うす暗い部屋から明るい日差しが差しかかる頃、僕は眠い目をこすりながら体を起こした。隣でぐっすり寝ているエリックを起こさないよう、僕は静かにエリックの部屋から立ち去った。 洗面台に向かいながら昨日の事を思い返す。 昨日はエリックの家でお泊りをした。エリックのママは用事か何かで一日帰って来ないらしいから、二人で深夜過ぎまでゲームをした。 そんなに遅くまでゲームをしてたもんだから、二人共いつの間にか寝てしまっていた。当然ベッドにはゲームやお菓子が散乱していてたし、さっきぐっすり寝ていたエリックの口元には食べかけのお菓子が転がっていたりと非常に不衛生だった。まぁ僕の髪にもお菓子とかがくっ付いていたから人の事は言えないけど。 洗面台にたどり着いた僕は、うとうとしながら顔を洗い、歯磨きをした。乱暴に口に突っ込んだ歯ブラシで歯を磨きながら、それにしても昨日のエリックは優しかったなと思った。たまたま機嫌がよかったのか、それとも気まぐれなのかは分からないけど、昨日はとにかく優しかった。 いつもなら少しムカっとくるいたずらや皮肉を言うのに昨日だけは言わなかったし、普通にお菓子をくれたりゲームしたりと中々楽しかった。いつもあんな感じだったらいいのに。 そんなとりとめのない事を考えていると、上の階から扉が開く音がした。きっとエリックが起きてきたんだと思う。 僕の予想した通り、エリックはさっきの僕みたいに眠い目をこすりながらこちらに近寄って来た。 「おはよう、エリック」 「あー、ケニーおはよう…」 いつもはきれいに整っている栗色の髪が四方八方にはねているし、パジャマのボタンは所々外れていて、立派な脂肪が詰まってそうな白いお腹が見えている。僕は少し困ったような表情をしながら、はねている髪の毛を手で何度か撫でて整えた。 不安定な足取りで進む姿はあまりにも危なっかしくて思わず大丈夫?と聞いてしまった。エリックは仏頂面で髪を整えていた手を払い除けうるせぇよと一蹴した。どうやら子供扱いをされた事にご立腹だったようだ。 さっさと出て行けよと言わんばかりに睨まれ、扉を勢いよく閉められた。僕は仕方なくエリックの部屋に戻った。 相変わらず散らかり放題な部屋を見て思わずため息をついた。これを片づけるのは骨が折れそうだ。 乱雑に放置されているゲームは元の位置に、お菓子のクズなんかはきれいにまとめて捨てて、しわだらけのシーツをきれいに整えた。 泊まらせてもらってる立場だからこういった事をするのは当然の事なんだけど、何だか同棲しているみたいで片づける事はそんなに苦痛じゃなかった。 やっときれいになった部屋を満足気に眺めていると、下から僕を呼ぶ声が聞こえてくる。 どうやら早く降りてこいと言ってるようで、僕は慌てて階段を駆け降りた。 「来るの遅すぎだろ」 「ごめん、なるべく急いで来たんだけど…」 これくらいの理不尽は日常茶飯事なので対して気にならない。それよりも気になったのはテーブルに置かれた朝食と思われるものだろうか。 たっぷりのハチミツがかかったホットケーキがいくつかと、カリカリに焼かれたベーコン、目玉焼きが二つあった。それが二つの皿に置かれているから恐らく片方は僕の分だと思われる。 正直いって朝はこんなに食べる事はないし見てるだけでお腹が破裂しそうだ。 かなりげんなりした表情を浮かべていると思うけど、そんな僕を無視してエリックは更にたっぷりシリアルがのった更に牛乳をかけているのだからもう吐きそう。 「それ…全部食べる気なの?」 「それ以外何が…さてはお前もシリアル食べてぇのか?貧乏人のくせに食い意地はってんな」 それは流石に無理かなと断ったが、エリックは既に食べる事に夢中で話すら聞いてなかった。 仕方ないのでエリックと向かい合わせの席に座り、僕も朝食を食べる事にした。 料理の感想は一言いってエリックらしい味付けだと思った。極端に甘ったるくて極端に塩っ気が多い、まるでエリックの感情のようにコロコロ変わる味だった。でも悪くはなかった。 「これ美味しいね」 「オイラが作ったものがマズイわけねーだろ」 ぶっきらぼうに返事をしつつも、嬉しいのを必死に隠そうと無理に仏頂面をしていて結局よく分かんない表情をしていて思わず笑ってしまった。 きっとここで素直じゃないねと言ったら、ナイフが目に突き刺さってしまうかもしれない。だからあえて言わないことにする。 その代わりに朝から思っていた事を言った。 「なんかさ、僕達同棲してるみたいだね」 「はっゲイかよ。お前と一緒とか死んでも嫌だね」 「じゃあ誰がいいの?」 流石にそこまで考えてなかったのか、うっ…と言葉に詰まる。僕は満面な笑みで恨めしそうに睨んでいるエリックを見た。 「同棲は結婚しなきゃしねーし…」 それは蚊の鳴くような小さな声だったが、確かに聞こえた。それってつまり僕は結婚してもいいくらい好かれてるって事だよね? 「エリック」 「何だよ」 「僕は結婚してもいいくらい好きだよ?君は?」 「…さぁね」 窓から照らされる光を浴びながら照れた横顔がとても愛しく感じた。 |