Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜 | ナノ













Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜








Secret Garden SS 君を虜にする

 僕は新しい特技を覚えた。
「お坊ちゃま、お勉強をさぼってはいけませんよ。ほら、お部屋へ戻って勉強をしてください」
 目の前に執事のハンスがいた。丁度いい。ハンスで実験をしてみよう。
 僕は視線を斜め右下へ向けると、目を潤ませ、体が小さく見えるように肩を内側へと寄せた。そしてわずかに声を震えながら答える。
「ごめんなさい……。でも今日はお勉強をしたい気分じゃないんだ。悪い子でごめんなさい」
「はうぅっ!」
 ハンスが胸を押さえて頬を赤らめていた。僕は上目づかいで、さらに目を潤ませながら捨てられた小動物のような顔をしてみせる。
「許してくれる?」
「えぇ、もう許しますとも! 旦那様がダメだとおっしゃっても、このハンスが許します! あぁ、お坊ちゃま、なんと可愛らしい!」
 実験は成功したようだった。予想以上の成果に、心の中でニヤリ、としてしまう。
 どうやら僕は人並み以上に綺麗な顔立ちをしているらしい。悪友からの手紙に書かれていた。だから、か弱くて、守ってあげたくなる雰囲気を出せば相手はくらくらしてしまうそうなのだ。
 そして、この技は通用すると証明がされた。
 ハンスで試す前に侍女や庭師達、そして僕のお爺様にも試したけれど、全員この僕の魅力にめろめろだったのだ。ちょろい、と思ってしまったのは秘密だ。
 まぁ、ここまでは前哨戦だ。
 これまでの経験から考えるに、ブルーベルに他の連中と同じ手が通用するとは思えない。僕は学習した。ブルーベルはいつも僕の予想の斜め上をいくのだ。
「今度こそ失敗をしないように、きちんと計画を練らないと」
 僕はどうすればこの方法が最も効果的かを必死に考えた。


 僕はひとまず、ブルーベルにこの方法が効くのか試してみることにした。
 方法は簡単だ。
 ブルーベルをわざと怒らせるようなことをし、僕が新しく覚えた技で謝るのだ。それによって、効果があるのかどうかがわかる。怒ったら効果がないということだし、許してくれたら効果がある、ということだ。
「やぁ、ブルーベル。今日も僕に会いにきてくれて有り難う」
 僕の部屋へとブルーベルを招き入れた。ブルーベルの今日の服はベージュ色のチュニックだ。下にもう一枚服を着ているらしく、裾から白い生地の衣服がひらひらと見えている。
「ウォルド、みてみて。今日ね、ここへ来る途中にあるお花畑で作ってきたの」
 ブルーベルが僕の頭の上へ、花を編んで作った冠を乗せてきた。
「君にこんな特技があったなんて知らなかったよ」
「うわぁ、ウォルド、可愛い。とても似合っているわ」
 時々、ブルーベルは僕のことを女の子だと勘違いしているのではないだろうか、と思ってしまう時がある。
「そう?」
「うん。ウォルドって、リスみたいで可愛い」
 さっきの言葉は訂正する。女の子ではなく、動物扱いだ。でもまぁ、いい。これがブルーベルの大嫌いなカエル扱いだったら最悪だけれど、リスは可愛いし。
「そういう君は、森に住むロビンかな」
「ロビン?」
「君の髪の色によく似た鳥だよ。お腹の部分がとても綺麗な赤みがかった夕日色なんだ。とても可愛らしい小鳥なんだよ」
 ブルーベルは自分の髪の毛をひと房つまむと、照れくさそうに笑った。
「そんな小鳥さんがいるなら、見てみたいなぁ。でもこの近くに森なんて無いし、見るのは無理ね」
「君が望むのなら、その鳥を捕まえてきてもらうよ? この部屋で飼ってもいい」
 ブルーベルは首を振った。
「ううん。小鳥さんが可哀想だから、いいよ」
 僕は何かいい方法が無いか必死に考えた。ブルーベルに、ロビンという鳥がどんな姿をしているのか見せてあげたい。
「そうだ。羊皮紙にロビンの油彩を描いてもらうよ。そうすれば、君も見られると思うし」
「油彩?」
「色つきの絵だよ。ちょっと時間がかかると思うけれど、楽しみに待ってて。必ず君にロビンを見せてあげるから」
「うん。でも……、いいの?」
「うん。僕もロビンが見たいから」
 ブルーベルそっくりの小鳥の絵を、部屋に飾っておくんだ。
「わかった。楽しみにしてるね」
 ブルーベルが笑った。僕はうっとりと見惚れてしまう。彼女の笑顔は、僕の汚れた心を洗い流すかのように、清らかだ。
 はっ。いけない、いけない。
 ブルーベルへ実験をしなければ。危うくブルーベルの笑顔で真の目的を忘れるところだった。
「ブルーベル」
 僕はブルーベルのチュニックを思い切りめくり上げた。ふわりと浮いた裾の下から、麻で織られた下着が現れる。
「……」
 こんなことを女性にしたならば殴られて当然の行為を、僕は行った。ブルーベルを見ればやはり驚いており、硬直している。
「あ、今日も可愛い下着だね。でもちょっと子供っぽくない? 流行遅れだよ」
 怒らせるような発言もわざとしてみた。全ては、僕の技を披露する為に。これによって一発ぐらい殴られても、僕は構わない。
「……」
 ブルーベルは俯くと、頬を赤らめて体を震わせた。そしてはらりはらりと涙を流す。
 これに僕は青ざめた。
「ブルーベル? ご、ごめんね! こんなこと、してはいけなかったよね? 本当にごめんね?」
 小さな嗚咽をこらえようとしつつ、ブルーベルが本気で泣いていた。僕は益々狼狽えてしまう。
 ブルーベルを泣かせてしまった。
 こんなつもりじゃなかったのに。
 いつも薬を塗るときに服を脱がせていたから、これぐらいじゃ泣かないと思っていたんだ。
「ひっ……く、……ひっく……」
 ブルーベルはしゃくりあげながら、両手で涙を拭っていた。死んでしまいたい。
「とっても可愛いよ、この下着! 僕、大好きだよ! 僕も、欲しいな、この下着!」
 目からぼろぼろと涙をながしながら、ブルーベルが僕を見た。
「私、お裁縫苦手だから、この下着もあまり上手に縫えなくて……」
「これ、ブルーベルが作ったの? 手作りなの? だったら尚更僕もこの下着が欲しいよ! というか、お裁縫が苦手だなんて、そんなことないよ。僕にとびきり素敵なケープを編んでくれたじゃない! ブルーベルはお裁縫や編み物がとっても上手だよ!」
「本当……?」
「うん!」
 ようやくブルーベルが泣き止んだ。涙を手で拭いながら恥ずかしそうに俯き、裾を手で押さえる。
「もう、手を放して。服、捲らないで」
「あ、ごめん……」
 僕は手を放した。それとともに、ブルーベルのチュニックの裾が床に向かって垂れる。
「こ、今度、ウォルドにもあげるね。下着」
「うん。楽しみにしてる」
「あ、あと、もうこんなこと、しちゃダメだからね!」
「こんなことって、どんな事?」
 ブルーベルが目を見開いた。
「そ、それは……」
 ここぞとばかりに、僕はあの技を使うことにした。視線を斜め下へ向けて目を潤ませ、僕の顔立ちが一番綺麗に見える角度を意識しながら声を震わせて喋る。
「僕、わかんないよ。……どんな事? 教えて?」
 完全に決まった、と心の中で思った。そうしてちらっ、とブルーベルを見るのだけれど。








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