Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜 | ナノ













Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜








こちらのSSはSecret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜の本編を全てご覧になってから、お読みください。


【ハンス】

 とある夏の朝。

 私はこの日も、ウォルドお坊ちゃまが使われなくなったお部屋を掃除しています。恐らくこの部屋で過ごすことはもう二度とないでしょうが、私がお坊ちゃまのお部屋を毎日掃除するのは習慣になっているのです。
 あぁ……、そうだ。今の発言は正しくありませんでしたね。
 お坊ちゃまは昨日、久々にこのお部屋を使われたのですから。
 もう、お坊ちゃま、と呼ぶにはふさわしくないほどに立派な方になられてしまいましたが、私にとってはいつまで経っても可愛いお坊ちゃまなのです。
「これでよし、と」
 私が掃除を終えて一息ついた時。扉を開けてお坊ちゃまが入ってきました。
「ハンス。ここにいたんだね」
「おや、お坊ちゃま」
 私よりも背が高くなってしまわれたお坊ちゃまは、随分と眩く目に映りました。ご立派な方になられたことが嬉しく、同時にお坊ちゃまにお仕えしていた日々がとても懐かしく感じてしまいます。
「ハンスがいつも部屋を掃除してくれているんだってね。お爺様から聞いたよ。有り難う」
「いえ、これはもう半分私の趣味ですから」
「うん。でもそのおかげで、私は慣れ親しんだこの部屋で休むことができた。とても感謝をしているよ」
 その言葉に、私は目尻に涙が浮かんでしまいました。
「いつでもお坊ちゃまが戻ってこらえるようにしておいて良かったです」
 お坊ちゃまは頷いた後、部屋をゆっくりと見回しました。
「ここは、辛かったことや楽しかったこと全てを含めて、私にとって何よりも大事な時間を過ごした場所だ」
 幼少の頃よりお坊ちゃまはこの部屋で過ごされ、ブルーベルお嬢様と会うまでは殆どの時間を寝台の上で過ごされていました。ブルーベルお嬢様とお会いになられてからは、お医者様もびっくりされるほど日に日に元気になられたのです。十歳まで生きられるかどうかわからない、とあれほど言われていたというのに。
「そろそろ、お時間ではありませんか?」
 私がそう問いかけると、お坊ちゃまは頷かれました。
「うん。私は庭へ行くけれど、後のことはお願いするよ。それともう一つ、誰も庭園へは来ないように言っておいてくれる?」
 私は頷きました。
「はい」
 お坊ちゃまは子供の頃と変わらぬ優しい笑みを浮かべると、庭園へと向かわれました。ブルーベルお嬢様へ会う為に。
「今度こちらへ戻られるのは、お二人の子供ができてからでしょうかね」
 私はお坊ちゃまの部屋を出ました。
 そう遠い未来ではないことを確信して。








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