2、引き返す【PS追加END仮面の少女に助けられ生還】 | ナノ
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僕は、引き返すことにした。
どこまで行っても、細田さん達にあえる気がしないのだ。
それに、なんだか後ろの方からも、誰かが呼んでいるような気がしたし。
「坂上君! 坂上君! どこに行くんだ。
そっちじゃないよ。こっちに戻るんだ!」

細田さんが、必死に僕のことを呼んでいる。
でも、僕はその声を振り切って、来た道を戻っていった。

はぁ、はぁ、はぁ……。
どのくらい戻っただろうか。
もしかしたら、はじめにいたところも、とっくに行き過ぎてしまったかもしれない。
それでも、事態はいっこうに改善しなかった。
ただ、細田さんの声は、もう聞こえなくなっていた。

(……引き返してきたのは、失敗だったかもしれない。
もしかしたら、あのまま進んでいれば、細田さん達にあえたかもしれないのに……)
でも、どうしてもあれ以上、先に進む気がしなかったのだ。
どうしてかわからないが、こっちの方が気になって仕方がなかった。

しかし、それも気のせいだったのかもしれない。

僕が絶望したときだった。
また、僕を呼ぶ声が聞こえた。
今度は、さっきと違う声で。

「……誰? どこにいるの?」
僕は、周りを見回してみたけど、誰もいないみたいだった。
(またか……)
そう思った瞬間だった。

僕の前に、あの仮面の女が姿をあらわした。
「あ、あなたは……」
僕は、見失わないように、彼女の所まで走っていった。
彼女は、僕のことを待っていてくれた。
僕は、彼女のそばまで行って、尋ねてみた。

「どうして、あなたがここに?
……それにここは、どこなんですか?
僕は、死んでしまったんですか?」
すると彼女は、答えた。

「そんなに一度に聞かれても、私に答えられないわよ。
……まあ、いいわ。
教えてあげる。
まず、はじめの質問なんだけど、私がここにいるのは、あなたを引き止めに来たから。

二つ目の質問なんだけど、ここは……そうね、俗にいうこの世とあの世の境目ってとこかしら。
そして、最後の質問。
あなたは、まだ生きているわ。
かなり、やばい状態だけどね。
死ぬか、生きるかの瀬戸際ってところね。

助かるかどうかは、あなた次第よ」

それを聞いて、急に死ぬのが嫌になってしまった。
さっきまで死んだと思っていたのに、まだ生きているなんて。

「坂上君、あなた、さっきのまま、進んでいたら、確実に死んでいたわよ。
あなたは、あの六人に呼ばれていたから。
私も、必死にあなたのことを呼んでいたんだけど、あなたには、聞こえていなかったみたいね。
でも、安心しないで。

まだ、あなたは死んでしまう可能性があるわ。
どちらかというと、死んでしまう可能性の方が高いけどね」
「どうすればいいんですか!
僕は、まだ死にたくない。
もっと生きたいんです!」
僕は、必死に仮面の女に聞いた。
「いいわ、教えてあげる。

あなたの肉体は、大けがをしている上、魂をなくしているわ。
だから、どんどん弱っていっているのよ。
今すぐに、肉体の所へ帰れば、助かる可能性は高くなるわ」

「……でも、どうやって……」

「ここからの出口を作ればいいのよ。
ここは、あなたの心の中の世界。
夢の中のようなものよ。
あなたが望めば、出口は開くわ。
……でもいい?
帰る途中では、ものすごい苦しみがあるの。

もしかしたら、帰らなかった方がよかったと思うかもしれない。
その覚悟だけは、しておいて。
そうしないと、あなたは、あまりの苦しみに耐えられなくなるかもしれない。

もし、あなたが耐えられないと、今度は魂までもが、引き裂かれてしまうかもしれない。
そうなると、あなた自身は、消滅してしまうわ。
どうあがこうと、もう二度と復活することなんかできないのよ」

彼女は、それだけいうと、出てきた時と同じように、いきなりいなくなってしまった。
僕は、すぐにここからの出口が開くようにと願った。
僕のすぐ前の、仮面の女が立っていたところ付近に、小さな穴がぽっかりと開いた。

元の世界に帰りたいと、強く願えば願うほど、その穴は大きく開いていった。
人が通り抜けられる大きさまで開くと、僕は急いでその穴の中に飛び込んだ。

「うわああああーーーー!!」
高いところから一気に落下したような感覚だった。
その速度は、どんどんとあがっていく。
僕は、気が遠くなりそうだった。
僕は、真っ暗な空間を、真っ逆様に落ちていた。

