」

「ええ。
はっきりと迷惑をかけられました」
荒井さんは、そうきっぱりと言い切った。
でも、その言葉が余計風間さんを怒らせたみたい。

「……ほう、おもしろいじゃないか。
君も、なかなかのジョークをいってくれるね。
僕が、君に迷惑をかけたっていうんだね?
いくら紳士的な僕でも、いい加減にしないと暴力に訴えてしまうよ」

顔では笑ってるけど、風間さんの顔がひくひくと引きつっている。

「結構ですよ。
野蛮な行為に出るというのなら、勝手にすればいいじゃないですか」
荒井さんも負けていない。
みんな、成り行きを見守っている。
ますます、険悪なムードになってきたわ。

どうしよう。
このままでは、本当に風間さんは暴力を振るうかもしれない。

どうすればいいの?
そろそろ、とめるべきなのかしら。



『2、もう少し見守っていたい』



今、私がとめたら、余計まずい雰囲気になるかもしれないわ。
それに、私はまだ一年生だし。
私が口出しするのも変かもしれない。
もう少し、このまま様子を見ていよう。

「……そうか。
暴力的な訴えに出て欲しいというのか。
じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうか。
でも、僕も理性的な人間だからね。
その前に、僕がどのようにして君に迷惑をかけたのか具体的に聞かせてもらおうじゃないの」
風間さんの手が震えている。
握った拳に力が込められているのがわかる。
……まずいかもしれない。

ここは、後輩として荒井さんが謝ったほうがいいかもしれない。

「……そうですか。
あなた、相当のバカですね。
わざわざ僕が話さないとどのように迷惑がかかったか、わからないとおっしゃるんですね?」
荒井さんの態度はあくまで喧嘩腰だった。

「……ああ、そうだね。
僕は馬鹿だから」
風間さんの声が震えている。
もう、切れる寸前だわ。

「霊が怒っているからですよ。
あなたのくだらない冗談で、霊が怒ってしまってるんですよ。
わかりますか?
このままだったら、僕だけでなく、ここにいる皆さんに迷惑がかかるんですよ。
もちろん、あなたの場合は自業自得ですけれど」

荒井さんは、とても真剣だった。
私は、その言葉に寒気さえ覚えた。
それほど、重い言葉だった。

みんな、目を見開いて、荒井さんの言葉に聞き入っている。
説得力があるというよりも、本当に何か悪いことが起こりそうな気を起こさせる言葉だった。

重い沈黙の中、ただ一人、風間さんが笑った。

「あっははははは……、馬鹿らしいね。
霊が怒ってる?
さっきから聞いてたら、君、なに?
僕にケンカ売ってるの?
君さあ、子供じゃないんだから。
もう少し、大人になろうよ。

霊なんてもん、本当に信じているわけ?」
風間さんは、完全に馬鹿にしている。
まずいかもしれない。
この部屋に何かいそうなのは私も感じていたけれど、その存在が大きくなっているのが何となく感じられる。

本当に、霊が怒っているのかもしれない。
「馬鹿いってんじゃないよ、霊なんて。
みんな、今までしていた話もどうせ作り話だろ?
誰も、そんなもん信じちゃいないくせに。
あはははは……」

風間さんが言葉を発するたびに、部屋を包んでいる空気が、荒れていくのがわかる。

このままだと、私たちまで無事にすまないかもしれない。
でも、私が口を挟んで余計に場が気まずくならないかしら。

どうする?



『1、とめる』(女用)
「そうはいうけどね、君。僕は、穏便に済ませたいんだよ。問題は、荒井にあるんじゃないのか? 彼が、僕に突っ掛かってきてるんだよ」
そうよ。
私は、この集まりをまとめなければならないんだから。
こんなことしてはいられないわ。

「二人ともやめてください」
私は、立ち上がった。
そして、二人を見た。
「先輩たち、もうやめてください。
私たちは、ケンカをするために集まったんじゃないんですから。
学校の七不思議を新聞に載せるために、皆さんに来ていただいたんです」

「あっ、ごめんごめん。
僕は、君を困らせたくないんだけどさ。
問題は、荒井にあるんじゃないのかい?
彼が、僕に突っ掛かってきてるんだから」
風間さんは、面倒臭そうにため息をついた。

風間さんのいうことにも、一理ある。

「……倉田さん?
僕は、みんなを助けようと思っているんですよ。
不届き者のために、僕たちが呪われないようにしなければならないんですよ」
荒井さんのいうことにも、一理ある。
場を茶化した風間さんにだって責任はあるのよね。

