そう、小さなプレハブの倉庫を建てるための地鎮祭という名目で、神主さんを呼んだんです。
知らない人達は、随分大袈裟なことをするなと思ったみたいですが、主だった先生方はほとんど集まって行われました。
それでプレハブの倉庫も名目通り建てました。
先生方は、プレハブの倉庫を建てている最中に何の事故も起きなかったので、これで終わったと思ったそうです。
そして、それからしばらくの間は何も起こらなかったんですけど、あるささいな出来事がきっかけで地縛霊がまた現れたんです。
それは、地縛霊がいたなんて、みんなすっかり忘れかけていたころです。
先生方も安心したんでしょう、その倉庫に要らなくなった机と椅子を片付けるよう、二人の男子生徒にいいつけました。
一人は机、もう一人は椅子を持って、ふざけながら倉庫に向かったんです。
「安藤、じゃんけんで負けた方が机だからな」
「いいぜ、小山」
そんな調子で事件は始まりました。
そして、このときは誰もあんな恐ろしいことが起こるとは思わなかったんです。
彼らは騒ぎながら倉庫に向かいました。
「早く開けてくれよ。
もう手がしびれて」
「待てよ、あまり使われていないから建てつけがわるくて」
そして、二人は倉庫に入ったんです。
「おい、早く出ようぜ」
安藤君は急に、激しい恐怖を感じました。
小山君も怖かったのですが、そんな気持ちが照れ臭かったのか彼はそれまで以上に騒ぎ出したんです。
しまってある机や椅子を崩したり叩いたりしたんです。
そして、そのとき、起こったんです。
激しい音とともに開いていたドアが締まったんです。
彼ら二人は、今までごまかしていた気持ちを思い出しました。
それから、二人はドアに駆け寄って開けようとしたんです。
しかし、ドアは開きませんでした。
彼らは恐怖心を吹き飛ばそうとするかのように、大きな声で中から助けを呼んだんです。
しばらく助けを求めましたが、誰も来ませんでした。
このプレハブ倉庫は校舎の裏にあるので滅多に人は通りません。
ましてや、下校時刻はすぎています。
閉じ込められて、もう3時間以上は経ちました。
辺りは、かなり暗くなっています。
夜になれば、家族が捜しにくるはずだ。
それだけが心の支えでした。
安藤君は、嘆くようにいいました。
「しかし、先生が気付いてもいいはずじゃないか。
俺達、忘れられたんじゃないかな」
小山君は床にうずくまってだまったまんまです。
安藤君は恐怖のあまり小山君を怒鳴りました。
うつむいてる彼を突き飛ばしたんです。
すると、小山君は顔をうつむかせたまま近づいて来ました。
「うわー!」
安藤君は驚いて叫び声を上げました。
顔を上げた小山君のそれは、まるで化け物だったんです。
安藤君はもうこの倉庫から出ることしか、考えませんでした。
そして、ドアに向かって体当たりしたんです。
「誰かー、誰かー」
小山君はドアに体当たりしている安藤君に迫りました。
「なーんてね、驚いたか安藤」
いつもの小山君の声です。
「驚かすなよ、小山……。
俺、そういうの弱いんだよ」
安藤君の声はまだ震えていました。
そして、唾を飲み込むとやっと一息ついたんです。
「そのお面どこにあったんだよ」
「えっ、お面……」
「おまえ、いいかげんにしろよ」
そういって、安藤君は小山君のお面を剥がそうとしました。
「えっ……」
彼は後ずさりました。
そのお面は暖かく、まるで人の皮膚に触れたときの感触に似ています。
「お面じゃない……」
安藤君は悲鳴をあげました。
一度封じた恐怖が蘇ると、もう押さえることができませんでした。
そして、近くにあった椅子でドアを叩いたんです。
「安藤、どうしたんだよ」
「やめろ、やめてくれ」
安藤君は、持っていた椅子で小山君を叩きました。
「うぎゃー」
なんども、なんども、叩きました。
そして、床に小山君が倒れ、動かなくなると、やっと叩くのをやめたんです。
安藤君は床に座り込みました。
次の朝、二人は発見されたんです。
小山君は床で血だらけになって倒れ、安藤君は正気を失っていました。
先生がその倉庫に来た時、ドアは簡単に開いたそうです。
これは病院で安藤君が語った話ですが、実際はどうかわかりません。
霊が幻を見せたのか、それとも小山君を化け物にしたのか、もしかすると安藤君が恐怖のあまりに正気を失っただけなのかもしれません。
しかし、僕は思うんです。
いくら倉庫に閉じこめられたからって、普通の高校生が簡単に人を殺すほど、正気を失うことがあるのでしょうか。
どういう形かわかりませんが、地縛霊が安藤君の精神に何等かの影響を与えたのは事実だと思います。
その証拠に、先生方のその後の対応が不自然でした。
警察の調べに対し、ごく普通の生徒だった安藤君のことを、
『日常から変な行動をよく取っていた』
といったそうです。
そして、安藤君の指導要項などが密かに書き換えられたそうです。
学校側が何かを隠しているのは事実です。
倉田さん、この学校に入ったことを、今さら後悔してもおそいですよ。
こんなの序の口ですからね。
さあ、僕の話は、これで終わりです。
次は、どなたですか?
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