早苗ちゃんはね、宿直室にいたの。
……テレビの音が廊下にもれてたから、気付いたんだけと……。
宿直室の中で、早苗ちゃんはじーっとテレビを見てた。
少し微笑んで……。
私が立ち尽くしていると、早苗ちゃんはゆっくりと呟いたの。
「ケツが、死んじゃったって……」
「えっ!?」
早苗ちゃんはテレビを見つめたままなの。
テレビを見ると、ワイドショー番組が流れてた。
そのテロップが、
「消えた男性アイドル、謎の失踪!?」
だったのよ。
どうやら、昨日のコンサートのステージから、アイドルが消えちゃったみたい。
大勢の人達の見てる前で煙のようにスーっと、姿が見えなくなったって。
……それが、ケツのことらしいってのは、すぐわかったんだけど……。
「皆がケツを捜してるね。
実は、ケツはもう死んでいて、コンサートに現れたのは、彼の幽霊だっていう人もいるし……。
ケツはちゃんと生きてるのにね」
そういって、早苗ちゃんは私を見て笑ったわ。
その口もとに……!!
人間の顔が見えたのよ。
小さな人間の顔がひしめきあっていたの。
その中にどこかで見たような顔が……。
テレビの画面にも同じ顔が……。
「ケツはね、これからずっと私の中で生き続けるの。
皆のケツでなく、私だけのケツになったのよ。
おばあちゃんの、おまじないのおかげね」
そこで、私もハッとなったの。
あの紙だって!
あの紙って好きな人を自分の物にするおまじないだったのよ。
早苗ちゃんの口の中の人達って、皆同じようにして、取り込まれたんじゃないかなぁ。
皆、好きな人達ってことよね。
どうしよう、そのうち私も取り込まれちゃうかも……。
だって、早苗ちゃんたら、
「玲子ちゃんこれからもいいお友だちでいてね。
玲子ちゃんのこと好きだから……」
なんていうんだもの。
恵美ちゃんも気をつけたほうがいいよ。
早苗ちゃんからあなたの名前聞いたことあるんだ。
何ていってたかは……。
早苗ちゃんに聞いてね。
それじゃあ、私の話はこれまで。
次の人、どうぞ。
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