隠しシナリオ1謎の教科書その後(女PS) | ナノ
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女主人公・PS追加
隠しシナリオ1
謎の教科書その後

「どうしたんだい? 具合が悪いの?」
……声をかけられて、周りを見渡した。

そこは、試験会場だった。
ああ、そうだわ。
私、この学校の試験を受けにきていたのよね。
「答案用紙、真っ白じゃないか?
もうあと十分しかないよ」
聞き慣れた声がした。
私は、その男の名前を知っている。

……日野貞夫。
「試験監督だったんですか」
「は?
ああ、まあ、そうだけど。
ねえ君、大丈夫?
気分が悪いなら、保健室に連れて行ってあげるよ。
試験の方はあきらめることになるけど」
「……大丈夫です」

私は、重い頭に手をあてた。
今まで見てきたのは、一体何だったのかしら?

夢?
いや、ただの夢のはずがないわ。
私は確信していた。
この高校には必ず受かる。
そして、私はここに通い、目の前にいる男に頼まれて、学校の七不思議を特集するんだわ。
来るメンバーもわかっている。

新堂誠、風間望、荒井昭二、細田友晴、岩下明美、福沢玲子。
それから……。
いや、もしかしたら、全く別の人が来るのかもしれない。
「あと五分です」
日野先輩が、みんなに告げた。

あと五分。
そうだわ、解答をかかなくちゃ。
解答?
解答なんてないわ。
この学校に、何の解答があるっていうの?

……机の上に目を落とすと、教科書が乗っていた。
これはきっと私にしか見えない。
誰も騒がないもの。
日野先輩だって何もいってなかった。

それとも、これを置いたのは彼?
あの人はすべてを知っていて、試験監督になったのかしら。

……今は考えていられないわ。
教科書を開くと、試験の答えが書き込まれていた。
私は、それを次々と写していく。

「すごかったね。最後の五分であっというまに解いちゃって」
答案用紙を集めた後、彼は私の側に来た。
……そらぞらしい。
わかっているくせに。
「俺、日野っていうんだけど。
新聞部なんだ。
入学できたら声をかけてよ。
君みたいな人が、うちの部に来てくれたら……」
「ええ」
「よろしくね。
そうだ、君の名前は?」
「倉田恵美です」

日野先輩は、廊下に出ていった。
試験監督は教科ごとに変わる。
次に来た監督は、見たことのない人だった。
私は、各教科の答案用紙を早めに埋め、あとは彼等のことを考えていた。
彼等。

そう、私と共に七不思議の会をすごした彼等のことを……。

……試験が終わった。
どうしよう?
すぐ家に帰るべきかしら。

それとも……。


1、新聞部の部室に行く
【END日野さんに会いに行く】

2、旧校舎に行く
【END語り部と旧校舎へ】

3、家に帰る
【END旧校舎が泣いている】



『1、新聞部の部室に行く』



新聞部の部室に行こう。
日野先輩には、これから何かとお世話になるのだから。
挨拶は早めの方がいいわ。
部室の場所はわかっているんだし。
新校舎の廊下を歩く。
七不思議を取材するために、この廊下を歩いた時のことを思い出す。

ちょうど、今のようにどんやりと曇った夕方だった。
……あの時は、不安でしょうがなかったけれど……。

「待っていたよ」
やっぱり、彼はいた。
「私、新聞部に入ります」
「そうだな、そうだと思ってたよ」
彼は、驚きもしなかった。
こころなしか雰囲気が違う。
やさしい試験監督のようにしていたのは、全て演技だったのかしら。

「私をここに呼んだのは誰なんですか?」
「呼んだ?
バカいっちゃいけないな。
お前は、自分で選んできたんだ」
「私が……選んだ……?」
「お前は、一人でここに来た。
七不思議の会にも、一人で参加した。

みんなお前が望んだことなんだよ」
「どうしてそんなことをいうんですか?
七不思議の取材をしろといったのは、日野先輩です」
「嫌ならやめればよかったじゃないか。

七不思議も、最後まで聞かなければよかったじゃないか。
お前は、最後まで聞いた。
そして……奴と出会った」

「河原さんですね」
「運命だとは思うなよ。
お前は、自分で選んでここに来たんだ」
「……彼は、あれでよかったんでしょうか」
「それは河原が決めることだ」
「私は……私はこれから、どうすればいいんでしょうか」
「それは自分で決めろ」

「わかりました。
新聞部に入ります。
それが私の答えです」
「それは答えとはいえない。
答えなんてないんだよ。
お前だって、試験中にそう考えていただろう」
「私、そんなことを考えていました?」
「マネしてやろうか」

「お願いします」

「そうだわ、解答をかかなくちゃ。
解答?
解答なんてないわ。
この学校に、何の解答があるっていうの?」
「……わかりました。
解答なんてありません」
「わかってないよ、お前は。
何もわかってない」

「わかりました。
私は何もわかっていません」
「そうだ。
だからここに来るんだろう」
「ここに……?」

日野先輩は、じわじわと消えていった。
私は何もわかってない。
だからここに来る。
ここってどこだろう。
新聞部に?
それとも、学校に?
あるいは……。

部室から去ろうとすると、誰かにぶつかった。

「おっと、ごめ……あ、倉田さん?」
さっきの試験監督だわ。
日野先輩の顔をしてるけど、これは本当の彼じゃない。
「何、部室に来てくれたんだ?
ありがと。
合格するといいね」
また、やさしい人の仮面をかぶっている。

「絶対、大丈夫ですよ」
「頼もしいな」
私は、日野先輩に尋ねた。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
「私は、何もわかっていないんです。
そういう時は、どこに行くものなんでしょう」