私は、どうすればいいのかしら。



『1、風間さんの肩を持つ』



「荒井さんのいうこともわかります……。
でも、風間さんは上級生なんだし、やっぱり謝った方がいいですよ」
荒井さんの表情が、サッと変わった。
私が、自分の味方をすると信じて疑わなかったという表情だった。


心が痛んだけれど、今さらどうすることもできないわ。

「いやあ、さすが恵美ちゃん。
僕が見込んだだけのことはあるね」
それに比べて、風間さんは上機嫌になった。
「恵美ちゃんに免じて、君を許してやることにしよう。
さあ、謝りたまえ」

荒井さんは震えていた。
激しい怒りに耐えているようだった。
「僕は倉田さんを信じていたのに……君も結局は、弱者をかえりみない人間だったんだ」
静かな声だったけれど、込められた怒りはよくわかる。
私はギクッとした。

いつの間にか、荒井さんの手にはカッターナイフが握られていた!
「あ、荒井さん!?」
「僕は裏切られた。
謝れというなら、謝ってやろうじゃないか!!」
カッターナイフが、サッと動いた。

一瞬遅れて、荒井さんの手首から真っ赤な血が吹き出した。
女の子が悲鳴をあげた。

「これが僕の謝り方です。
これでいいですよね……?」
ドクドクと流れる血もそのままに、荒井さんがニヤリと笑った。
さすがの風間さんも、言葉がない。
「こんな血でも、喜ぶヤツはいるものです。
そういうヤツらが臭いをかぎつけて、ここへやってくるかもしれませんね……」
そういって、荒井さんは静かに座った。

女の子が荒井さんにハンカチを渡したけれど、そんなものでは止まりそうにない出血だった。
このままお開きにしようか……。
そんな考えが頭をよぎった。

「駄目ですよ、倉田さん。
続けてください」
荒井さんの声。
私の心を読んだというの!?
奇妙に光る荒井さんの目を見ているうちに、逆らわない方がいいという気がしてきた。

血の臭いが立ちこめる部屋で、私達は最後の話を聞くことにした。



『2、荒井さんの肩を持つ』(女用)
「……勝手にすれば? それでどうなっても、僕は知らないからさ」
……仕方ない。

「風間さん。
ここは、荒井さんに任せませんか?
話をするのは順番的にいっても荒井さんなんですから。
もしいいたいことがあるなら、荒井さんの話を聞いてからにしませんか?」

私が荒井さんの肩を持ったことが気に入らなかったのかしら。
風間さんはソッポを向き、ぶっきら棒に吐き捨てた。

「……こいつに味方するのかい?
なんてことだ、僕はショックで死にそうだよ……」

すっかりいじけている。
風間さんをなだめると、また話がややこしくなりそうね。

ここは、荒井さんに任せることにしよう。
「……それでは、荒井さん。
お願いします」
荒井さんは、小さくうなずいた。



『2、嫌だと答える』



「嫌ですよ」
私は答えた。
なんだか怪しいものを感じていたからだ。
「駄目です。いう通りにしてください」
荒井さんは重ねていう。

どうする?



『2、嫌だと答える』




「嫌です。
そんなあいまいな指示には従えませんよ」
私はキッパリいった。
「そ……そんなこといわないで」
荒井さんの声が揺れた。
何かおかしいわ。
私はあくまでも突っぱねることにした。

「嫌といったら嫌です」
「駄目ですってば!
ここは、はいといってもらわないと話が続かないんですよお」
とうとう、荒井さんは泣き声になった。

電気がついた。
「どういうことなんですか?」
荒井さんは泣きベソをかいていた。
「本当は、怖い話なんて思いつかなかったんです。
だから、ちょっとしたトリックで脅かそうと思っていたのに……」

「先に僕がやってしまったものだから、カッとなったってわけだね」
したり顔で風間さんがうなずいた。
「そ……そうです。すいません」
しらけた空気が流れた。

でも、荒井さんはかわいそうなくらい、縮こまっている。
しょうがないわ。
私は助け船を出すことにした。
「じゃあ、これで一応五話目が終わったってことにしましょうよ。
いいですよね?」

みんな、うなずいた。
さあ、それじゃあ六話目ね……。



『1、はいと答える』



「はい」
私は、すぐにそう答えた。
ここは、荒井さんを信用するしかないわ。
ほかの人たちも同意の答えを出した。
ただ、風間さんの声だけは聞こえなかったけれど。
荒井さんは、話を続けた。



(2)