たまに、青白い光があちこちを舞っているのが見える。
「あの光は、なんなんだ?」
僕は、その光の正体を確かめようと、近くをかすめていく光を目で追っていった。
しかし、その必要はすぐになくなった。
光の方から、僕に近づいてきたからだ。

「うわっ!」

その光の玉には、顔がついていた。
恨めしそうな顔……。
その光の玉が、僕にぶつかってきた。
ものすごい衝撃と共に、僕の中にあるイメージが流れ込んできた。

……知らない男の人が、僕のことを殺そうとしているイメージ。

その男は、持っている包丁で、僕の腹を突き刺した。
(痛い!!)
焼けるような痛みが走った。
熱い血が流れ出し、確実に死へ向かって、突き進んでいるのがわかる。

僕の中に、とてつもない絶望感が広がっていった。
(なんなんだ、これは。
刺し殺された人の、最期の記憶なのか……)

また、別の光の玉が、僕にぶつかった。
……目の前に、わっかになったロープが下がっている。
僕は、そこに首を突っ込み、踏み台から飛び降りた。
「ぐっ……」
首が絞まり、息をすることができない。

脳裏には、この人が自殺を図るまでの経緯が、思い浮かぶ。
多額の借金……妻の裏切り。
精神的にどんどんと追いつめられていき、ついには、自殺を思いつく。
(この光の玉は、無念のうちに死んでしまって、成仏できない人たちの魂なのか……)

このようなイメージが、僕の中に次々と流れ込んできた。

もう、何人もの人の『死』のイメージを見ただろうか。
何かしらの理由で、成仏できなかった人の無念の思いが、僕の中を通り過ぎてく。
そのたびに、僕の中に深い絶望感が残っていった。

「……もう……勘弁してくれ…………」
僕の心は、引き裂かれる寸前だった。
……これが、彼女がいっていた苦しみなのか。
僕は、ちりぢりになってしまいそうな心を、必死につなぎ止めていた。
………………………………。
……もう……どれだけの時間が……過ぎたのだろう……。
僕の心は、ずたぼろになり、もうどうでもいいような気がしてきた。
もう駄目だと思った瞬間だった。
ふわっと優しく受け止められたような感覚がした。

そして、夢から覚めるかのような感覚がして、目が覚めた。
元の世界に戻ってきたのだ。

「痛っ!」
僕は、頭が割れるような感覚がして、一気に目が覚めた。
「修一! 修一!!」
そこには青い顔をして、心配そうに僕のことを見ているお母さんがいた。
その後ろには、お父さんも立っている。

僕の目が覚めたという事で、周りにいた看護婦さん達も、あわただしく動き出した。

僕は、集中治療室の中にいた。
僕の頭は、包帯でぐるぐる巻きにされている。
旧校舎の工事現場で、上から落ちてきた材木が頭に直撃して、病院に運び込まれていたのだった。
僕は、手術を受けた後、何日間も意識をなくしていたらしい。

ずっと状態が悪かったのだが、ついさっき、危篤状態になって、お父さんとお母さんが呼ばれていたのだった。
工事をしていた人の証言によると、僕はまるでとりつかれているかのように、取り壊した旧校舎の瓦礫の中に入っていったということだった。

そして、運悪く崩れてきた材木の下敷きになったらしい。
僕はあのとき、あの六人がそこに立っていたので、彼らの近くへ歩いていったのだ。
しかし、目撃した人によれば、あの場所には工事の関係者以外、誰もいなかったという。

でも、僕は確かに、あの六人が立っていたのを見たのだ。
そして、僕を呼ぶ声も聞こえた。
僕は、幻でも見たんだろうか。
いや、あれは、あの六人の霊に違いない。
きっと、僕を連れていこうとしたのだ。

材木の下敷きになってしまったのも、偶然なんかじゃなくて、あの六人が仕組んだことなのだ。
……僕は危うく、あの六人につれていかれるところだった。
もし、あのときに引き返していなければ……。

そして、仮面の彼女に助けてもらわなかったら、こうして意識を取り戻すことは、できなかっただろう。

頭蓋骨を陥没させる大けがを負ってしまったが、何とか死なずにすんだ。
退院までは、まだかなりかかるだろうが、そうなったらなんとしても、このことを新聞の記事にまとめるつもりだ。
怖い話の企画自体は、なかったことだ。

それならそれで、新たに企画を立てればいいじゃないか。
絶対におもしろい記事にしてみせる。
僕には、その自信があったし、おもしろい記事を書けるだけの体験をしてきたはずだ。
僕は、窓の外を眺めながら、そう誓うのだった。

そして恐怖は繰り返す…



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