突然、彼は嫌な笑いを浮かべた。
「何ですか?」
返事はなかった。
彼は、黙って歩き始める。
……そうか。
あの人にもわかってないんだわ。
私は、彼と反対の方向に歩き始めた。

入学したら、すぐに新聞部を訪ねよう。
そして、素直な後輩として、日野先輩に接しよう。
彼が演技をするなら、私もそれに応えなければならない。

「また、会いましょうね」
どこからか、岩下さんの声が聞こえてきた。

「僕は解答を見つけていますよ。
僕は僕なんです。
それが僕の答えです」
荒井さん……。
「倉田さん、迷ったら友達に相談するといいよ。
僕でよければ相手をするし」
細田さんね。

「なにいってるんだよ、ばかばしい。
わからないことをいつまでも考えるなんてムダさ」
「そうそう、楽しくやろうよ」
風間さん、それから福沢さん……。

「倉田、俺達は、いつでもここにいるぜ」

ここってどこかしら……?
私は、頭の痛みをかばいながら、出口に向かって歩き始めた。


そして恐怖は繰り返す…


『2、旧校舎に行く』



旧校舎を見に行こう。

「そこは立ち入り禁止ですよ」
聞き慣れた声。
背後にいるのはきっと荒井さん。
「ええ……知っています」
私は、それだけ答えて、中に入ろうとした。
「中に入るおつもりですか。

あなたは知らないかもしれませんが、そこにはいろいろな噂があるんですよ」
知っています。
旧校舎のことも、あなたのことも。
「ご忠告、ありがとうございます」
私は、それだけいって中に入った。

背後から、足音がついてくる。

「……案内しますよ。
あなた、試験を受けにきたんでしょう。
この学校のことを、あまりよく知らないでしょうから」

荒井さんだった。
「そうですか、いろいろ教えてください」
「ええ……」

旧校舎の廊下には、古い木の匂いが充満していた。
鼻が埃っぽくなっていく。

……ふいに、背後の足音がもう一つ増えた。

「どなたですか?」
「私?
ふふ、誰でもいいじゃない」
「…………」

岩下さんだわ。
私は、無言で廊下を歩いていた。
しばらくして、すぐに廊下の端にたどり着いた。

目の前の階段を上がる。

「どこに行くんだい?」
背後からまた、鼻にかかったような声がした。
風間さんね。

「試験に来たの? 大丈夫、きっと受かってるよ。
僕も受験の時は不安だったけど、なんとかなったしね」
細田さんだわ。

「なんで黙ってるんだ?」
新堂さん……。

背後の足音が、ひとつひとつ増えていく。
彼等は、決して私の前に姿を現さない。
私達は、本当に一緒に歩いているのかしら。

階段を登り終わると、もう一つの足音が聞こえてきた。
後ろから、誰かが走ってくる。
「あれっ、あなた、誰?」
福沢さんの声だわ。

「試験受けに来たんでしょ。
私もよ。
お互い、合格してるといいね」
「ええ」

私は歩き続ける。

階段をすぎ、二階の廊下を歩いていく。

背後の足音も、相変わらず続いている。
……振り向いてみようか。

後ろにいる五人は、本当に毎日この学校に通っているのかしら。
私は、黙って振り向いた。

その途端、背後の足音がやむ。
目の前には、誰もいなかった。
さっきまでのは幻聴……?
「荒井さん、この学校のことを、教えてくれるっていってたじゃないですか」
私は、一人で呟いた。

いや、私はもう教えてもらったはず。
彼等には、ちゃんと学校のことを話してもらった。
まだ聞き足りない気はするけれど。
…………この学校に入ればいいわ。
そして、また始めるのよ。
学校であった怖い話を。

この異質な空間、奇妙な時間を。
あるいは、私の運命を。


そして恐怖は繰り返す…


『3、家に帰る』



家に帰ろう。
私は、この学校に通うんだもの。
いろいろ見てまわるのは、それからでも遅くないわ。
今日はゆっくり休むの。

…………その夜は、旧校舎の夢を見た。

旧校舎が取り壊されている。
痛い、痛いって泣いている。
それとも、泣いているのは別の人?
「どうしたの?
何を泣いてるの?」
声をかけられて、目を覚ます。

「……福沢さん」
「恵美ちゃん、短い間に、いろんなことがありすぎたよ。
今日はゆっくり眠るんでしょ。
それでいいじゃない。
何も考えずに、眠ろうよ」
「私、試験中に、福沢さん達のことを考えていたわ」
「そうだね。
知ってたよ。

でも、もう考えないでいいよ」
「どうして……?」
「ここは夢でしょ。
何があっても現実じゃないんだから。
深く考えないでいいの。
殺人だって、自殺だってできるよ。
もちろん、静かに眠ることもね」

福沢さんの手が、静かに私のまぶたに触れた。
そして、私は再び目を閉じる。

……冷たいしずくが、上から頬に落ちてきた。
「ごめん、何でもないの……」
泣いてたのは福沢さん?
しずくは止まらない。
ポタポタと、いくつものしずくが私の頬に落ちてくる。
まるで、雨の日に空を見上げた時のようだった。

……側に、何人もの人の気配を感じた。
みんな泣いてるの?
河原さんもいるのかしら。
今日は眠ろう……。

私は、再び旧校舎が泣く夢を見始めた。
沢山の人の手によって取り壊され、形がなくなっていく。
人の死も、こういうものなのかしら。
形がなくなった後は、どうなるのかしら?
そうだわ、目覚めたらまた考えよう。

毎日考えていれば、そのうちわかるわ。
私は、深い眠りに落ちていった。


そして恐怖は繰り返す…