風間さん!
今のは風間さんの声だわ!
「ちょっと待ってください!
今電気をつけますから!」

……風間さんは無事だった。
でも……。
風間さんの背中には、得体の知れないものがいた。
ドクロのような顔に、大きな目玉をぎょろりと光らせた餓鬼のような生き物が首筋から手を回して、覆い被さるようにへばり付いていた。

驚いて見ていると、それは一瞬にして消えてしまった。

まるで、風間さんの中に吸い込まれるように。

「……風間さん。
あなた、後ろを振り向いたでしょ?
本当は、倉田さんの後ろになんか、何もいなかったんですよ。
最初から、あいつの狙いはあなたでしたから。
ずーっと、あなたの後ろにいたんです。

僕は、あなたが振り向くのを待っていたんですよ」
荒井さんが、口もとに笑みを作りながら、そういった。
けれど、目は笑っていなかった。

風間さんは、ボーッとしていた。
心なしか、顔色が悪いみたい。
「……そう?
何かあったの?
僕は、よくわからないけれど……。
霊なんて、この世にいるわけないさ。
僕は何も見なかったから……」
とても、だるそうにしている。
さっきまでの元気がなくなってるわ。

「……風間さん。
あなた、取りつかれましたよ。
けれどね、これで終わったわけじゃありません。
まだ、この部屋にはいろいろなものが存在していますから。
僕たちが、集めてしまったようですね。
倉田さん。

今、あなたははっきりと見ましたよね?」
荒井さんが、私を見た。

私は、なんて答えればいい?



『1、見た』



私は、荒井さんの迫力に押されて、促されるようにうなずいた。
荒井さんは、満足そうだった。
「……今の体験を、僕が話そうとした七不思議の一つの代わりとして考えてもらっていいですよね?

あなたは、めったに体験できないことを体験したのですから」
私は、黙ってうなずいた。
荒井さんは、何を見ているのか、うわの空で視線を空中に走らせていた。
「ああ……まだたくさんいる。
いろいろなものが、まだまだいますね。
彼らは、僕たちのことを狙っているんでしょうねえ。
ふふふ……このまま七不思議を続けていたら、僕たちといえど、無事に帰ることができるんでしょうかねえ」

そういうと、荒井さんは風間さんに目を向けた。
風間さんは、トロンとした目付きで、生気が感じられない。
荒井さんのいった通り、さっきの化け物が取りついてしまったのかしら。

「さあ、倉田さん。
次の人の話を聞きましょうか。
僕が話したのが五話目ですから、次が最後の話になりますね。
どうも、七人目は現れそうにありませんから……」
確かにその通りね。

こんな時間になってまで、七人目が現れないということは、もう来ることはないと思う。

あと、一人。
私は残された一人に目を向けた。
最後の話を聞くために……。



『2、見なかった』



私は首を横に振った。
見てしまったものがあまりにも怖くて、認めたくなかったから。

荒井さんが目を細めた。
「ああ、いけませんね。
ヤツらは嘘が大嫌いなんです。
ヤツらの前で嘘をつくなんて」

……耳元で、何かがきしむような音がした。
風の音、それとも鳴き声?

荒井さんはニヤッと笑った。
「ほら……怒って君に取りついた」
そのとき、耳元に生温い息を感じた。
私の後ろになにかいる!!

私は振り向いた。

そこには、得体の知れないものがいた。
ドクロのような顔の餓鬼。
風間さんの背中にいたものと同じだわ!
……私は悲鳴をあげたかもしれない。
その一瞬後、そいつは消えてしまった。

荒井さんが楽しそうに笑った。
「あーあ。
だからいったじゃないですか。
そうなってしまったら、もう誰にも引きはがせませんよ」

体がだるい。
これが取りつかれるって感覚なの?

呆然とする私には知らん顔で、荒井さんはみんなの方を見た。



『1、とめる』(変更)
風間さんはもしかしたら、すごく喧嘩の強い人なのかもしれない。
「やめてくださいよ、二人とも!」
私は間に割って入った。

「嫌だなあ、恵美ちゃん。
まさか僕が、本当に手を出すと思ってるんじゃないだろうね」
軽い口調でいおうとしているけれど、風間さんの目は笑っていなかった。

「へえ、それじゃまた冗談だったんですか。
本当にいい加減な人ですね、あなたは。
こんな人が先輩だなんて、情けないですよ」
よせばいいのに、荒井さんがいいつのる。

一旦おさまりかけた風間さんの怒りがまた燃え上がったようだった。

「そんなに殴られたいのかい?
案外、君って変な趣味を持ってるんじゃないだろうね。
でも僕は紳士だからね。
リクエストには応えさせてもらうよ」
グッとこぶしを握る。
こうして見ると、結構サマになっている。

風間さんはもしかしたら、ものすごく喧嘩の強い人なのかもしれない。

殴り合いになる前に止めた方がいいのかしら?



『2、止めない』(変更)
意外なことに、荒井さんの方が殴り掛かっていったのだ。
私は止めなかった。
いや、正確には止められなかった。
風間さんも荒井さんも本気だわ。
お互いが、相手のことを憎らしく思っているのが感じ取れた。

憎悪は私に向けられてはいなかったけど、なんだか鳥肌が立つ思いだった。
他人の感情が、こんなにも生々しいものだったなんて。
不意に女の子の悲鳴が上がった。
意外なことに、荒井さんの方から殴りかかっていったようだった。

荒井さんのパンチは、風間さんの頬をかすめた。
「てめえ!」
あまり威力のあるパンチではなかったけど、それで風間さんは切れたようだった。
普段からは想像もつかない勢いで荒井さんを殴りつけた。

荒井さんは吹っ飛んで、棚に頭をぶつけた。
ズルズルと倒れてしまう。
そんな……!
私はあわてた。
あんなに強くぶつかったんじゃ、きっとケガをしたわ。
こうなる前に止めなかったことで、私の良心は少し痛んでいた。

荒井さんに駆け寄る。
「大丈夫ですか、荒井さん?」
ぐったりしている手を取る。

ドキンと心臓が飛び跳ねた。
脈がない!?
あわてて探ったけれど、やっぱり脈は感じられない。
顔に手をかざしてみても、呼吸をしている様子はなかった。

「し……死んでる」
声が震えた。
みんなは驚いたようだった。
「本当か!?」
「ええ……脈もないし、息もしてません」
重苦しい沈黙が部室を包んだ。
みんなの視線が、自然に風間さんに集まる。

風間さんの顔は真っ青だった。
無理もないわ。
この若さで、殺人犯になってしまうなんて。
しかし、風間さんはとんでもないことをいい出した。

「……とりあえず、ここから運び出した方がいいな」
「ええっ!?」
耳を疑った。
現場を保存するのは、善良な市民の義務で、しかもそれが殺人なんて重大な事件なら、余計に…………。

風間さんは、私の思いを見透かしたように、こっちを見た。
「君も見てたろ。
荒井のヤツは、自分から僕に殴りかかってきたんだ。
僕の行為は、正当防衛だよ」
「で、でもそれなら、警察を呼んで、正直にそういえば……」
風間さんは肩をすくめた。
「本気でいってるのかい?

警察は犯罪者を作るのが仕事なんだ。
僕のいうことなんて、はなから信じちゃくれないさ。
それに、こうなったのは、君たちが止めてくれなかったせいでもあるんだぜ」

それをいわれると弱いわ。
私が止めていれば、こんなことにならなかったはずなのに……。
みんなも同じ気持ちだったようで、それ以上反論する人はいなかった。
私たちは共犯者……。
いつの間にか、そんな気分になっていた。

「焼却炉に持っていこう」
誰かがそういい出した。
……とてもいい案に思えた。

私達は、荒井さんの死体を抱えて、焼却炉まで行くことにした。
もちろん、一人では無理だった。
何人かで持ち上げるのが一番いい。

怖いけど、協力しなくちゃ………、どこを持とうか?



『1、足を持つ』



私は足を持つことにした。
腕は、風間さんともう一人が持つ。
残りの人は交代要員に決まった。
まだ温かみの残っている足を抱えあげる。
あきらかに人間の体なのに、もう生命が感じられないという不思議な感覚。

持ったところからグジュグジュと腐っていきそうで、吐き気がした。
荒井さんに背中を向け、担架を運ぶ救急隊員のような体勢になる。
やっぱり、顔は見たくなかったからだ。

暗い、誰もいない廊下に出る。
見られはしないかと、ついキョロキョロしてしまう。
荒井さんは小柄なのに、どうしてこんなに重いんだろう。
外国のオカルト研究家かなにかが、大きな体重計の上に重病人を乗せて魂の重さを量ったという話を思い出した。

病人が死んだ瞬間、体重は軽くなった。
だから、魂にも重量はある……というのがその人の主張だったらしい。
でもそれなら、どうしてこの体はこんなに重いんだ?
生きているときよりも、重くなっているのではないかとさえ思える。

汗で手がすべる。
だけど離してしまったら、もう二度と持ち上げられないような気がした。
額にも汗が流れているが、それを拭うことさえできない。

でも、なんとか階段までたどり着いた。
この階段を下りたら交代してもらおう。
私はそう思った。
ゆっくりと下りる。
ぼんやりした明かりに照らされて、私たちの影が、壁の上をうごめいている。

それはなんだか、不気味な生き物のようにも見えた。
そんなことを思ったとき。

背後で、ものすごい悲鳴がした。
何が起こったんだ!?

それと同時に、背中になにか重いものが落ちてきた。
階段を踏み外しかけて、あわてて踏ん張る。

その私の肩に、もう少し軽い衝撃。
なんなんだ、いったい!?

振り向いた私の目に、荒井さんの顔が飛び込んできた。
私の肩にあごを乗せ、目をつぶっている。
……心臓が止まるかと思った。
でも、すぐに気がついた。
風間さんたちが、階段で転びそうになったんだろう。
それで腕を離してしまった。

だから、荒井さんの上半身が、私の背中に倒れかかってきたんだ。
おかげで、危うく私まで転ぶところだった。
それでなくても、死体をおぶっていると思うと気分が悪い。
「ひどいですよ……」
私が文句をいおうとした、そのとき。

荒井さんの目が見開かれて私を見た!
口元から、血がスウッと流れて落ちる!
「うわ……」
放り出そうとした私の胴に、血の気の失せた脚が巻きつく。
私はバランスを崩して、暗い虚空に飛び出した。

荒井さんは死んでいなかったのか!?
怒りのあまり生き返ったのか!?
さまざまな疑問が、頭の中に渦巻く。
でも、それもほんの一瞬。
固い床が目の前いっぱいに広がり激しい衝撃が襲ってきた。

そして、私の意識はブラックアウトした。



『2、腕を持つ』



私は腕を持つことにした。
もう一人、風間さんも腕。
残りの人は足、それに交代要員だ。
腕を引っ張ると、なんだかグニャッとしているようだった。
今まで生きていたんだから、もちろんそれは気のせいに決まってる。

私は、腹を決めて、腕を持ち上げた。
人間一人の体は、結構重いものだ。
持ちにくいっていうのもあると思うけれど、このままではすぐ、交代してもらわなければならないかもしれない。

女の子に見張ってもらって、私たちは廊下を進み始めた。
こんなところを見られたら、いい訳できないな…………そんなことを考える。
そのせいか、息づかいが荒くなる。
誰もいない校舎に、私たちの呼吸音だけが大きく響いているような気がした。

風間さんも、同じ思いだったのだろう。
「君たち、少し静かにしてくれよ」
それで、私もできるだけ息をひそめた。
でも、まだゼイゼイいっている人がいる。
「おい、君たち……」

いいかけた風間さんの言葉が、途中で止まった。
同時に私も気づいた。

ゼイゼイいっているのは私たちじゃない。
この音は、荒井さんから聞こえるんだ!
私たちは無言で顔を見合わせた。
荒井さんは死んでいなかったんだろうか?

私たちは……。



『1、息をしているか確かめた』



私は、荒井さんの顔の上に手をかざした。
わずかだけど、呼吸をしている。
体を動かしたことが、結果的によかったのだろうか?
荒井さんのまぶたが、ピクピクと動いた。
息を吹き返したんだ。

でも、そのとき私はハッとした。

荒井さんが気がついて、この状況を見たらどう思うだろう。
病院に連れていく途中には見えない。
ひょっとして、焼却炉に連れていこうとしていたのがバレてしまったら?
荒井さんは怒るだろう。
私たちを警察に訴えるかもしれない。

それはまずい!
かーっと頭に血が上った。

廊下の隅に消火器がある。
それを見て取った瞬間、私はもう、何がなんだかわからなくなってしまった。

…………気がついたとき、私は血のついた消火器を抱えていた。
目の前に血まみれの荒井さんが倒れている。
今度こそ死んでしまっただろうな。
ボンヤリと考える私に、風間さんがくってかかる。

「何を考えているんだ、せっかく生き返ったのに!
殺したのは君だからな!」
風間さんがいい終わる前に、廊下の向こうから声がした。
「そこで何をしているんだ!?」
宿直の先生の声だ。
風間さんは、さっきまでの立場を忘れたように大声を上げた。

「大変です、先生! 来てください!!」
……私は殺人犯になってしまった。
風間さんを恨む気持ちも起こらない。
もう、どうなってもいいんだ……。

私は逃げもせず、駆け寄ってくる先生を見つめていた。